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第八話 建国祭(一日目) ④

遅くなってしまいごめんなさい!

 建国祭の開催を告げる開会式が終了し、今度は騎竜によるショーが始まった。

 王都の空には五体の騎竜が縦横無尽に飛び回っており、それだけで地上からは大きな歓声が響く。特にドラゴンという憧れの的が好奇心旺盛な子供達の心を鷲掴みにしたようで、無言で空を見上げる子もいたり、大きな声を出してはしゃぎ回る子供もいたりと本当に様々な反応を示している。

 それを人気のない階段に一人で座りながら見ていると、そういえば俺も小さい頃はああいう派手なものに憧れていたなぁ──と昔の記憶がふと蘇ってくる。俺は田舎も田舎の出身だったので村には特にこれといったものはなくて、いつも大人達がしてくれる話を楽しみに暮らしていた。

 その話の中にはドラゴンという魔物が登場するものもあって、口から火を吹いたり、大空を飛んだり、凄い魔法を使ったりすることが出来ると聞いた当時の俺は「大人になったらドラゴンになる」──という淡い夢を持っていた頃もあった。しかしその数日後にはまた別のものになるという夢になっていたり、あの頃は本当に色々なものに興味を持っていた。

 いまとなっては良い思い出だ。


「なに一人で笑ってるの?」


 幼少期の思い出にって(ひた)いると、ふと後ろの方から声をかけられた。

 振り向かずともその声の主が幼女だと察した俺は、空を見上げながら言葉を発した。


「見れば分かるだろ?」

「……ふーん」


 幼女は俺の隣に腰を下ろしてまだ手をつけていなかった、一口サイズの砂糖がまぶしてあるパンが入った紙袋に手を突っ込み、勝手に食べ始めた。

 もう人の買ったものを我が物顔で食べるこいつにも慣れたもので、言っても治らない相手にいちいち文句を言うのも面倒になってしまった。


「お前は誰かと行かないのか?」

「うん、夕方には帰らないといけないから」

「帰る……?」


 そういえば幼女って依頼の為に此処に来たとか言っていた気がする。

 という事はつまり、用事が終わったから帰るということだろう。


「ん、私は聖国から来た」

「へぇ」


 聖国、俺の知っている限りではいくつもある教会の総本山のある所だったか。ここオルストにもかなり大きな教会はあるが、いま思い出すと一度も行ったことがないな。

 そう思いながら持っていた紙袋に手を入れると、あれほどたくさん入っていたパンは全て幼女の腹の中へと収まった後だったようで一つも残っていなかった。

 こいつ……、自分で買ったものじゃない癖に勝手に食った挙げ句、俺の分をたった一つすらも残さないで全部食ったのかよ! 元々は俺のものなんだから、少しは残してくれても良いのに──そう思いながら、俺は幼女の方へと視線を向けると、そこには何処か寂しそうな表情で雲ひとつない空を見上げる少女がいた。

