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最終話 幸せな未来へと

 

 ◇◇◇



 呪いが解けて、二人の想いが通じ合ってからというもの、リズリーはクリスティアとともに公爵邸から実家へと戻った。


 呪いが解けたことで両親との関係はもとに戻り、改めてルカに挨拶に来てもらうことによって、二人は正真正銘正式な婚約者となった。


 職場の人たちとの関係ももとに戻り、リズリーが過去に考案した『怠惰』と称されていた術式は、今や高く評価されている。


 そして、ユランのやったこと──呪いに関するについては、箝口令が敷かれた。

 呪いが悪用されたことが広まれば、第二のユランのような人物が現れるかもしれないと国王が判断したためだ。


 そんなユランは今、地下で幽閉されている。

 ルカ曰く、一生幽閉は解けないだろうとのことだった。


 本来ならば死刑でもおかしくなかったのだが、リズリーとクリスティアが死刑までは望んでいないと国王に伝えたことでこのような処遇となった。 


 この先の未来、ユランが少しでも心穏やかに過ごしてくれればとリズリーは祈るばかりだった。



 そして、半年後。

 空が澄みきるある日、大聖堂にある控室で待機するリズリーとルカのもとにやってきたのは、クリスティアと両親だった。


「リズリー! 結婚おめでとう!」

「術式にしか興味がなかったリズリーが結婚とはなぁ……」

「貴方、泣くのは早いわよ」


 今日、大聖堂ではルカとリズリーの結婚式が行われる。

 リズリーを囲む彼女の家族たちは、皆すでにうっすらと涙ぐんでいた。


「リズリー……とっても、とっても……とーっても、綺麗よ!!」

「ええ、本当に綺麗……」

「ああ。嫁に出すのが惜しいくらいだ」

「……っ、ありがとうございます、お姉様、お母様、お父様」


 純白のウェディングドレスに、繊細なベール。

 胸元に光るのは、母から譲り受けた真珠のネックレス。その下には、ルカからもらったユニコーンのネックレスが光る。


「失礼いたします。そろそろ挙式のお時間ですので、ご準備をお願いします」


 用件を告げられ、リズリーはルカの手を借りてゆっくりと立ち上がる。

 すると、リズリーの両親はルカに深く頭を下げた。


「娘を、よろしくお願いします」

「……! もちろんです。全身全霊をかけて彼女を守り、そして、幸せにします」

「ルカ様……」


 ふぅ、と息を吐き、クリスティアは両親の肩をポンと叩いた。


「ふふ、お父様もお母様も大丈夫よ。何と言ってもアウグスト様もリズリーも、互いをとても大切に思っているもの。そんな二人が、幸せにならないはずはないでしょう?」


 クリスティアの言葉に、皆がその場で頬を綻ばせた。



 ◇◇◇



「では、誓いのキスを──」


 大切な人たちの前で愛を誓い合った二人は、改めて幸せを感じながら微笑み合い、無事に挙式の終わりを迎えようとしていた。


 大聖堂の外の階段にはリズリーの家族やルカの家族、ジグルドやゼン率いる第二魔術師団の面々やシルビアにバートン、友人たちや術式絵師課の同僚たちなどが二手に分かれて列を作り、待機してくれている。 


 あとは皆の中央を歩き退場するだけなのだが、ルカとリズリーはゆっくりと足を止めた。


「リズリー、この半年間、本当によく頑張ってくれた。ありがとう」

「いいえ、ルカ様や皆様の協力のおかげです」

「本当に謙虚な奴だ。……まあいい。早速始めようか」

「はい、ルカ様」


 ルカは参列者の中にいる第二魔術師団の仲間たちに目配せで合図を送る。


 すると、彼らは懐から取り出した花の形に折った多くの魔法紙を空に向かってふわりと投げた。

 そのタイミングでルカが風魔法を使うと、花の形をした魔法紙がふわふわと宙を舞った。


「えっ、これは……?」

「紙で作ったお花なのかな? 可愛いわぁ〜!」

「凄いな……! 浮いてる!」


 あとはリズリーたちの退場のみだと思っていた多くの者たちが、驚きの表情を見せる。


 一方でルカはリズリーと改めて目を合わせ、コクリと頷きあった。


「これは、我々夫婦から、挙式に参列してくれた皆様へのささやかながらの感謝の気持ちだ」


 ルカはそう言うと、宙に舞う魔法紙に向かって己の魔力を放出した。 


 魔力が注ぎ込まれた花の形をなした魔法紙は、散り散りに消えていく。

 青空に映える太陽によって、それは宝石のようにキラキラと鮮やかな光を放った。


「ルカ様……」

「ああ」


 その光は空一面に広がる。

 皆が「綺麗!」「宝石が舞ってるみたい!」とその美しさに夢中になる中、リズリーはルカの手をぎゅっと握り締め、宙を見上げた。


 魔力の流れが見えるルカの目にのみ映る、空に広がる薄いガラスのような結界。空一面に広がる光と同じように広がっていくそれは……。


「本当にリズリーには驚かされるな。まさか、国中を覆う対呪いの結界の術式を作ってしまうなんて──」


 アウグスト邸に張られている対呪いの結界よりも極めて強力で、国全体を覆えるほどに広範囲に張れるよう応用された結界。


 本来、こんな結界は作れないはずだった。

 対呪いの結界の情報が記載された文献は古く、擦り切れていてほとんど読めなかったためだ。


 しかし、リズリーは術式絵師。

 そして、呪い返しが起きないような解呪の術式まで作り上げた天才だった。


 彼女はほんの些細な情報から対呪いの結界に必要な術式を予測し、自分の知識やこれまでの経験を活かして試行錯誤を重ね、そしてやっと数日前に術式が完成したのだ。


「──これでやっと、誰一人呪いで悲しまなくていいんですね」

「ああ、そうだな。……もう、安心だ」


 苦しく、悲しかった日々。

 あんな思いを誰かがするなんて、リズリーは絶対に嫌だった。


 その強い思いが、願いが、今日ようやく形となったのだ。


「ふふ、ほんとに、良かったぁ……」


 リズリーの瞳には、僅かに涙が滲む。

 ルカはリズリーの頬を優しく撫でてから、その世界で最も尊く美しい涙を流す瞳の傍に、そっと口づけた。




 〜完〜

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