第六話 ダンジョン攻略 ②
「……で、ですよねー……」
受付嬢が少し焦りぎみにそう言った。
この町にやって来た理由、それが此処にあるSランクダンジョンに潜る事だ。
一応いっておくが、ダンジョンに潜るのは俺の意思ではない。これが頼まれた二つめの依頼というものだったから来ただけで、別にそろそろ冒険したいなーとかそんな願望があった訳では……訳では……。
兎に角、俺は王様からの頼みだったから断れずに仕方無く、そう仕方無くこの町へと来たのだ!
そして隣にいる幼女はというと、いくら強いといっても一人では心配だという王様の不要な、本当に不要な気遣いによって寄越してきたものだ。
「因みにパーティーは……」
「二人です」
それ以外にいったい何人に見えるというのか──等と思いながら即答すると……。
「……で、ですよねー……」
はい、そうです。
◆◆◆
それから数分の時間が経過し、俺達は無事にSランクダンジョンへ潜るための申請が受理された。
その頃には少し騒ぎを起こしてしまった所為か人がたくさん集まってきていて、特に剣聖こと幼女に向けられた視線がとても多い。やはり見た目と精神年齢はアレでも、歴とした世界で二人しかいないSSランク冒険者の名は伊達ではないという事だろう。
そんな人だかりは俺達がギルドを出ようとすると自然と左右に分かれ、ご丁寧にも道を作ってくれる。
いちいち反応していても無駄なので、無言で通り抜ける。
「ねえ、お腹すいた」
ギルドから出るとすぐに幼女がそんな事を言ってきた。
「嗚呼、分かってるよ。俺もだ」
言われなくとも。
という事で俺達はケリアに到着してから初めての買い食いをした。
からあげに串焼き肉は勿論のこと、めろんパンやあんパンという甘いパンに、やきそばなるもの等、様々な食べ物を食べてみた。
初めて食べるようなものがたくさんあり、そのどれもが癖になりそうなくらいに美味しかった。これは是非とも依頼をこなしたらまた食べたいものだ。勿論リッチに大人買いするつもりだ!
しかもこれらの食べ物は全てあの勇者様が考案したものだという。本当によく出てくるなこの人。食べ物だけで数えたとしてもいったい幾つの食べ物を生み出しているのだろうか?
食事を取り終え、暫く休憩を取った後。
それなりの食料も買い込んだ俺達は準備万端の状態でダンジョンへと挑んだ。
「……あ」
いや、準備万端では無かった。
俺としたことが、ダンジョンに入ってから重要なものを忘れてしまっている事実に気が付いてしまった。
──そういえば俺、新しい剣を買ってなかった!
え、嘘、マジで? と、そう思った俺は仕方無いので亜空間に放り込んだままずっと温めておいた剣の中から、使えそうなものがあったかと考え、数秒もしないで結論を出す。
うん。あるにはあるけど、こんなとこで絶対に使ってはアカンやつばっかや。
だって、下手をすればこのダンジョンそのものが崩壊しかねないような代物ばかりだし。流石にそんな物騒な剣を使って万が一にもしくじってしまったら、「やっちゃった☆(てへぺろ)」では到底済まされるスケールの話ではない。
「どうしたの?」
そんな俺の様子に気付いた幼女が、何かあったのかと訊いてきた。
「い、いや? 何でもないぞ」
対して此方は目を泳がせ挙動不審になりながら言葉を返す。
そそ、そうだよ何でもないよこんなもの。別に使えそうな武器を持ち合わせていなかったからって、俺には全くといって良いほど影響なんてない。何せ俺にはとても心強いスキル──『武器創造』っていうお助けアイテムならぬお助けスキルがあるんだからな!
ふはは。例え武器がなくても、このスキルを使って剣を創造してしまえば万事問題ないっ。
よし、そうと決まれば早速……。
「…………あれ?」
早速スキルを使って短剣でも創造しようと試みたのだが、何故か上手く魔力が纏まらずに霧散してしまい、スキルが発動しなかった。
……え、嘘、マジで?
「………………」
何かの間違いだと思って何度も何度も試してみるものの、望んでいるような結果は得られずに全て失敗に終わってしまった。
そんな俺の不自然な行動を見た幼女が、驚きの事実を突き付けてきた。
「一応いっておくけど、このダンジョン魔法使えないよ?」
…………うそん。
そういう大事な情報はもっと早く伝えて欲しかったですはい。
というか、何でそんな事をこいつは知っていたんだろうか?
「へ、へー。そうなんだ」
「ん、これくらい常識」
何、だと!?
