第六話 ダンジョン攻略 ④
──あれから更にかなりの時間が経過した。
俺達は次々と階層を攻略していき、現在は次の階層へと続く階段を降りている最中だ。
「次で……何層?」
「20層だ」
そう、とうとう次の階層が20層であり、今までの最高到達階層でもある。
此所までやって来て分かったのだが、どうやらこのダンジョンにはトラップというものが存在していない事に気が付いた。
Sランクほどのダンジョンは初めてなのでこういうのには疎いが、それでも高難易度のダンジョンにはトラップが仕掛けられているのが当たり前だ──と俺は認識している。
まあトラップが無いことに越した事はないんだけどな。それにもしこのダンジョンにトラップがあれば、更に攻略難易度が跳ね上がるだろう。そうなれば俺も今の状態で攻略出来るかどうか、怪しくなってくるだろう。
そんな事を考えながら階段を降りていくと、幼女の情報通りにボス部屋となっていた。
「……来た」
部屋に入って暫く待つと、部屋の中央に多くの魔方陣が浮かび上がった。
魔方陣が消えると、そこには三十体くらいのオーガの大群と、その奥には一際大きいオーガが三体現れた。
「……大きい」
「オーガジェネラルだな」
オーガでさえ人間の身長を軽く上回る図体を誇っている。
だが、その奥に控えているオーガジェネラルの体躯は普通のオーガよりも頭一つ分どころではなく、四つ分くらいはあるんじゃないかと思うくらいに大きい。
しかもその手には大剣が握られている。
「まずはオーガからだな」
「……ん」
剣を構え、既に此方へと接近してきているオーガの群れへと意識を集中させる。
オーガはDランクに指定されている魔物なのでそこまで強いという訳ではないが、それでも群れていれば油断できない脅威となりうる。
俺達は目配せをして俺は右に、幼女は左へと駆け出す。
すると標的が二手に分かれた事に対して、接近していたオーガは俺達が予想していた通り丁度半分ずつに数を分散させて追ってきた。
「……よし」
作戦が上手くいったことに小さく喜びを溢しながら、俺は壁から五メートルくらい距離をとって立ち止まった。
短剣を鞘から抜き放ち、迫り来るオーガを見据える。
「……っふ」
そして自らオーガの群れの中へと飛び込み、敵の位置を把握しつつも伸びてくるオーガの手をかわしながらカウンターを繰り出す。
しかし、得物が短剣であるが故に肉を深く切り裂くには至らず、例え的確に急所を攻撃したとしてもそれは致命傷にはならない。
そうやって決め手になるような鋭い攻撃を繰り出せずに攻めあぐねていた俺は、いつの間にか退路を断たれオーガに包囲されてしまっていた。
「ちっ」
いくら剣術のスキルレベルが高くとも、剣そのものの性能が悪すぎる……!
自分が武器を忘れたのがそもそもの原因ではあるが、これではいつまで経っても埒が明かない。
「ガァアアアアアッ!」
包囲した側であるオーガはここぞとばかりに雄叫びをあげて、一斉に襲い掛かってきた。
このまま何の行動も起こさなければ、少なくとも最悪の結果にはならないだろうが今後の戦闘に支障が生まれそうだ。
そう判断した俺は、奥の手を使うことにした。
「──『エンチャント』」
瞬間、短剣から紅の炎が吹き出した。
シュパパパパ……と、目にも止まらぬ速さで短剣を振るうと刃が通った場所に炎が走る。
しかし俺の繰り出した攻撃はそれだけに留まらず、その斬撃はオーガの身体を突き抜けその後ろにいたオーガまでをも簡単に斬り裂いた。
「……ふう」
全てが終わると、止めていた息を吐き出しながら短剣を鞘へと戻す。
それと同時に俺を包囲していたオーガは黒い霧となってあっという間に霧散していった。
そしてそれを待っていたかのように声を掛けれた。
「……今のは、魔法?」
声のした方へと視線を向けると、そこには一足先に戦闘を終了させていた幼女がすぐ傍にまでやって来ていた。
幼女の疑問は最もだろう。何せ幼女はこのダンジョンでは魔法を使う事が出来ないと思っているんだから、俺の行動に少なくない違和感を覚えるのは至って仕方の無いことだろう。
「そうだ」
この状況で否定するのは流石に無理なので、俺は魔法を使ったと肯定する。
「……変」
「後で説明してやるから。ほら、来るぞ」
今は説明をしているような暇は無いので無理矢理に会話を終了させると、俺は鞘に戻した短剣にそっと手をかける。
