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第二話 ルシウス=オルネア=リーアスト

お待たせしました!

◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇

名前:オルフェウス

種族:人族

職業:魔法剣士

レベル:9999

スキル:『武器創造 Lv30』『時空魔法Lv30』『付与魔法 Lv30』『剣術 Lv30』『料理 Lv21』

称号:超越者・覚醒者・Cランク冒険者・竜殺し

◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇


「何……だと……ッ!?」


 俺は、久し振りに自身のステータスを確認して、絶句してしまった。

 駆け出しだった子供の頃は、毎日のように寝る前にそれを開いて今日はレベルが上がった、はたまた今日はレベルが上がらなかった──と、いってはしゃいでいたのが日課となっていた。

 が、そんな習慣も何時の日にか無くなっていた。確か【魔界】にやって来てから十数年くらいの歳月が経った頃からだっただろうか? レベルが上限にまで達して、これ以上ステータスが上がらないと悟ってからは、いちいちそんな事はしなくなってしまった。精々たまに見て落ち着くくらいなものだった。

 しかし、今目の前に現れているステータスは以前のものとは少し違った。勿論ネルバで見たステータスとは称号の所の冒険者ランクが違っているが、俺はつい先程までそれだけしか変わってないだろうなと思っていた。何故ならこれまで何年経っても変化しなかったんだから。

 だというのに、それが一体どうしたのだろうか?


「新しい、称号……!」


 そのステータスには、間違いなく新たな文字が加えられていた。

 それが称号にある〝竜殺し〟だ。スキル同様、称号だって後から手に入れるにはそれなりの努力と才能が必要とされている。俺は今までどれだけ竜を狩りまくっても一向に称号が得られるような感じは無かった。なので俺には〝竜殺し〟の称号は手に入らないもの何だと半ば諦めていた。

 しかしどうした事か。冒険者ならば誰もが欲しいと願っている称号である竜殺しが、俺のステータスに追加されているではないか。どうして今更になってこんなものが……? この称号を手に入れるような出来事といえばアレしかないから、アレ何だろうけど……。


「よっしゃ!」


 細かい事を考える前に小さくガッツポーズをする。色々な疑問はあるけど、取り敢えず新しい称号を手に入れる事が出来たんだから少しは嬉しがらないとな。

 それにしても、アレ──ファフニールを倒したのが原因だとは思うんだが、どうして今までは手に入れられなかったんだろう。パッと考えられるのは二つ。

 一つ、今までで一番強い竜だったから。【魔界】でもあれだけの強さを持つ魔物はそういなかったし、ファフニールよりも強い竜なんてエンシェントドラゴンくらいなものだしな。それにあいつは言葉も通じるし悪い事もしないし、何でいったって良い奴だったからな。そいつを倒そうなんて一度だって考えた事はない。

 二つ目、世界が違うという事。俺はこの世界の人間で、決して【魔界】の人間ではない。つまり生まれた世界が違う。だから何かしらの差があっても可笑しな事はない。その一つに称号が関わっているとも十分考えられる。俺がこの世界で初めて竜を倒したから、という可能性もある。

 まあ何にしたって、答えなんて分からないんだけどさ。


「よし、そろそろ行くか」


 ベッドから立ち上がり、部屋を出て、泊まっていた宿を後にする。

 これから向かうのは王都の中心にどでかく建てられている王城だ。昨日ギルドから受け取った手紙には朝仁来いと書かれてあったから、これから向かう。


(あ、そういえばまだ読んでないのがあったな。……ま、大丈夫だろ)


 ふとそんな事を思い出すが、心配は要らないだろうと切り捨てる。


 それから暫くして、大通りを進んでいった俺は漸く王城に到着した。


「えぇと、呼ばれてきたんですけど……」


 そう言って城門の所にいた兵士の人に、王城の中へと入れる事を示すメダルを手渡す。フランさんから受け取ってから返さずにずっと持っているけど、良かったのだろうか? まあこれで自分が安全な存在だと証明できるんだから、これからも何かあった時には有り難く使わせてもらう事にする。


