自ら助くる者を
あたしは収納のなかを引っ掻き回して、使えそうな武器はないかと探す。
当然ながら、銃なんか触らせる気もない。渡すとしても、せいぜい複合機械弓と強化ゴムパチンコとかくらいだけど。ほとんどオアシスに置いてきちゃったな。まあ、いっか。どんどん、助ける気が萎えてきているのを感じていたのだ。
なにせこのジジイ、自分から動く気配すらない。
「……おわりだ」
ああ、それは当然そうだろよ。そこで座ったまま“誰かが助けてくれる”とでも思ってんなら、すぐに終わりのときがくる。若くて可愛い女の子なら助ける男もいるかもしれんけどさ。
ミチュの仔猫ちゃんたちとの違いは……第一印象とか好みの問題が大きいのは否定しないけれども、まず生きるための自主性と積極性だ。四人のお仲間に待ち伏せさせといて自分たちは柵のなかで息を潜めてるって、なにそれ。他人が非難する筋合いでもないけど、さすがにそんな奴らを助けてやる義理もないだろ。
「外に出てた四人は、どういう連中だ」
「元々、この村の人間じゃない。荒事を生業にしていた人間で、戦闘に慣れてる」
最低だ。やっぱ、こんな奴らを助けるとか、ないわ。あたしは滞在を諦め、手を貸すのもやめた。
「慣れていようがいるまいが、何十人もいる盗賊団と命懸けで戦わすんだろ。アンタたちは、彼らに何を提供したんだ?」
「……あ、う……それは、寝る場所と、食事を」
「じゃあさ、あたしがたっぷり飯を出してやるから、アンタが行けよ」
キレかけてるのが、自分でもわかった。他人事なんだから放っておけと、心のなかでは思ってるんだけど。
「行けるわけねえよな。腑抜けの老いぼれがさ」
「こ、これは、村の問題だ! 余所者に、なんの関係がある!」
「だよな」
あたしは家から出ると、ランクルのみんなに手を振って撤収の合図をした。降りてくるのを待ってもらって正解だったわ。
村の人間は、まだ誰も出てこない。あたしたちが立ち去るまで、ずっと出てこないんだろうな。
「行こか」
「シェーナ、いいの?」
「うん。もう敵が来ても自衛以外じゃ撃たなくていいぞ。タマの無駄だ」
運転席に向かうあたしに、立っていたクマ獣人と虎獣人のふたりが目顔で礼とも詫びともつかない挨拶をしてきた。
「あんな奴らのために無理しないで、自分たちが生き延びることを考えた方がいいぞ」
あたしはそういって、収納に死蔵されてた武器をいくつか渡す。道中で殺した敵から奪った、安物の剣とか、使い込まれた槍とか弓矢とかだ。ないよりマシ程度のもんだけど、防衛団の装備はもっと貧弱だったから、けっこう本気で感謝された。
「それじゃ」
ランクルを走らせ、柵を越えて北に進路を取る。荷台から、気遣うような声が聞こえてきた。
「こんなこともあるの。気にしちゃダメなの」
「わかってるよ、ミュニオ。気にしてなんかいない」
良い奴ばかりじゃないし、良い思い出ばかりじゃない。当たり前だ。ちょっと気を抜けば死ぬような世界で、良い奴でい続けることなんてできない。前にもあったし、これからもある。ミチュの村でだって、似たような思いはした。それでも。
「……なんだかな」
小さくボヤキが漏れた。




