第二話 セトの故郷へ ②
「んじゃ、行くか」
振り返りざまに、俺はそう言った。
そこには三人の若い男女が立っていて、名前はセト、アリシア、ナディアだ。
……これまでと同じく、今回も四人での行動という訳だ。
「念のために確認しておくが、本当に行くんだな」
溜め息が出そうになるのを何とか我慢しながら、俺はアリシアとナディアに確認をとる。
「勿論よ、行くに決まってるじゃない!」
「困った時はお互いに助け合うのが冒険者ですから」
二人はやはりというか何というか、十分以上にやる気満々のご様子だった。
友情って、素晴らしいね。
「二人とも……、ありがとう、すごく嬉しいよ……!」
「「セト……!」」
……本当に、素晴らしいものだよ。
完全に蚊帳の外、除け者にされている俺は、それを見ながら一人疎外感を味わっていた。
「はいそこまでー!」
「あたっ!?」
見ていると無性にストレスが弾ってきそうだったので、その前にセトの頭をチョップして茶番を終了させる。
セトをチョップしたのは気分だ。特に理由はない。
「じゃあお前らも行くで良いんだな?」
俺は最後の確認をとる。
結果はやる前から分かりきっていたが、やはり着いてくるようだ。
まあ、この二人は俺が何といおうと着いてきそうなので、ここら辺で大人しくその事実を受け入れておこう。
「師匠」
等と内心で諦めをつけていると、セトが控えめに手を挙げた。
「はいセト」
「行くっていっても、どうやって行くつもりなんですか?」
挙げた手はそのままに、セトはもっともらしい質問をしてきた。
それに同調するようにアリシアとナディアも首を縦に振る。
「良い質問だ。じゃあセトはどうやって行くのが良いと思う?」
何となく学校の先生風の口調に似せている俺は、セトの質問に質問で聞き返した。
「えっ……えぇと、馬車……かな?」
「妥当な選択肢だな」
移動手段で最も普及しているのが馬車なので、すぐに取り寄せることも可能なので一番現実的な手段であるといえるだろう。
しかし馬車を使用するのはこの件に関しては不向きといえる。
「だがそれだとかなり時間が掛かってしまうぞ? 今回はどれだけ早くセトの故郷に到着するかが重要なんだぞ」
「確かに……」
正解に辿り着こうと色々と考えているようだが、恐らくセトに正解することはできないだろう。
正解を導き出せるのは、どちらかというとナディアとアリシアの方だ。
そう思いつつ二人の方へと視線を向けると、ナディアが手を挙げた。
「馬車じゃないんなら、竜車とか?」
「竜車か……。その手は考えてなかったな。ぶっちゃけそれでも良いかもしれないが、あれはすぐに用意できるようなもんじゃないからな」
竜車とは、そのまんま馬車の竜バージョンというだけだ。
レッサードラゴンという名前の通り、退化して翼を持たなくなったドラゴンと言われている。
翼を無くしたことにより地を走ることに特化した体躯に適応していったドラゴンは、今ではその圧倒的な速さが人間の移動手段として重宝されている。
まあ、明らかに普通のドラゴンより身体が小さいし魔法も使えないので、蜥蜴から進化したんではないだろうかと俺は考えているが。
「じゃあ、この前みたいに魔力で身体強化をして行くんですか? 私達は全員、魔力持ちですし……」
「ああ! きっとそれよ!」
「確かに、それなら馬車よりも速いし、今すぐにでも行けるね!」
恐る恐るといった感じでアリシアが出した予想に、ナディアがハッとしたように同調し、セトもまたそれだといわんばかりに納得した。
アリシアのいうあの時とは、以前一緒に受けたセディル大森林における調査依頼のことだろう。
「盛り上がっているところ悪いが、不正解だ」
「「えぇっ!?」」
「違うんですか!?」
魔力による身体強化を使う方法が正解だと確信していた三人は、ハズレだと知らされて肩を落とす。
そのシンクロした動きをする三人に、込み上げてくる笑いを堪えながら俺は言った。
「魔法を使うという考えは悪くない。が、それだと……」
「「「それだと?」」」
仲良く口を揃えて俺にその先を促してくる三人に、俺は腰に手を当てながら堂々と言った。
「それだと、──飽きる」
「「「……………………はぁ?」」」
俺の言葉が聞こえなかったのか、はたまた聞こえていてその反応だったのか、恐らく答えは間違いなく後者だろう。
まあ、飽きるというだけの理由でその手段をとらないというのは、我が儘なのかもしれないが。
「だってセトの故郷が何処にあると思ってんだよ? 馬車使って一ヶ月も掛かるんだぞ? その間ずっと走りっぱなしとか……普通飽きるわ」
というか、例え身体強化を使って行くにしても、走る距離は変わらない。
つまり移動速度が速くなるだけで実際は同じほどの苦労を味わっているという事になる訳だ。
「い、意外と自分勝手な理由ね……!」
「でも確かに、途中で魔力が切れちゃいますよね」
その通り。
俺にとっては微々たる量しか消費しないにしても、この三人にとっては過酷なものだろう。
「師匠、そろそろ教えてくださいよ」
「そうだな……よし!」
これ以上やっても答えは出てきそうにないので、俺は正解をいうことにした。
だが、普通に教えても面白くない。ということで──。
俺は亜空間から取り出したものを握り込み、その両手をセトの前まで持っていく。
「ほれセト、どっちか選べ」
「……何ですかそれ」
質問してくるセトの言葉を無視し、無言でその手を突き出す。
「じゃあ、こっちで」
セトが選択したのは右手だった。
開いた手からセトはあるものをつまみ上げて、それを目の前まで持っていきまじまじと観察する。
それは綺麗にカットされた宝石が存在感を強調しているネックレスで、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
「……これは?」
「自作の魔道具だが?」
「「「──ッ!?」」」
何だこいつら、いきなり真っ青な顔になって。
俺が魔道具を作れるのは知っているだろうに。
「そ、それって、師匠が今つけてるそれとは、違うやつですよね……?」
そう言ってセトは、俺の右手の中指にはめられている指輪を指差した。
「? 当たり前だろ。お前らがつけたら一歳の赤ちゃんにすら腕相撲で勝てなくなるぞ。というかどうやって行くかって話してるのに、そんなもん出さねぇよ」
「そ、そうですなよねっ。良かった……」
いったい何を心配していたんだと訊いてやりたいが、そろそろ出発したいので話を打ち切る。
俺は亜空間からもう二つの魔道具を取り出してナディアとアリシアにも渡し、それをつけるように促した。
「結局、これはどういった魔道具なんですか?」
「ん、嗚呼、飛行の魔道具だよ。魔力を込めれば『フライ』の魔法が使える。それと、あらかじめ魔力を込めてあるから、魔力の少ないお前達でも十分持つだろう」
ま、「フライ」の魔法しか使えないんだけとな。
これは以前、王城で暇潰しとして創った魔道具の一つで、これまで一度たりとも出番が回ってこなかったものの一つだ。
創るのは良いんだが、使い道があんまり無くてたまってく一方なんだよな……。
「それって、風魔法の上級魔法じゃないですか! 凄いですね!」
「……やっぱり、化け物」
「これ一つでいったいいくらするんですかね……?」
その後、何だかんだで時間が取られてから──。
「それじゃ、出発するぞ!」
俺達は、勢いよく空へと飛び立った。




