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55話 その腕に安堵する

 

「ユラン・フロイデンタール! 早くリズリーから離れろ! さもなくば手段は選ばない!」


 こちらに向かって走りながらそう叫ぶルカの発言に、ユランはリズリーに向けていた視線をゆっくりと彼の方に移した。


「ハァ……良いところだったのになぁ」


 ルカに問いかけたというより独り言のそれは、焦りを一切感じさせない落ち着いた……いや、淡々とした冷たい声色だった。

 けれど、瞳には怒りを超えた狂気のようなものが滲んでおり、向けられたわけでもないのに、リズリーは体温がぐっと下がる感覚がした。


(あ……)


 しかし、同時にユランの手首を束ねる手の力が弱まったことに気付いた。おそらく、意識をルカに割いているからだろう。


(今なら──)


 ユランの拘束から逃れられるかもしれない。

 リズリーは腕に思い切り力を込めてユランの両手から逃れると、彼の胸板を思い切り押して距離をとった。

 それから迷うことなくガゼボの直ぐ側まで来ていたルカのもとへ逃げるように走った。


「ルカ様……!」

「大丈夫か? 怪我は……!?」


 ルカに力強く抱き締められ、その体温や香り、トクトクと刻む、いつもより速い心臓の音を聞いて、ホッと安堵する。

 そのせいか、身体の緊張が解け、リズリーはルカに全てを任せるように彼に体を預けていた。


「リズリー……?」

「大丈夫、です。ルカ様、来てくださってありがとうございます……」


 しかし、安堵すると思考が、一部冷静になった。


「あの、なぜルカ様はここに……?」


 このガゼボは、会場からかなり離れている。

 決して目視でリズリーとユランの存在は確認できない距離の上に、会場には生演奏が響いているので、リズリーの叫び声が聞こえるわけもない。


「……まあ、あれだ。お前を探していて、偶然だ」

「そ、そうなんですか?」


 なんだか歯切れの悪い言い方だが、今はそこを深掘りしている場合ではない。リズリーは口を閉ざした。


 ルカは抱き締めていた腕を解くと、自らの背中に隠すようにリズリーを後ろへ誘い、ユランと向き合った。


「ユラン・フロイデンタール……お前、リズリーに何をしようとした」

「リズリーとの久しぶりの再会に感極まってしまっただけだけど」

「ふざけるな……! お前がそんな態度なら、質問を変える──ユラン・フロイデンタール、お前が、リズリーを呪った犯人で間違いないな?」


 敵意を剥き出し、断定的な物言いをするルカに、ユランは口の端に笑みを浮かべた。


「ははっ、さっきリズリーにも言ったけどさ……そうだよ、僕が犯人」

「やはり、お前が──」


 ルカの言葉を遮るように、ユランは顎に手をやり、「うーん」と悩み始める。


「全く驚く様子がないあたり、リズリーにかけた犯人が僕だっていう確信があったみたいだね。……まあ、それもそうか。あの第二魔術師団の団長だし、呪いに関しては誰より詳しいよね。とはいえ、なんで君にはリズリーの呪いが効いてないんだろう? 突然婚約したのもおかしいし」

「……お前に説明する義理はない」


 疑問を一刀両断されたユランは、「つれないなぁ」と柔和な表情を浮かべる。


 だが、それはほんの僅かな時間だけだった。

 ルカが来た方向──会場の方に一瞥をくれたユランは、獲物を狙うかのような鋭い眼差しでルカを睨み返した。


「……まあ、何でも良いけどね。理由は何であれ、邪魔な君さえ消えてくれれば、それほど大きな問題じゃないから──クリスティア!」

「「!?」」


 クリスティアの名を口にしたユランに驚いたリズリーとルカは、揃って会場の方に視線を向ける。

 そこには、こちらに向かって勢いよく走ってくるクリスティアの姿があった。


「クリスティア! 公爵をリズリーから引き離せという命令もろくに達成できないお前でも、得意なことがあるだろう!?」


 ユランの言葉と、クリスティアのやや虚ろな視線がルカだけを映していること。

 それらから、クリスティアはユランにかけられた洗脳魔法により、ルカをリズリーから引き離さなければと追ってきたのだと想像できた。


(でも、クリスティアお姉様の得意なことって……。まさか……!)


 クリスティアは、膨大な魔力量を持つ、戦闘を得意とする第一魔術師団の魔術師。そんな彼女が、隠し持っていた術式が描かれた魔法紙を取り出した。


(──あの術式に描かれているのは、風魔法で最強の強さを誇る攻撃魔法じゃあ……)


 これから起こることを想像できてしまったリズリーの顔は、さあっと青に染まった。


「お前の魔法で、ルカ・アウグストを殺せ!」

「リズリー! 絶対俺の前には出るなよ!」

「……っ、ルカ様、はいっ」


 クリスティアが術式を発動させると同時に、ルカはジャケットの内ポケットから術式が描かれた魔法師を取り出した。クリスティアと同じ、風の攻撃魔法だ。


(……二人とも、なんて威力なの……!)


 風魔法同士がぶつかった、甲高い音が辺りに響いた。一瞬嵐のような風が辺り一帯を包み、庭園に並ぶ草木や、咲き誇る花々は激しく揺れる。


 自身の魔法でクリスティアの魔法を相殺させたルカは、再び攻撃をしようとするクリスティアよりも早く、次の術式を手に取った。


(これは、以前私が渡した、クリスティアお姉様の洗脳を解除するもの──)


「リズリー! このままでは埒が明かない! 今からクリスティア嬢の洗脳魔法を解くぞ!」


 ルカはそう言うやいなや、魔法紙に魔力を込め、術式を発動させる。


「うっ……」


 術式を受けたクリスティアは僅かに苦しむ様子を見せたが、次の瞬間、ぷつりと意識を失い地面に倒れた。

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