屍の城
少し走ると森が切れて、不自然に開けた場所に出た。森の端に停車したランクルの荷台で、あたしたちは目の前の寂しげな光景に呆れる。
周囲の焼け焦げた土と朽ちて散らばった倒木を見る限り、意図的に植生を焼き払ったのだろう。視界を確保するためか、それとも“恵みの通貨”を遮断するためか。麓の平地が四、五百メートル四方、わずかな雑草だけを残した荒地に変わっていた。
荒涼とした平地の先には、これも緑の乏しい岩山。その頂上にそびえるのは城というよりも盗賊砦のような印象がある石造りの建物。山腹を巻いた緩い坂で繋がっているようだ。
「緑に喰われるのを、よっぽど恐れてるんだね」
そらまあ、そうかもしれん。実際に見たのであれば、わからんでもない。でも、なあ……。
「……変なの」
あたしと同じような感想を持ったのか、周囲を見渡していたミュニオも怪訝そうな顔で呟く。
「これだけの対処をするくらいなら、ソルベシアに止まる必要はないと思うの」
「だよな。帝国側に行けば、緑なんてほとんどないし。イーケルヒだっけ、大陸中北部に戻れば順当に再興のチャンスだって、あったと思うんだけどな」
「それを望んでいるようには、見えないね。ここに思い入れがあるのか、王を名乗った意地か、損得か、執着か……」
ジュニパーが車から降りて、水棲馬姿に変わる。
「行こう、知りたければ、本人に訊くしかないよ。シェーナも、いってたでしょ? ミキマフが何をしたいのか、わからないって」
「ああ」
頷いてはみたものの、正直わかりたいとも思わない。何も考えてない、ただの馬鹿じゃないかと踏んでいる。
小さく息を吐いて、ミュニオが背筋を伸ばす。
「ミキマフが何を望もうと、関係ないの。ここで終わらせないと、いけないんだもの」
あたしたちは荷台から降りて、ランドクルーザーを収納した。銃は装填済みだけど、ジュニパーが全力疾走するなら収納にしまっておく。あんなロデオな新幹線、乗ってる途中で撃ったって危ないだけで当てられる気がしない。
「あたしは前と後ろ、どっちが良い?」
「ミュニオを前にした方が、バランス良いかな」
「おっけ、そんじゃジュニパーお願い」
ジェントルな水棲馬ガールは、あたしとミュニオを背に乗せると、ゆっくりと走り出す。
森を出て平地へ。山道の入り口まで、直線距離で四百メートルほど。その間に遮蔽はひとつもない。あのゴーレムは番兵なんだろうし、きっと接近は知られてる。ここまで備えているのだから、対処してこないわけがない。
平地の半分くらいまで来たところで、遠雷砲による攻撃が降り注いできた。ここでようやく気付いたのか、頂上にある山城からの距離が射程内になったのか。意外に反応が遅いように思えた。
「つかまって!」
二射、三射と地面で土と石塊が弾ける。遠雷砲は、頂上で光った後こちらに着弾するまで半秒くらいのタイムラグがあった。その間に軌道を大きく変えることで、ジュニパーは易々と攻撃を躱してゆく。
岩だらけの山肌は崖に近い斜度で、通行可能な道は山をぐるりと回り込みながら上がってゆく坂だけだ。当然その途中にはバリケードや待ち伏せが用意されているんだろう。
急勾配が隘路として機能するのも、通るのが人や並の馬なら、だ。
「行くよ!」
嬉しそうに声を張ると、ジュニパーはグンと加速する。
「ちょ、ちょい……待ッ」
真っ直ぐ斜面に突っ込んでいった馬体はそのまま崖面を跳ね飛びながら上がってゆく。なんとかミュニオに抱きついて落ちないようにしてはいるけれども、恐怖で固まるあたしの体感じゃ、この傾斜はほぼ垂直だ。
しかもその高度が、ものっそい勢いで上がってく恐怖の逆バンジー(紐なし)!
「にゃああああああぁ……ッ⁉︎」
必死にしがみつくあたしを振り返って、ミュニオとジュニパーは嬉しそうに笑う。
「シェーナ、かわいいね♪」
「仔猫みたいなの」
うるせえ怖いもんは怖いんじゃい! とは思うものの反論する余裕はない。声も出ない。目をつむりかけて、敵陣に突入中だと思い直す。断崖絶壁をロケットみたいな勢いで駆け上がってるのに、周囲を細かく観察しなきゃダメとか、絶叫マシーン嫌いな身には生殺し感ハンパない。
「がんばってシェーナ、もう少し!」
いや、いま頑張ってるのは主にジュニパーなんで気遣いは良いから早く到着してくれ頼む。
ふわりと胃袋が持ち上がるような感覚の後、目の前にテニスコートほどの平地が現れた。
「よっし、着いた……」
平地の先に入り口が見える城本体は、山頂の地形を利用して壁面が斜面と一連になっている。広い水平面は、目の前のこれだけ。それが坂を上り切った城の入り口前にある、ということは敵襲を事前察知し撃退するための機構だろう。日本史の資料で見た記憶が……馬出、だっけか。
「避けて!」
ミュニオの叫び声と同時に、人型に変わったジュニパーが横っ飛びで回避する。あたしとミュニオをお姫様抱っこでホールドしたまま、ひょいひょいと降り注ぐ鏃を避けながら城の入り口まで走り込んだ。
「ありがと、ジュニパー。おつかれさまなの」
うん。ジュニパー先生には大活躍してもらったし、大変お世話になったので申し訳ないのだが。ヒルクライムの後に高速の反復横跳びで振り回されたあたしは激しく気持ち悪い。
口を開くと戻しそうなので、笑顔で頷きながらペシペシと背中を叩いて我らが駿馬ガールの功績を褒め称えた。
そのまま城内に振り返ったあたしは、待ち構えていたものを見て思わず口を開いてしまう。
「ゔぉえッ⁉︎」
びたびたびた……