「確認しました。申し訳ありませんが、御名前を伺っても?」


 メダルが本物かどうかを確認し終えた兵士がそれを返してくると同時にそう聞いていた。


「あ、オルフェウスって言います」

「オルフェウス様ですね。少々御待ちください」


 名乗ると、それを聞いた兵士は城の中へと消えていった。

 うーむ、それにしてもやはり敬語を使われるのは何時になっても慣れないな……。

 少しの間、晴れた青い空を眺めていると、先程の兵士が一人のメイドを連れて戻ってきた。


「御待たせしました。どうぞ」

「ああ、はい」


 そう返事をして、メイドの後ろを着いて城の中へと入っていく。


 それなりの距離を歩いていくと一つの部屋に案内された。

 メイドがその部屋の扉を開いてくれたので足を進めて中に入ると、メイドの仕事はここまでなのか部屋に入ることなく扉が閉められた。部屋に一人残された俺は辺りを見回す。

 部屋は広く、そしてとても豪華な造りをしていて、それでも家具の類が少ない所を見ると、どうやら此処は応接室だという事が察せられる。


「……待てって事か」


 俺の声が寂しく部屋の中に響く。勿論だがそれに言葉は返ってこない。このまま扉の前で立っていても仕方無いので、静かな足取りでソファーへと向かい、腰を下ろす。

 おお、この久し振りの感触……堪りませんな。

 久しく座らなかったふかふかのソファーの座り心地に満足しながら、広い部屋に一人だけという状況だからか妙に胸がそわそわとしてくる。


「あ、そうだ」


 そすいえば、王様から貰った手紙を全部読んでいなかったんだっけか。ならまだ時間がありそうだし今の内に読んでおいた方が良いかもしれないな。一枚目のやつで大体伝えたい内容は全部だろうけど、それでも何か大事なものが書かれていないとは限らないし。

 そう思って俺は亜空間から手紙を取り出す。一枚目はもう読んだので一番下にして読む。


***

追伸

 私の可愛い可愛い愛娘がどうしても君と会いたいと聞かないので、明日の昼食はフィリアと一緒に食べていってはくれないだろうか? 突然で申し訳無いがそうしてくれると助かる。

 勿論、君を満足させられるような料理を出させて貰うよ。君はどんな料理が好きなんだ? 此処らではなかなか食べられない魚もあるし、肉もある。やっぱり君は男だから肉が良いかな?

 くれぐれも、娘を悲しませるような事だけはしないでくれよ?

***


「……ほぼ強制じゃねーか」


 二枚目の手紙を読み終わると思わずそんな言葉が口から溢れる。

 全く、どんだけ娘が可愛くてしょうがないんだよ。まあ別に断るような事情も理由も今のところ持ち合わせていないから良いんだけどさ。

 でも何でフィリアは俺に会いたいのだろうか? 王城で暮らしていた頃に結構仲良くなったつもりはあったけど、……あれ? こういうのってまさか……。


 ──友達。と、いうんじゃないのか!?


 な、なな何という事だ……。俺とした事が知らない内にこの世界で初めて友達と呼べるような関係を、一人の女の子と築き上げてしまったというのか! ……マジか。

 おおおおおっ! 流石は俺。マジぱねぇっ! 最初に出来る友達がまさか女の子で、それに王族だとは思いもしなかったけど、そんなのは関係ない。俺にも漸く友達が出来た、それだけだろ!


「…………っと、危ない危ない」


 ふう、落ち着け。何時の間にか自分の世界へと入ってしまっていた。

 俺は落ち着きを取り戻し、未だにニヤニヤしている口許をむにゅむにゅとほぐしていく。


「もう一枚は、と」


 読み終わったそれを(めく)って一番下に運び、三枚目の手紙に視線を落とす。


***

 最後にもう一つ。他国に視察に出向いていた息子が帰って来たので、城に来るときは気を付けた方が良い。

***


 それだけで、手紙は終わっていた。

 息子という事は、あの王様のっていう訳であり、つまりはこの国の王子様という事になるのか。そのフィリアの弟か兄にあたる王子様が国に帰って来ただけだというのに、いったい俺に何を気を付けろというのか。王様の言いたい事、伝えたい事がさっぱり見えない俺は頭を(かし)げる。

 だけど大丈夫だろう──って簡単に片付けるのはいけない気がしてならないのは、どういう事だ? もしかして俺の勘が働いているのか……?

