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第三話 セトの故郷 ⑥

「天使を操っている者に会いに行くにあたって、お前達には気配察知……索敵の技術を覚えてもらう」


 村の外の開けた場所に移動して、俺は開口一番にそう言った。


「索敵、ですか?」

「身につけるって……、そんなすぐ覚えられるものなの?」


 ナディアの疑問は尤もだ。

 いきなり覚えろと言われてすぐに使えるようになるものならば、現代まで奇襲というものが続いている筈がない。

 まあ、中にはあっという間に使えるようになる天才もいるかもしれないが。


「実戦を視野に入れないのなら、意外とすぐに覚えられる……が、最低でも故意に気配を消していないものくらいは把握できるようになってほしい」


 それが、現段階で要求する最低レベル。

 できないようであれば、村に置いて行くというのも視野に入れようかと考えているくらいだ。


「頑張ります!」

「私も」

「こんなのすぐに覚えてやるわよ!」


 三人ともやる気は十分のようだ。

 あっという間に三人は体内の魔力を高め、それを体外に放出し始める。


「むむむ……!」

「…………っ……!」


 魔力を感じ取ることができない者が見れば、何をしているかさえわからない。

 ただ唸っているだけのようにしか見えないだろう。


 俺は、眼に魔力を集中させた。


 それによって俺の視界に変化が起こる。

 具体的には、三人の身体に巻き付く魔力が視えるようになったのだ。

 彼等の魔力は、俺の眼には不自然にうねる白い煙のように見え、触手のように動いている。


 ──【疑似魔眼】と、俺はそう呼んでいる。


 本来、魔力というのは感じることはできるが、それをものとして視ることはできない。

 それを成せるのは、数少ない【魔眼】持ちの者だけ。

 残念ながら俺は【魔眼】持ちではないので、普通なら魔力を視るなんて芸当は不可能だ。

 つまり、これは別の言い方をするならば、抜け道といっても過言ではない。


 といっても、この力は堂々と胸を張れるだけの努力を重ねて身につけたもの。

 なので並外れた努力をすれば、視力を上げるだけの視力強化を、魔力を視覚できる眼に昇華させることもできなくはない訳だ。

 しかも身体強化と同じ類いの、魔力操作の技術によるものなので、魔力持ちならば誰にでも習得できる可能性はある。


(まだ魔力の制御があまいな……。上手く索敵範囲を広げられていない)


 魔力のはっきりとした動きを見て、俺は三人の魔力操作の実力を推しはかった。

 結果は想像していた通り、あまり良いとはいえない結果だった。


 原因としては、三人の得物だろう。

 ナディアとアリシアは俺が与えた魔法杖、セトは聖剣。

 どちらも高スペックな武器で、使用者の魔力制御の手助けをや安定化をしてくれているので、なかなか魔力制御の力が上達しないのだろう。


「全然できてないぞ。もっと綺麗な円になるように魔力を広げていくんだ。ある一方だけじゃなくて、全方向にむらのないよう均等にな」

「うぐぐぐ……っ!」

「そんな事いったって……」

「……難しいです」


 まだ始めていくらも経っていないというのに、既に三人からやる気が落ちてきている。

 しっかりと自分の魔力を認識していないといけないけど、わかれば意外とすぐなんだけどな。


 ……仕方無い、少しだけ手伝ってやるか。

 手探りだけだといつになるかわからないしな。


「……私が教えようか?」


 俺が声を発する前に、背後から村長さんの声が聞こえてきた。


「村長さんは索敵できるのか?」

「君ほどではないけどな。これでも昔、冒険者をやっとったからの」


 へえ、そうなのか。

 あれだけの魔法が使えるのならもしかして……とは思っていたが、やっぱり冒険者だったんだな。


「俺も教えてやりたいのはやまやまなんだが……生憎、魔力持ちじゃないからな。今回は役に立てそうにない、すまん」


 ただ見ていることしかできないホシェルは、肩を落としながら謝ってくる。

 使えない者にどうこういうつもりは無いし、仕方無いことなので別に謝る必要はないのだが、ホシェルにとってその無力さは辛いもののようだ。


「じゃあ、ナディアとアリシアの方を頼めるか? 俺はセトを教えるから」

「嗚呼、了解した」


 村長の了解を確認してから、俺は三人の方へと振り向いた。


「んじゃ、そーいう事だからセト、俺についてこい」

「はい! 二人も頑張ってね!」

「頑張る……!」

「任せなさい、セトの方こそ頑張ってね!」


 そうして俺とセトは、少し離れた山林の中へと向かった。




「それにしても、別の場所でやる必要なんてあるの……?」


 オルフェウスとセトの姿が見えなくなった後で、ナディアがポツリと呟いた。


「──あるぞ」


 声を上げたのは、村長だった。


「どういう事ですか?」

「君達は魔法使いでセトは剣士、それぞれ魔力の使い方が違うんだよ」


 アリシアの言葉に、ホシェルがそう答えた。

 しかしこれだけでは、具体的にはどう違うのかがわからない。


「まず魔法使いと剣士じゃ、魔法使いの方が圧倒的に魔力量が多い。これはわかるよな?」


 ナディアとアリシアが同時に頷いた。

 それを確認してから、ホシェルは更に説明を続ける。


「魔力の量によって索敵できる範囲が変わってくるんだ。魔力が多ければより広範囲を、逆に少なければ狭い範囲しか索敵できない」

「つまり、セト君は私たちより索敵の範囲が広くないって事ですか?」


 アリシアが言い、ホシェルがその通りとばかりに「嗚呼」と答えた。


「無理に魔法使いと会わせようとすると、索敵が甘くなって意味を成さなくなるからな。だからセトには、狭い範囲を確実に索敵できる技術が必要って事だ」

「そして魔法使いは逆に、広い範囲を索敵する技術が必要となる。得ることのできる情報が少ない剣士のために、君たちがそれをしなくてはならない」


 ホシェルの説明を補うように、村長が言った。


「なるほど……セトが気を逸らさないようにって事ね」

「やっと理解できました」


 漸く理解したナディアとアリシアに、村長は可笑しそうに笑いだした。


「セトが此処におれば、君たちの方が集中できなさそうだがな。──好きなんだろう?」

「「~~~~ッッ!?」」


 村長の完全な不意打ちに、二人の少女の頬は一瞬で染め上がる。

 その反応があまりにもわかり易いものであったので、そばで見ていたホシェルが堪えきれず、小さく吹き出してしまっている。


「なっ、ななな何を急に言っているんですか!?」

「そ、そうですよ! はは早く索敵を教えてください!」


 二人の少女は顔を赤くしながらも、何とかして誤魔化そうと話を別のものにしようとするが……。


「否定は、しないのだな?」




 ──からかうように笑って言った村長の言葉に、二人は大きな叫び声を上げた。

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