第三話 頼み事 ②
今回は短めです。
「二つ……」
色々とお願いしたい──と手紙には書かれていたので、それなりに頼みたい事がいくつかあるんだと思っていたけれど、意外と少なかったな。
まあ、その分だけ一つ一つが大変な案件だったりするのかもしれないが。
「一つは一日目。四日目、七日目、十日目に行われるパーティーでの護衛を依頼したい」
と、淡々とした口調で話すネオル。
ここでいうパーティーとは、恐らく王城で開かれるパーティーの事だろう。
国中の貴族がこぞって集まり、勿論のこと主催している王族も参加し、貴族以外には豪商なども来ると考えられる。そこまで大きなパーティーなら、騎士団や魔法師団もかなりの人数が警備に動員されるのだろうし、正直にいうとそこに一人増えた所で何かが変わるとは思えない。
だとすると、他に何か別の思惑があるのだろうか。
「……それは、俺の他にも依頼しているんですか?」
「いや? してないよ」
俺の質問に、ネオルは何でもないようにそう返してきた。
……っは? してないっていう事はつまり、俺だけにというという意味、だよな……?
俺だけっていう事はボッチ……。そう無意識の内に関連付けてしまう俺は、もう重症の域に達しているのだろうか。
「そもそも、これを冒険者に依頼すること事態が異例中の異例なんだけどね」
「……異例?」
要するに、普通はこんな事を冒険者には依頼しないという訳なのだろう。けど、ならばどうして今回に限っては態々ここに呼び出してまでそれを依頼したのか。
益々、頭がこんがらがっていく。
「因みに、君の護衛対象はフィリア様だ」
そんな俺に更にネオルは言い放った。
そして、それを耳にした俺は思わず固まってしまう。
そんな中ネオルが何故か此方に微笑みかけてくるが、思考すらもフリーズしてしまっていた俺にはまるでその意味が分からなかった。
いや、例え正常だったとしても理解できたかは定かではないけれど。
「…………?」
頭にはてなマークを浮かべながら、俺は無言で目の前の男性を見据える。
「ふふ、やはり君は鈍いね。……報酬は、白金貨で三枚」
「やりま……はっ!」
やります──と言い掛けて、踏み止まった。
な、何て恐ろしい奴なんだこいつは……! 最初は普通に良い人だなって思っていたのに、まさかお金を使って俺を買収しようと企むとは……っ。
流石の俺でも危うく大金につられてオーケーしてしまう所だった。危ない危ない。
完全に八つ当たりだけど、少しだけ目付きを悪くしてネオルを睨み付ける。
「うーん、惜しかった」
「……というか、その護衛って俺必要なくないですか?」
ぶっきらぼうになりながら、最もな質問をする。
「甘いッ! 甘いぞオルフェウス君!」
言いながら、ネオルはいきなり立ち上がった。
そして、ネオルは熱く語りだす。
「パーティーとは多くの人々が参加し、多くの人々と交流する。──が、しかーしッ! 王族ともなればその身分の差によって他の者達は怖じ気付いてしまうッ!」
…………何だろう。まるで何かの実況でも聞かされているかのようなこの状況……。
これを止めようとしても、完全に自分の世界へと入ってしまったであろうネオルには、確実に俺の声は届くことは無い気がする。
終わるまで聞いているしかない……か。
「するとフィリア様はどうなってしまうと思うッ!?」
「えっ」
話振ってきた!?
そんな急に話を振られても……。
突然の事にネオルに対するクレームを心の内でぼやきつつも、少しだけ真面目に質問に答えようと思考を巡らせる俺がいるのも確かだ。
「あー、えーと…………孤立する?」
「そう! そんな時の為にも、君の存在が必要なんだ!」
そう言ってテーブルにバンと両手をつき、身を乗り出してくる。
「わっ、分かりました。やりますっ。やらせてくださいっ!」
それに圧倒されてしまった俺は、気付いた時にはそんな言葉を口から溢していた。
これには完全に押しきられた感じがするけど、結局はどう転んでいたとしても同じ結果にはなっていただろうし、まあ良いか。
その様子を見たネオルは満足そうに笑顔を作り、身を引いてソファーに腰を下ろす。
「そうかそうか。そこまで言うならお願いしよう」
……やっぱ断っても良いかな?
「それじゃあ二つめだけど──」
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