第六話 ダンジョン攻略 ⑤
最近投稿できてなくてごめんなさい。
サボっている訳では無いのです。
呆気なく絶命したオーガジェネラルが静かに消滅し、広いボス部屋に静寂が訪れる。
その静けさと此方に向かって歩いてくる幼女の姿によって、俺達が勝ち、そして20層を攻略したと理解するに至った俺は、緊張を解きながら短剣をゆっくり鞘に収めた。
「……本当に此所が最高到達階層なのか? 随分と呆気なかったけど」
近寄ってきた幼女に、この階層を攻略している最中にふと疑問に思った事を訊いてみる。
確かにSランクダンジョンだけあって一層からなかなか強い魔物が出てきたし、此所まで来た道中でも出現する魔物の数もそれなりに多かった。
しかしどれを取っても此所までが限界だったなんて考えられない。
「そんなことない。私だって一人だったらここまで来れてない」
「……え?」
何を言っているんだこいつ、とでも言いたげな顔をしながらそう言ってきた幼女に俺は思わず聞き返してしまった。
うーむ、……おっかしいな。
こいつ見た目は幼女だけど、実力はあるから一人でも普通に来れると思うんだが……。
「というかそんな短剣で此所まで来る方が異常」
いやちょっと待て、俺が異常?
……いやいやいや、そんな訳ないだろう。
そりゃあ普通かどうかって訊かれて「はい普通です」なんて大層な事は言えないだろうけど、それでも俺なりに普通を目標にして頑張ってるんだが。
それに……。
「オモチャ言うな。ちゃんと付与魔法で強化してるんだから」
全く、確かに短剣そのものの性能だけで戦っていたならば此所まで来る前にポッキリ折れているのが普通かもしれないけど、付与魔法によって強化の二つや三つはしているんだから、そこそこ使えるようになっているのは当たり前じゃないか。
それに聖剣と比べからオモチャかもしれないし、使ってる素材もありふれたようなものだけど、作りは悪くない。
手に馴染むし、持ちやすいし。ダンジョンからドロップしたものだから鍛冶師の手によって打たれた訳ではないけど、良い腕していると思う。
「まず前提から可笑しい。このダンジョンでは魔法が使えないのが普通。なに当たり前のように使ってるの」
「あー……と、それはな、このダンジョンは魔法が使えないんじゃなくて、使いにくくなるってだけなんだよ」
「私にとってはどっちも変わらない」
少し言い訳をしてみたら、バッサリと斬られてしまった。
まあ確かに使えないっていう常識が根付いている事を考慮したら、これまで誰もこのダンジョンで魔法を使うことが出来なかったって事だろうしな。
でもその代わりにトラップが仕掛けられていないから、魔法職でなければ此所まで来るのもそれほど難しいものではないと思うけど、それも違うのだろうか?
「ほ、ほら、ドロップが出たぞ」
「逃げた」
そんな言葉に耳を傾けずに無視しつつ、俺は部屋の中央に出現した宝箱へと向かった。
──数分後。
ドロップ品を亜空間へと回収してから少しの休憩をとった後、再び俺達はダンジョンの下層へと足を踏み出した。
「そういえば、どのくらい貯まったの?」
並んで歩いていると、ふと幼女がそんな事を訊いてきた。
何がなのかは口にしていないが、俺はすぐにその答えに辿り着く。
「嗚呼、かなり集まったとは思うけど、正直多いのか少ないのか分からん」
そんなどっちなのか判断できない曖昧な返事をした俺に対して、隣を歩いている幼女は「そう」とだけ答えて視線を前に向けた。
──さて、俺達は王族からとある依頼を引き受けてこの町へとやって来たのだが、その依頼というのが少しばかり面白いものなのだ。
しかしその依頼というのは此処に固執しなくとも達成出来るようなものなのだが、それでも此処を選択したのには理由がある。……とか何とかいってはいるが、だからといって別に俺が此処にすると決めたとかでは無いんだけどな。
兎に角、依頼を達成させる為にこのダンジョンを選んだ理由だが、此所が攻略難易度がとても高いからというのが一番の理由になる。
攻略難易度が高いという事はつまり、それだけこのダンジョンには多くの危険が潜んでいて、真面目に攻略を目指して挑む人が少ないことを示している。実際に21層まで降りてくる間に誰か他の冒険者と出会ったかと訊かれれば答えは否だ。加えてこの21層からはこれまで誰も到達した事のない未踏破階層らしいので、これから先で誰かに出会うような事もまず無いだろう。
「……来る」
そんな時、前方からなかなかの重量感のある鈍い音が聞こえてきた。
まさかとは思うがこんな所に俺達以外に人がいるとは考えられないし、此方に接近してきているのは間違いなく魔物だ。
既に戦闘体勢に移っている幼女を横目に見ながら、俺も短剣に『硬化』と『切れ味上昇』の付与魔法を掛けていつでも戦えるように準備する。
戦闘の旅にいちいち付与魔法を施すのはタイムロスだし、魔法を発動させる為に魔力もかなり消費してしまうが、これは仕方の無いことなのだ。
付与魔法には『簡易付与』、『中級付与』、『上級付与』、『超級付与』という大きく四段階に分ける事が出来て、それらによって様々な効果の威力が変動し、更に使い方次第で付与魔法が掛かっている時間に大きな差が生じる。その一つ一つは更に細かく分かれていたりもしているんだが、それは説明が面倒なので省略させてもらおう。
