第六話 ダンジョン攻略 ③
お待たせしました!
一層で時間を使う必要はないので、俺達は先を急ぐことにした。
それに、此処には攻略する事が目的で来た訳ではないし、不要な階層はなるべく時間を無駄にせずにさっさと次に行かないといけない。
あくまでも依頼を受けてきたんだからな。
ダンジョンの通路を疾走し、早くも二時間ちかくが経過しようとしていた。
道中で必然的に遭遇するヒュージスライムとは極力、戦闘を避けながら進んできた。しかしそれは極力というだけであって、複数体で通路を塞がれているときだけはやむを得ずに足を止めていた。
なのでほぼノンストップで突き進んでいった俺達は現在、一層から六層まで到達していた。
「六層はボス部屋なのか」
その場所へと足を踏み入れた俺は開口一番でそうそう言った。
何故なら、六層はとても広い空間となっていたからだ。
そして俺達がこの階層に入ってから数秒が経過したとき、見計らったように部屋の中央に三つの魔方陣が浮かび上がり、その中から一体ずつスライムが現れた。それはヒュージスライム……ではなく、更にその上位種であるレッドスライム、グリーンスライム、ブルースライムだ。
どれも危険度がDランクに指定されている魔物で、ヒュージスライムは魔法を使えないが、目の前にいるDランクのスライムからは魔法を使った攻撃もしてくるようになる。
しかしこのダンジョンは少し特殊なので、魔法による攻撃はしてくるのかよく分からない。
「ん。確か17層と20層もボス」
と、ここで幼女がダンジョンについての新しい情報を口にした。
……こいつ俺が訊いたとき「私はこれだけしか知らない」って感じに言っていたと記憶しているんだが、はてさて俺の記憶力が可笑しいのだろうか? そんな事にいちいち突っ込みなんて入れるような事はしないけど、他にも情報を知っていたんだったらちゃんと言って欲しかった。
まあ実害が発生しているとかでは無いので特に気にしてはいないんだけどもさ。
だがしかし、この幼女は他にも何か知っている気がするので確認してみる。
「何が出てくるんだ?」
「ウルフと、……オーガ、だったと思う」
可愛らしく首を傾げながら、自信なさげに幼女はそう言った。
この幼女、やっぱまだ知ってる情報あったんじゃねーか!
それとウルフとオーガと言ったけど、恐らくはその上位種と考えられる。六層ですらDランクの魔物が出てきているのに、下層に行くと出てくる魔物が弱くなる──何てことはまず考えられないからな。
兎に角、今は目の前の敵に集中しよう。
「俺が青いのやるから、他の頼めるか?」
「ん、問題ない」
聖剣を構えながら幼女がそう応え、俺達はほぼ同時に地面を蹴った。
ここで幼女に二体のスライムを押し付けているとか思わないで欲しい。
何せこっちは素手で向こうは剣を持っているんだからな。これがまともな分担だと俺は思っている。
「……!」
ブルースライムへと直進していた俺は、魔力が収束し始めている事を事前に察知し、それによって生まれた余裕でタイミングを見計らい真横へと跳んだ。
するとつい先程まで俺がいた地面が一瞬の内に凍り付き、数瞬ほど遅れて透き通った鋭い音と共にその場に氷の剣山がびっしりと発生した。
その発生源を辿ると、そこには勿論ブルースライムが佇んでいる。
しかも既に、次の攻撃を繰り出す為に魔力を収束させている。
「向こうは普通に魔法使えんのかよ……っ!」
確かに、これだけ此方の条件が悪いダンジョンならSランクというのも頷ける。
そう頭の片隅で思いながら、再び俺はブルースライムの元へと駆け出す。
「……! ……!」
スライムが繰り出してくる氷の礫を最小限の動きでかわしながら、左手を握り締める。
接近すると、ブルースライムは氷魔法での攻撃の手を止めるとすぐに自身の全身を凍り付かせた。
己の身を守る為の防衛行為なのだろうが、それは完璧に俺の思うつぼだ。
「──はっ!」
何一つの躊躇いもなく氷の塊と化したブルースライムに向けて拳を突き出す。
僅かにスライムの身体と俺の拳の力が均衡状態になるが、それもほんの一瞬だけであって、スライムの表面にいくつもの罅が走ったと思うとあっという間に粉々に砕け散った。
同刻、少し離れた場所で戦闘していた幼女も無造作に剣を横凪ぎすると、スライムの身体の上半分が重力に従ってずり落ちた。
「やるなお前」
「このくらいは朝飯前」
そんな言葉を交わしている間にスライムの身体は黒い霧となって霧散し、その場には三つの魔石と一つの宝箱が残されていた。
「お、宝箱がドロップしたな」
「運が良い」
早速その宝箱を開けてみると、そこには一振りの短剣が入っていた。
聖剣や魔剣という特殊な類の剣ではないようだが、それでもなかなか上等なもののようだ。
「……ハズレ」
幼女がボソッとそう口にする。
しかし、俺はこの宝箱がハズレだったとはこれっぽっちも思っていない。
「なら、俺が貰って良いか? 何も武器持ってなくてさ」
そう、この短剣さえあればこれからの戦闘を大幅に時短させる事ができるようになる。
暫くは武器が無くても問題なく対応できるとは思うけど、それでもあるのと無いのとでは何かあった場合での生存率がまるで違ってくる。
「……そうだったの? だから素手で?」
「嗚呼」
短くそう答えると、幼女が呆れたような視線を送ってきた。
幼女に呆れられるというのは少し心に来るものがあるが、今はそれをぐっと堪える。俺だって人間なんだから忘れ物をする日だってあるんだから、そこまで見下さなくても良いと思うんだが……。
こんな時の為に俺も聖剣の一本くらいでも創っておいた方が良いのかな?
「別に。私はこれがあるから」
「よしっ。サンキューな!」
幼女の許可が取れたので思わず小さくガッツポーズをしてしまった。
「さあ、さっさと次の階層に行くぞ!」
その勢いのまま俺は丁度良く現れた下層へと続いている歓談を降りていった。
明日は5:00くらいに更新します!