 文句でも言ってやろうと開いた口を閉じて、悲しそうな幼女の顔を見ていられなくなった俺は再び空を見上げる。


「……じゃあ、今日は楽しまないとな」


 言葉は自然と出てきた。自分でもどうしてそんな言葉が出てきたのか分からない。

 いや、分かっている。分かっているからこそ俺はこいつにそう声を掛けたんだ。

 すると、少しだけ目を見開きながら幼女が振り向いた。


「? 何言ってるの、私にはもうそんなに時間が……」

「でも、まだ大丈夫なんだろ?」


 俺はその場に立ち上がりながらそう言った。


「それは……そうだけど」

「なら行くぞ。俺も夕方には戻らないといけないけど、まだ大丈夫だからな」


 俺も夕方からは護衛の依頼があるので王城に行かないといけないが、それまでだったら別にこれといってやることがない。

 それなら、暇人同士で祭りを楽しんでも別に良いだろう。

 俺は幼女の方へと振り返って手を差し出す。


「…………でも……」


 しかし遠慮しているのか、幼女はその手を掴もうとはしてくれない。

 だが俺は諦めることなくそのまま手を差し出し続ける。

 時が止まったような時間が五秒くらい経過すると、恐る恐るといった感じで本当に子供のような真っ白い小さな手がゆっくりと俺の手に向けて伸びてきた。


「……っ」


 その手を最後は此方から掴んで、そのまま引き寄せるようにして幼女を立ち上がらせる。

 だがちょっとだけ加減を間違えて強く引っ張り過ぎてしまったのか、幼女はよろけながら数歩前進して俺に抱きつくような状態になってしまった。


「っと、すまん。……おい、どうした?」


 慌てて謝罪し、すぐに離れようと一歩だけ身を引いて後ろに下がろうとするとそれよりも速く幼女の細い腕が背中に回された。

 その所為で完全に身動きが取れなくなってしまった俺は、これは一体どんな状況なんだとその場に立ち尽くしてしまう。そんな俺に対して、幼女は自身の顔を俺の胸に(うず)めるようにして抱き付いてきた。

 ……ってこいつ、意外と力強いな!


「ごめん、もうちょっとだけ」


 いったい何に対して謝ったのか、少しだけ頭が混乱していた俺には理解することが出来なかった。俺にはただ立っているだけしか出来なかった。

 だが無理やり引き剥がしてはいけないとだけは理解できて、取り敢えず何か声を掛けようと思考を巡らせる。


「……好きなだけそうしていろ」


 しかしこういう時に限って何を言ってやれば良いのかが分からず、たった一言しか言えなかった。

 でも、たぶんこれで良いんだと思う。その証拠に幼女が一層強く抱き付いてくる。


「というか、お前なんで泣いて……ぐはぁ!?」


 何もせずに立っているのも退屈だったので、つい今しがた浮かんできた素朴な疑問を訊いてみようかと思ったのだが、それを言い終わる前に思い切り腹を締め付けられてしまった。

 痛い! 普通に痛かったぞ。こいつ見た目にそぐわずグラデュースやアランと同じくらい強いから、それなりに力を込められると痛みを感じてしまう。

 まだ俺の半分も生きていないだろうにこれ程までの高みに登り詰めた幼女の才能が恐ろしい。


「デリカシーない」

「わ、悪かったって」


 これ以上は怒らせてはいけないと判断した俺は、どうして怒っているのかは分からないけど取り敢えず謝っておくことにする。

 本当に相手が何を考えているのかさっぱり理解できない。

 特に女の子なんて良い例だ。幼ければ幼いほど情報のやり取りが難しくなっていくし、年齢が上がっていけば口にしなくとも相手の言いたいことを理解しないといけなくなっていく。

 普通、言いたいことや伝えたいことはちゃんと言葉にしないと相手には伝わらないと思うのだが、どうして〝そんなの言わなくても分かるでしょ〟……みたいな感じで言ってくれないのだりうか?

 身近な人で例えるならばフィリアの考えていることが一番よく分からない。いつも俺に何かを期待しているような視線を向けてくるのだが、決してそれを口にはしれくれないし、そしてもちろん訊いても教えてはくれない。で、結局の所は俺が怒られて終わるという悲しい結末……。

 しかも最近はネオルからも「鈍い!」とたびたび説教を食らっている始末だ。そして肝心の何が鈍いのかという所はしっかりと教えてはくれない。

 いったい俺は何をすれば良いんだよおおおおッ!! ……と、思わず叫びたくなる。


「ん、もう大丈夫。ありがとう」


 ハッと我に返ると幼女は既に俺から離れていて、じーっと此方を見上げてきている。

 そんな目をされても、俺にはさっぱり理解できないんだが……。というか声に出してくれればその通りにするというのに、どうしてこう試すような事をしてくるのだろうか……。


「じゃあ、行くか」

「んっ!」


 ……あれ? もしかして今ので良かったのか?

明日も投稿できるとおもいます。

時間は……まあ、たぶん遅いかと。

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