そして俺は先程から『簡易付与』か、戦闘が長引くと判断した時だけ『中級付与』を使ってきた。何故ならこのダンジョンでは魔力を収束させるのがかなり難しく、完成した魔法でさえ時間が経つにつれて魔力が空気中に溶け込んでしまい、終には消滅してしまう。つまり、どれだけ強い付与を行ったとしても、時間が経てば自然消滅してしまうという訳だ。
なので膨大な魔力をもって永続付与を施したとしても、いつまで持つかは分からない。
それならば戦闘毎に少ない魔力で付与魔法を使った方が逆に燃費が良かったりする。
要するに勿体ぶっているって事だ。
「あれは……」
短剣を左手に持ちながら静かに構えていると、枝分かれしている通路の先からがっしりとした大きな手が現れた。その爪はまるで牙のように鋭く、人の身体などいとも容易く貫き切り裂いてしまいそうだ。
次に現れたのは牛のような顔で、まるで此方を覗いているかのように赤い目が怪しく光っている。側頭部からは角が伸びており、それが途中から向きを変えて真っ直ぐ前方へと伸びている。
そして全身が露になった時には、既にその魔物の名前が頭に浮かんできていた。
「……ミノタウロス」
危険度がAランクに指定されている、普通のドラゴンとなら互角なまでに渡り合える魔物だ。
基本的に肉弾戦での戦闘が主となっていて、魔法を使えるミノタウロスもいるにはいるが、その殆どが火魔法もしくは土魔法しか使えない。
まあそんな知識なんてどうでも良い。
そんな事より──と、俺は無意識の内にミノタウロスの手元に視線を向けてしまう。
「武器は持ってないな」
最近目にしたミノタウロスは大剣を持たされた上にアンデッド化までしていたので、普通の状態のミノタウロスを見て少し安心して思わずそんな声が出てしまった。
まあそうだよな。ボスでも何でもない魔物が武器を持っていたら流石に俺でも驚くぞ。
「どうする?」
ミノタウロスからは視線を外すことなく、小さな声で幼女がそう訊いてきた。
恐らくどちらがあのミノタウロスを相手にするかを訊いてきているのだろう。
しかし、そんな相談など最初からする意味がない。
「奥から三体……いや、五体が追加で来る」
気配を感じ取っていた俺は、冷静にその事を伝える。
「……本当?」
「嗚呼、心配はしてないが気を付けろよ。何かあったら俺を呼べ」
こいつはこうでも言わないと何でも一人でやり遂げようとする奴だという事につい最近になって気付いたので、一応なるべく無茶はするなよ──という念を込めてそう声を掛けておく。
一体だけならまだ大丈夫だと確信することが出来るのだが、敵が複数体いるとなるとどうしても心配になってしまう。
そんな心配なんて無用だとは知っているんだが、それでも女の子が、それも幼女ともなれば誰だって不安になるだろう。
まあ本人の前で言ったら絶対に怒られるだろうけど。
「むぅ……逆。そっちが気を付ける」
俺の言葉に少し不機嫌になった幼女はそう言ってミノタウロスから視線を外して此方を見てきた。
その目には確かに俺を心配しているという事が伝わってくる感情が込められており、心配してくれている事実に思わず嬉しくなってしまう。
こいつはあまり感情を表に出さないからな。
「心配してくれてありがとな」
「……ん」
幼女は少し照れたように俺から視線を外した。
俺も視線を前へと戻して、剣に入れる力をそっと強める。
「──ブモオオオオオッ!」
雄叫びと共にミノタウロスは此方に駆け出してきた。
その速度はやはり早く、その距離をあっという間に詰めてくる。
そしてミノタウロスはあと一歩踏み出したら攻撃してくるだろうという所で、俺の方からその一歩を勢いよく踏み出し距離を詰める。
「はああっ!」
すると此方からの接近を予想していなかったミノタウロスは完全に無防備な状態となる。
その隙を逃さずにすかさず跳んで空中で一回転して勢いをつけ、そのままミノタウロスの脇腹にあたる位置を思い切り薙ぐように蹴った。
「ブモオ──ッ!?」
容赦なく入れた蹴りの一撃は簡単にミノタウロスの身体を浮かせ、ダンジョンの壁まで呆気なく吹き飛ばした。
壁に激突したことによって漸く止まり、辛うじて着地したミノタウロスは腕をだらんと垂らし荒い息遣いをしながら、怒りの眼差しで此方を睨み付けてくる。
その時、視界の端から幼女が走り出すのが見えた。
「やあっ」
まるで気合いの入っていない、やる気の無いような声だが、それとは対照的に振り下ろされた聖剣の威力は絶大なものだった。
ミノタウロスの身体を真っ二つに線が走り、一瞬で絶命して霧となって霧散した。
「……ドロップは肉か」
つい先程までミノタウロスがいた場所を見ながら、俺はそう言って呟いた。
「ん、他のが出るときもある」
「そうだけど、肉が出ないと困るというか……」
ドロップ品であるミノタウロスの肉を拾って此方に放りながらそう言ってきた幼女に、俺は言葉を返しながら手を伸ばし、それが手に触れた瞬間すぐに亜空間へと仕舞い込む。
もうこの階層に来るまで何十回何百回と繰り返してきた事なのでこれにもかなり手慣れたものだ。
「……っと、予想通り、だな」
一段落がついてから、気配を察知していた五体のミノタウロスが通路の先から現れた。
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