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第六話 救出

 セト達と別れ俺は、周囲を警戒しつつ教会の中を走っていた。


「誰もいないな……、まさかあれで全部だったのか?」


 少し探ってみたものの、教会の内部に魔力反応も人の気配も、ただ一人だけしか見付けることが出来ない。

 その一人というのが、恐らくセトの妹なのだろう。


 ただ、俺でも感知できない高度な隠蔽を行使している者がいなければ、という但し書きの下でだが、まあそこは大丈夫だろう。


「罠が仕掛けられてる訳でも無さそうだし……」


 万が一の為の対策が仕掛けられているかもしれないとも考えていたのだが、どうやらそのような類のものもありそうにない。

 つまり今この教会は、もぬけの殻という言葉が一番しっくりくる状況にある。


 それから暫く進むと、目の前に一つの扉が現れた。この教会の大きさを考えると、あの奥が教会の中心に位置する場所だ。

 そこに、一人の魔力反応も存在している。


「此処……か」


 扉の前で一旦立ち止まる。

 かなり大きな扉だ、俺が十人程で肩車をして漸くてっぺんに届くかどうかという高さ。

 その扉に手を掛けて、ゆっくりと押していく。


「……いた」


 部家の中央に刻まれた大きな魔方陣の上に、少女はいた。


 真っ白な装束を身に纏い、小さな寝息をたてながら眠っている。

 歳は……やっと成人したくらいだろうか?

 セトと同じ明るい栗色の髪が短めに切られており、少し幼い印象を受けるものの、しかし綺麗に整った顔立ちをしている。


 美少女といっても十分に差し支えないだろう。


「この子が、セトの妹。……疲れて眠っているのか」


 確かに、セトと雰囲気が少し似ているような気がする。


「ッ!」


 俺は少女の首元にある〝それ〟に気付いた時、思わず息を詰まらせた。


 そこにあったのは、──隷属の首輪。

 身に付けた者を強制的に隷属させ、主の命令を絶対遵守させる強力な魔道具。

 その効果は凄まじく、隷属の首輪を身に付けた者の生命の維持に直接関わらない限りは、どんな命令でも強要させることが出来る。


「無理やり、させられたのか……」


 ふと、以前王都で出会った、隷属の首輪を付けられた獣人族の者達を思い出した。

 やはり何処に行っても、この首輪を卑劣に悪用する奴は存在する。それを俺は改めて痛感した。


 少女の前で膝をつき、時空魔法によって隷属の首輪を外す。

 そして、少女の首から俺の左手へと転移した隷属の首輪を、込み上げてくる怒りとともに力任せに握り潰した。


「これでもう大丈夫だからな」


 静かに眠っている少女に、俺は優しく囁いた。


「それで、この魔方陣は……」


 これだけ精巧に作られておいて唯の飾りという訳では無いだろうし、やはり何かに使用するものだと考えるのが妥当……か。

 それに、もう予想はついてるんだけどな。


「もしかしなくとも、ガーディアンを召喚した魔方陣だよな」


 大抵の召喚は魔道具で出来るものだが、世界を越えるとなると、それだけ繊細で緻密な構造が必要になってくる。

 この世界と別の世界を繋げるだけでも、聖国の技術がどれだけ高いのかが垣間見える。


「やっぱ用意してきて正解だったな」


 今朝の内に用意しておいたモノを亜空間から取り出して、その場にゆっくりと置く。

 それは飽和ギリギリまで魔力を込めた魔石が三十個ほど入った袋で、少しでも衝撃を与えると一瞬で爆発するようになっている。

 この教会の大きさなら、問題なく無に返すことが出来るだろう。


「さて、行くか」


 いまだ眠ったままの少女を背負い、俺はその部屋をあとにした。

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