 そんな風に考え事をし始めた俺は、部屋の扉がガチャリと開く音に気が付けなかった。


「──貴様が、オルフェウスかあああああッ!!」


 俺が部屋に誰かが入ってきた事に気付いたのはこの瞬間で、だがしかし急に現実へと引き戻された所為か身体を上手く動かせなかった。


「なっ、うおぁっ!?」


 そして目の前まで迫ってきた鋭利な剣を視界に捉えてから、僅かに遅れて反射的に身体が回避行動を起こした。

 座っている体勢から上半身を前に倒してすれすれで振り下ろされた剣を回避し、その勢いを殺さずに両手をテーブルに乗せてロンダートの要領でその場から離脱する。此処までを鍛え上げた感覚のままに無意識の内にやってのけ、それが終了してから漸く意識が完全に戻ってきた。


「危ねぇだろお前……って、あああああっ!?」


 突然部屋に押し入ってきてあまつさえ容赦の文字など欠片もなく本気で斬り掛かってきた不届き者に対して、抗議の声を上げようとした。……のだが、そんな時に俺は自分のローブがバッサリと斬り裂かれている事に気が付いて、我ながら情けない悲鳴を上げてしまった。

 そんな悲惨な状態になってしまったローブを見ながら俺は声を荒げる。


「お前、何してくれてんだ! これ結構高かったんだぞ!?」


 ……と、そこである疑問が頭の中に浮かんできた。

 剣は(かす)りもしないで完全に避けきった(はず)。だというのにも(かか)わらず、ローブが斬り裂かれている。そんな不可解な現象を不思議に思って襲撃者の方に視線を向けると、貴族が着るような動きにくい服を身に纏った少年の手に握られた剣に風の(うず)が発生している事に気が付いた。


「だから何だと言うのです? たかが平民風情が、口の聞き方には気を付けるんだな!」


 整った顔が恐ろしい形相になり、再び攻撃を仕掛けてきた。

 それは振り上げた剣を振り下ろすという至ってシンプルで避けやすいものであったが、ここで避けてしまうと被害が増大してしまうのでそれを受け止める。

 しかしそれだけでは攻撃を止めるには至らず、剣に纏わりついた風の渦が爆発するかのように一気に膨れ上がる。するとみるみる内に部屋の壁が、花瓶が、テーブルが、ソファーが、部屋に存在する全てが斬り裂かれていく。

 それは勿論だが俺でさえも例外ではない。時間が経つにつれて服が破れていき、それによって(あらわ)になった肌にうっすらと線が走ったかと思えば血が滲み出てくる。

 この場にたった一つだけ例外があるとすれば、それは剣を持った少年だけ。


「っち、魔剣か」

「ほう? 良く分かったな」


 襲撃者の少年が感心したようにそう言う。


「そりゃあ分かるさ。それだけ存分に使ってればな……っ」

「ははは。……でも魔剣の一撃を()()で止めるなんて、(ただ)の平民では無さそうだ」


 ギラギラとした目を此方に向けた少年が、更に腕に力を込める。

 ──魔剣。それは『魔法剣』とも呼ばれる特殊な剣だ。剣に火、水、風、光、氷、雷、聖の魔法属性が込められたものを総称してそう呼び、俺が付与魔法で属性を付与している剣のようなものをいう。これはダンジョンで手に入れるか付与魔法で作るか、はたまた俺のスキル『武器創造』で創造するかしかない。しかしどれを取っても入手するのはそう容易なものではないので、価値はかなり高いといえる。

 あと最近ではピンからキリまである魔法剣の特に強力なものを魔剣と呼んだりしているとか。

 華やかな服を着て、そんな貴重なものを持っていて、俺を平民呼ばわりする。これから考えられる襲撃者の身分はたった一つ。貴族しかない。


「だが、お前にフィリアたんは渡さん!」

「……たん?」


 え、こいつ急に何を言い出してるんだ? お前にフィリアたんを、渡さん──って、まさか。


「お、お前、もしかして……」

「そうだ。この私こそが次期国王のルシウス=オルネア=リーアストだ! 視察から戻ってきてみれば、私の妹にこんな虫が付いていたとは。今すぐ駆除してやるッ!」



 …………ああ、やっぱり、そういう事か。


 これが王様が手紙でいっていた息子という訳で、重度の妹好き(シスコン)だから危惧(きぐ)していたと。

 それにしても、こんなのが次代の国王様になるのって、大丈夫なんだろうか?

やっぱり、こういうキャラは一人は必要だと思うんです。


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