第八話 建国祭(一日目) ③
短めです。
「「「ジェクト王万歳!」」」
「キャーッ! フィリア王女様ー!」
「なんて美しい……っ!」
「ルシウス様ー! こっち向いてー!」
「ルシウス様カッコいいー!」
耳が可笑しくなってしまいそうなくらいに、四方八方から人々の歓声が押し寄せてきた。
大通りには人という人がこれでもかというほど溢れ返っていて、その全ての視線が通りの中央をゆっくりと進んでいる馬車に集められている。
その馬車というのは普通のものとは少し違った構造をしていて、雨風を凌ぐような天井はまるで最初から考えていなかったかのように突き抜けになっており、四方の壁も控えめなくらいに低く設計されている。それによって馬車の席に座っていながらも上半身は外から丸見えの状態となりどうにも可笑しな形をしているようにも思われるが、しかし貴族っぽい華やかさがそれらを打ち消してしっかりと存在感を主張している。
そんな馬車の上に居るのは四人の男女だ。
まずはこの国の現国王であるジェクト=オルネア=リーアストだ。王様らしく王冠をかぶっている所がとても様になっていて、威厳と包容力のありそうな雰囲気を醸し出している。まあ、いつもの王妃様の尻に敷かれている光景さえ思い出さなければ……だけどな。
そしてその隣に座っているのが王妃様であるアリティア=オルネア=リーアストだ。此方は王様の衣装に比べると少し派手さに欠けているようにも思えるが、逆にそれが王妃様を落ち着いていて清楚な印象にさせている。そして柔らかい笑みで民に手を振っている姿は自然と視線が釘付けにさせられてしまう。
そして王妃様の後ろの席に座っている少年はこの国の第一王子であり、次期国王であるルシウス=オルネア=リーアストだ。まだ十七歳だというのに万を越える民を前に全く緊張した様子もなく、爽やかな笑顔を振り撒きながらあちこちに手を振っている。きちんとした礼服に身を包んでいる王子様は若いながらも大人さながらにしっかりしていそうにも見受けられる。しかし此方にも妹を溺愛し過ぎているという事実を思い出さなければ……、という補足説明が加えられるが。
そして最後に、恐らくこの四人の中で一番視線を集めているであろうフィリア=オルネア=リーアストだ。フィリアに至ってはもう言葉では言い表せないくらいに可愛い。しかし純白のドレスを身に纏っているのでいつものような可愛さに加えて大人びている様子も窺える。更にフィリアの首元には何と、俺がプレゼントしたネックレスを付けてくれており、ドレスとの相性も抜群に良い。
「…………!」
それは、思わず周囲の警戒を忘れて魅入ってしまう程だ。
そして俺がプレゼントしたネックレスを今でも大事に身に付けてくれている所を見ると、何だかとても嬉しい気持ちになってくる。
「それにしてもあいつ、意外と人気あるんだな……」
俺は一旦フィリアから視線を外してその隣に腰掛けている王子様の方へと向けた。
普段の言葉遣いや性格を考えると、どうしようもない駄目人間としか思えてならない。……が、それでも生まれ持った高い地位と才能と、その他諸々を評価するとそんな糞みたいな性格は霞んでしまう。
聞いた話でしかないがルシウスには剣術と魔法のどちらにも類い稀なる才能があるようで、職業は剣士というものの魔法使いでも十分にやっていける力があるらしい。それに政治の面でもカリスマ性を発揮し、まだ成人してから少ししか経っていないのにも拘わらず王様の公務の手伝いをしているとか。
あーあーあー、強くてイケメンで仕事まで出来るなんて、糞みたいな性格を抜かせば最高に羨ましいったらありゃしない。
「……!」
そんな事を考えていると、図らずしてフィリアと俺の視線がぶつかった。
フィリアも俺の存在に気付いたようで少し目を見開き驚いた様子を見せたものの、しかしすぐに満面の笑みを此方に向けてきた。そんな笑顔は何処か余裕がありそうにも見て取れるが、心なしかその頬が僅かに赤く染まっているのは気の所為ではないだろう。
どうやら向こうも少しだけ恥ずかしいと感じているようだが、恐らくフィリア以上の恥ずかしさを覚えている俺には、その笑顔に対して同じように笑顔で応えるような真似は無理そうだ。
──二時間後、王族を乗せた馬車は漸く王城の前へと戻ってきた。その間に何か問題が生じるといった事はなくここまで何の滞りもなくパレードが進み、遂にそれも終盤に差し掛かってきた。
王城の城門付近には五メートルはありそうな土台が用意されており、その最上段へ向けて王様が一段一段を踏み締めるように上っていく。王様が階段を上るにつれて王城の前にある広場に溢れ返った人々の歓声はより一層高まっていき、少し離れた場所で待機している俺の所にまで空気の震えが伝わってくる程だ。
しかしそんな歓声も王様が最上段へと到達した途端、一気に熱が冷めたように静かになっていく。
それを確認した王様は、ゆっくりとした口調で言葉を紡ぎ始めた。
「──今日、この日をもって、リーアスト王国は建国して三百年という記念すべき日を迎えられた事を、まずは民に感謝したい、ありがとう」
誰もが、ただ静かに王の言葉に耳を傾ける。
「世界を滅ぼそうとした魔王を、異世界から召喚された勇者が打ち倒し、平和を取り戻したのも、同じくちょうど三百年前のことだ」
つまり──と、王様は続ける。
「世界が平和になった年に興ったこの国は、まさに平和の象徴といっても過言ではないだろう」
王様の言葉に俺は成る程……と、納得する。
確かに、勇者が魔王を打ち倒したその直後に興った国であるリーアスト王国は、この三百年間の平和を象徴しているといっても決して間違いではないだろう。
だからといって栄えていたかどうかは分からないけど、三百年という今日この日まで国として成り立っていたのは変えることの出来ない事実なんだからな。
「そして今では大陸最大とまで言われる大国へとこの国は成長した。ここまで国として成長したのも我々を信じて着いてきてくれた多くの民のお陰だ、本当にありがとう」
再び、王様は民に向けて感謝の言葉を口にした。
その後も王様の演説は順調に進んでいき、最後に……。
「──ここに、リーアスト王国建国祭の開催を、宣言する!」
ワァ────ッッ!!
こうして、長い長い建国祭の幕が開けた。
次は3/9(土)の12:00に投稿する予定です。