あのオーガ共はあくまでも下っ端でしかない。
つまりここからが本当の戦いなのだ。相手は危険度がAランクのオーガジェネラル、いくらSSランクの幼女といえど複数体を纏めて相手にするには少々荷が重い相手だ。
そんな相手に余所見をしていると、足元をすくわれかねないからな。
「ゴァアアアアッ!」
「はあっ!」
突進してきたオーガジェネラルが振り下ろした大剣に合わせて此方も短剣を抜剣して、回避行動を取らずに真正面からそれを迎え撃つ。
振り下ろされた大剣と振り上げられた短剣が勢いよく衝突し、激しく火花を散らしながら力と力が均衡し、せめぎ会う。
しかし別のオーガジェネラルが動きを止めた俺の隙を突いて横凪ぎの一撃を放ってくる。
「く……っ」
このままではただ斬られるのを待つだけだと判断し、受け止めていた大剣を上手く横に流しながらその場から離脱する。
それによって生まれた僅かな余裕を使用して幼女の方は大丈夫かと視線を向けると、圧倒的な力によってオーガジェネラルを翻弄している姿が見えた。
どうやら俺の方に二体のオーガジェネラルが来たようなので、一体を相手にする幼女は大丈夫のようだと安心する。
なので次に気にするべきは自身の身の安全だ。
「『エンチャント』」
ダンジョンの特性によってかなりの魔力と魔力制御が要求されるが、無事に付与魔法が発動する。
短剣にパチパチっと青白い雷が走り、それによって刀身が明るく輝きだす。
「ガアッ!」
「──っ!」
一体のオーガジェネラルが再び大剣を振り下ろし、先程と同じように迎え撃つ。
「ガッ、ァアアア!?」
だが今回は力が均衡するような事はなく、オーガジェネラルから苦しそうな声が出た。
短剣に発生した雷が大剣を介してオーガジェネラルに届き、包み込んだのだ。
どうやら付与魔法によって行った『雷属性付与』がしっかりと効果を発揮しているようだ。
「はぁっ!」
まるで力の入っていない大剣をいとも簡単に押し退け、オーガジェネラルの手から弾き飛ばす。
そして完全に無防備となったオーガジェネラルの胸へと跳び、深々と短剣を刺し入れた。
その瞬間、更に短剣に魔力を込めて雷の威力を増大させる。
「ギャアアアア────ッ!?」
全身を高威力の雷に包まれたオーガジェネラルは絶叫するが、もう既に抵抗できる力を残していないのか身動き一つも取れないようだ。
もう少しで倒せるだろう──そう思った時、もう一体のオーガジェネラルが俺の隙だらけな背中に向けて大剣を振り下ろしてきた。
予め攻撃を何かしらの方法によって予知でもしていなければ、到底それを避けることは出来ないだろう。しかし、もしこうなる事を予測できていたとして、覚悟を決めて短剣を手放したとしてもまともな回避行動を起こす前にざっくりと斬られてしまっているだろう。
では無理だと諦めて素直に斬られるか、といったらもちろん答えはノー一択だ。
「『テレポート』」
言葉を発した、その時には俺はその場からまるで最初からそこには誰も居なかったかのように姿を消しており、俺を斬ろうとしていたオーガジェネラルの背後に存在していた。
そして流れるように両足をオーガジェネラルの背中に乗せて着地し、直ぐ様その背中を蹴った。
「──ッッ!?」
刹那の内に起こった出来事に何一つとして反応できなかったオーガジェネラルは、背中を蹴られて思わず前のめりになり、バランスを保とうとして一歩前進する。
そして、何もかもが手遅れになってから漸く気付く。
目を限界まで見開き、目の前の仲間へと視線を向けるオーガジェネラル。
「……これで一体」
──大剣によって短剣の比ではないほどに深く斬り裂かれたオーガジェネラルは、断末魔を上げることなく静かに絶命した。
それを成したオーガジェネラルは、自分が仲間を殺したという事実にその場に立ち尽くしてしまう。
高ランクの魔物になればなるほど、知能も比例するように高くなっていく。ゴブリンなどの低級な魔物であれば例え自分が仲間を殺したとしても、知能が低すぎる所為で何も思わないが、ある程度の知能を持った上位の魔物はそうではなくなる。
だからこそ、仲間を斬ったオーガジェネラルは、敵を前にして足を止めてしまったのだ。
「これで、二体」
その隙を逃すことなく俺はその首を短剣によって、──斬り落とした。
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