ヘイツ&ベイツ
ヒョコタンと不器用な動きで階段を降りてきたのは、全裸にわずかな革帯だけを身に着けた獣人たち。
人狼か狐かコボルトか、犬っぽい感じのが半分くらい。あとは猫っぽいのやらクマっぽいのやら、種族も年齢もバラバラな獣人が八名。顔には苦悶の表情を浮かべ、半開きの口からヨダレと泡を吹いている。
「……シェーナ、あれ拘禁枷」
「わかってる。あいつらの意思じゃないんだろ。殺したりしない」
それぞれ、手には見るからにゴミみたいなボロボロの刃物。ゴブリンあたりが使ってそうな鉈やら手斧だ。操り人形にして嗾けるときでさえ、まともな武器を持たせる気がないってか。
あの偽王ども、どんだけ亜人を下に見てるんだ。
「ふたりとも、下がってろ。ここは、あたしの出番。だろ?」
ミュニオにしてもジュニパーにしても、あんなのは瞬殺できる楽な的だ。でも、この場であいつらを救えるのは、あたしだけ。
自分でも馬鹿みたいだなって、思う。ミュニオと出会った頃を思い出して笑う。あたしたちは、きっと変わってない。どんだけ苦労しても、成長し切れていない。
お互いを必要として。それ以上に、必要とされることを必要としてる。
「シェーナ?」
苦笑するような感じで、ミュニオが声を掛けてくる。あたしは振り向かずに手を振って、銃を収納に仕舞い込む。
「ああ、わかってる。伝わってるよ。無茶はしない。焦ってもないし、何も証明しようとなんてしてない」
「うん。でも半分はウソだよね?」
バレてる。そりゃそうだよな。隠し事をするには、気持ちが通じ過ぎてる。
「まあな。お前らと同じだ。ちょっとくらいはさ、カッコつけたいと思ってんだよ」
距離を取ったままで収納を試すが、弾かれた。青白い光が飛び散って、指先に軽い痺れが走る。
まだだ。近付けば、いける。
「「ああああああぁッ!」」
攻撃命令でも送られたか、獣人たちは悲鳴を上げながら武器を振りかぶる。
その隙に距離を詰めると、手前にいた猫っぽい女の子を引っつかんで枷を収納。引き剥がした勢いのまま後方ミュニオたちの方にぶん投げる。
「ミュニオ! 治癒魔法を頼む!」
「わかったの!」
その隣にいたクマっぽい成人男性と、虎っぽい女性。危ないので背後に回り込んで斧や鉈を収納、その後に枷を収納して、棒立ちになったところを全力で突き飛ばす。
スマンここにいちゃ危ないんだけど、体重差があり過ぎて他に避難させる方法がない。
「どんどん行くぞ!」
次は小型犬風な子供ふたり。ぶんぶん振り回していた短剣を蹴り飛ばし、枷を収納して背後へと床を滑らせる。並んでコロコロと転がっていった毛玉がふたつ、ミュニオに無事キャッチされた。
残り、三人。奥にいる人狼の男性が、ちょっとどころじゃなく手強そうだ。
「上からの敵は、ぼくに任せて!」
「うえ?」
ドゴンと轟音が響いて、階段の上から杖が転げ落ちてきた。ジュニパーが大型リボルバーで援護射撃をしてくれたんだろう。
銃声から少し遅れて、踊り場に魔導師っぽいエルフの死体が現れる。
「さんきゅ」
隠蔽魔法で姿を隠していたそいつが、獣人たちを操っていた魔導師だったらしい。残る三人の動きが鈍くなる。
その隙を見逃さずに距離を詰めると、全員の武器を収納してさらに近付く。
手前から向かってきた狐っぽい顔の女性の胸元から枷を収納して振り払い、回り込もうとしていた猫耳の男の子の枷も収納で剥ぐ。
ラスト、と顔を上げたときには人狼男性の顔が目の前にあった。
「まずッ!」
反応する間もなく蹴り飛ばされて転がる。両手で防いだつもりだったけど、筋力と敏捷性の差はいかんともしがたい。ミュニオのいた場所まで吹っ飛ばされて、身動きできない。息が詰まって、目の前がチカチカする。腕が痺れて力が入らない。
武器は奪っておいたけれども、人狼の成人男性なら、あたし程度は素手でも殺せる。
「任せて」
あたしの前に割り込んだジュニパーが、人狼男性のパンチをあっさりと掌で止める。すかさずもう片方の手が振り抜かれるものの、再びガッチリとキャッチして、あたしを振り返った。
「いいよ、シェーナ行ける⁉︎」
「……ちょ、待て……ぬぁあッ!」
収納。床に転がったままだけど、なんとか成功。人狼男性は脱力して膝から崩れ落ちた。
「ミュニオ!」
「わかったの!」
治癒回復魔法が、男性の身体で青白い光を放つ。顔を上げた彼の目を見て、理性を取り戻したのがわかった。
「あ、……ああ、俺は」
「大丈夫、もう拘禁枷は外したからね。少し休んでて」
「ちょっとだけ、ここにいて。後で、必ず迎えに来るの」
ジュニパーとミュニオにいわれて、へたり込んでいた獣人八名はポカンとした表情になる。
「最後の最後で、気ぃ抜いちゃったな」
「ううん、シェーナのお手柄。“けっかおーらい”なの♪」
なんとか立ち上がったあたしの背に、ミュニオが治癒魔法を掛けてくれる。とたんに呼吸が楽になって、手足も痛みが消えた。
申し訳なさそうな顔で口を開き掛けた人狼男性に、あたしは気にするなという意思表示で首を振る。
「むかえに……って、ねえちゃんたち、どっか、いくの?」
双子っぽい――コボルトかな? 男の子がふたり、あたしたちの顔を不思議そうに見た。やっぱコボルト、可愛いな。感情表現が真っ直ぐで、裏も面もない意思が眩しい。
あたしはワシャワシャとモフり倒したい欲求を抑えて、ふたりの頭をちょっとだけ撫でた。
「上階だよ。ちょっとミキマフを、殺してくる」
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