震える村
念のため、盗賊たちの死体はあたしが収納しておいた。武器は安物、服はボロボロで、金目のものも持っていない。
盗賊になるくらいだから、そんなもんか。
「……ありがとう、助かった」
クマ獣人の男が、少し困ったような顔で礼をいった。こちらの素性がわからない上に、とうてい敵わない戦力だと思い知らされたからだろう。
「気にすんな。あたしの仲間を守ったついでだ」
「旅してるって、目的地は?」
「あたしたち三人はソルベシア。コボルトたちは、とりあえずこの先の山だか森だかを目指してたみたいだな」
「長に報告する。一緒に来てくれるか」
男たちの案内で、柵のなかまでランクルを乗り入れる。集落のなかは、ひと気がない。どこかに避難しているんだろうか。
あたしたちが連れて来られたのは、一番大きな建物の隣にある古民家だった。扉の奥には廃屋めいた居間。そこには痩せこけた初老の男がいた。人間で、目が泳いでる。それで、状況がわかった。
「アンタが、この村の長か」
「あ、ああ。マスケルだ。村を、救ってくれたと聞いてる」
「まだ救ってないな。このままだと、本隊に蹂躙される。だろ?」
マスケルはドヨンと疲弊した顔で頷く。そらそうだ。敵があたしたちの殺した九人だけで後は安泰だとわかってるなら、集落内部の空気はここまで緊迫していない。
「……もう、終わりだ」
「それを否定する気はないけど、盗賊団が激昂するようなことをしたのか?」
マスケルが答えないので、あたしたちは防衛団員の方を見る。
こいつらも目を逸らしてモゴモゴいってるけど、要約すると盗賊団に迎合して付き合いきれなくなり裏切った、ってことらしい。
ショバ代払ってケツ持ちさせて、後から付き合いを切るってパターンか。だったら最初から……なんていえるのは力かコネを持ってる奴だけだ。あたしは黙って繰り言を聞く。
「ソルベシアから流れてくる盗賊や化け物どもは引きも切らない。だったら、力のある盗賊団に守ってもらう方がマシだと思って……」
「それが、この状況か。あたしたちが同類だとは思わなかったのか?」
「……ああ、うん」
目を逸らしたところを見ると、思ってはいたのだろう。返答するより早く盗賊団が到着しただけだ。
「敵の規模は」
「……わからん。前に恫喝してきたときには、騎馬の男たちが十、徒歩の男たちが三十ほどだったが」
「それで全部って保証はないわけだ」
「君たちに、盗賊どもを排除してもらうには、何を渡せばいい」
「だーから、そういうとこだろ⁉︎」
「え?」
「そうやって、その場限りの判断で問題を先送りにするから、後に負債ばかり残るんじゃねーかよ。戦え」
「でも」
「最初は助ける。でも、この提案を拒否して隣に立て籠もるんなら」
あたしは長を見る。
「アンタたちは、ここで終わりだ」