たった今、俺はこんな幼女に常識を教えて貰ったというのかっ。
つまりそれは俺よりも目の前にいる幼女の方が常識を知っているという事なのか……? いやいやいやいや、そんな馬鹿なことがあって良いものだろうか。
「どうしたの?」
そんな純真そうな瞳で心配そうに俺を見ないで下さいお願いします。
ショックと絶望と羞恥で灰になって飛んでいってしまいます。
「だ、大丈夫だ。問題ない」
虚ろ目をしながら、かつ燃え尽きた燃えカスのようになった俺は、無理矢理にでも笑顔を作る。
そ、そうだよ。俺くらいのレベルになれば、例え職業が魔法剣士だとしても肉弾戦が出来る程には肉体も強力なものになっている。つまり拳でごり押せないことは無い……筈っ。
「ほら、さっさと行くぞ。時間が無いんだから」
「ん、了解」
そう言ってダンジョンの奥へと足を踏み入れようとした直後、それよりも僅かに早くその先から魔物の気配を感じ取った。
少し遅れて幼女もそれに気が付いたようで、直ぐ様その手に愛剣である聖剣を呼び出して構える。
ダンジョンに入って一番始めの戦闘だ。気合いを入れていこう。
しかしその気合いは、暗がりの奥から出てきた魔物によって大幅に削られてしまった。
「……スライム」
「大きさと気配から察するに、……ヒュージスライムか」
はい、毎度お馴染みのスライム先輩でした。
やはりSランクダンジョンといっても一番最初にはスライムが出てくるんだな。
これだけの高難易度ダンジョンに挑むのはこう見えても初めてだったので、何が出てくるのかと期待していたがある意味では予想していた通りだったな。
だけどスライムはスライムでも、序盤から危険度がEランクに指定されているヒュージスライムが出てくる所は、やはりまだ一層だとしてもSランクダンジョンだからなのだろう。
「──よっ」
軽い気合いの声と共に持ち前の身体能力によって一瞬で距離を詰め、ヒュージスライムの体内に突っ込んだ手によって核を引っこ抜いてすかさず握り潰す。
核を持たないスライムだと直接攻撃するしか倒す方法が無いけど、核を持っているものだとその核を破壊すればそれだけで倒すことが出来る。
これは他の魔物にもいえる事で、核は強い魔物ならかなりの確率で持っている。つまり上手くいけば格上の強敵だとしても、貫通力のある一撃で核を破壊できればそれだけで倒すことが可能なのだ。
絶命したヒュージスライムは黒い霧となって霧散し、その場には魔石が残った。
「ドロップはやっぱ魔石か」
呟きながら、俺は屈んでその魔石を拾い上げて亜空間の中へと仕舞い込む。
と、そこである事に気付いた。
(亜空間も、魔法だよな……?)
そう、亜空間は時空魔法によって生み出した魔法だ。
このダンジョンでは魔法は使えないと先ほど幼女が口にしていたが、亜空間は使えた。
つまりこのダンジョンは魔法を使えないのではなく、魔法が使いにくい──のかもしれない。
例えば魔法を行使する時の魔力操作を阻害したり、少量の魔力ならすぐ空気中に霧散させたりするのが、もしかするとこのダンジョンの本質なのかもしれない。要はそれなりの魔力を消費して、尚且つ魔力操作に優れていれば魔法を使えない訳ではない、という事だと思う。
俺の場合は魔力操作は問題なかった筈なので、魔力を集中させるのに時間を掛けすぎたのが原因だと考えられる。……よっしゃあああああッ!!
「何かあった?」
「ああいや、何でもない。先を急ごう」
そういえば、さっきからこの幼女に心配されてばっかりだな。
不安因子も無くなったんだから、そろそろ俺もシャキッとしないといけないな。
「そういやよう……お前ってこのダンジョンの事、何か知ってるのか?」
思わず素で〝幼女〟と言い掛けて、ハッとした俺は直ぐ様〝お前〟と言い直した。
確か以前に一度だけ素で〝幼女〟と言ってしまった記憶があるが、本人の前で二度もそう呼ぶのは流石に悪いからな。
まあ幼女は自分が幼女である事を自覚しているのか、それとも単純にどうとでも思っていないのか、突っ掛かってはこなかったけど。
「ん。此処はSランクダンジョン」
「それは俺も知ってる」
「まだ攻略されていない」
「……ふうん」
このダンジョン、まだ未攻略ダンジョンだったのか。
それは……ちょっと楽しそうだな。
「他には?」
「最高到達階層は、20。それだけ」
成る程な。
情報は少ないが、全くないよりかはましだ。
「分かった。一層はスライムだけのようだし、さっさと下の階層に行くか」
「ん、了解」
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