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第十四話 帰還

「おおっ! やっと戻ってこれましたね師匠!」

「やっとって言ったって、三日しか経ってないんだぞ。それにこれでも予定よりかは早い方だし」

「でもでもっ、あれだけ凄い冒険をした後だと思うと凄く懐かしく思えてくるんですよ!」

「懐かしくって……。お前まだ王都に来たばっかだろ」


 ──と、そんな何気無い会話をしながら俺達はサクサクと草を踏み締めて草原を歩いていた。目の前には二日振りの王都の防壁がすぐそこに見えており、その奥に立派な王城が(そび)え立っている。

 アンデッドとの戦闘が無事に終結してから、幸い酷い怪我を負った者もいなかったので直ぐに王都へ戻ろうと言い出す者共がいたのだが、それでもかなり疲弊(ひへい)している者が多かったので一日しっかり休んでから王都へ戻ることとなった。丁度その場には木々が生えていない野営にはぴったりの場所があったことだし、テントの設営なども意外とあっさり出来てしまった。

 その後はやる事が無くなったので各自で夕食の時間まで自由時間となった。……のだが、最後の夕飯くらいは乾パンに干し肉なんていうしけたものじゃなく豪華にいきたいという声が次々と上がり、結局は皆で森林を散策して色々と果物や木の実、それとアンデッド化していないちゃんとした魔物を狩りまくっていった。そうこうしている内に夕方になって、そこからは空が明るくなりかけるまでお祭り騒ぎだった。流石に酒とかは持ち合わせていなかったけど、とても楽しい夜を過ごす事が出来て俺も満足だ。

 それから昼近くまで死んだように俺達は眠りに就いた。それも見張りを全く付けずに、だ。それには流石に不味いだろうと俺がこっそり周囲に結界を張ったのだが、幼女以外は誰一人としてそれに気付くことは無かった。

 まあ、そんなこんなでぐだぐだと暇潰しに何でもない話に花を咲かせながら王都へ向けて移動していたのだが、それももうすぐ終わってしまうようだ。この三日間……特に昨日の夜では俺もアストさん達のパーティーやセト達のパーティー以外の人達とも結構話をする機会があり、どんな内容だったか忘れてしまったけどとても楽しかったということだけは覚えている。


「それにしても師匠はやっぱり強いですよね。何てったってデュラハンを一人で倒してしまうんですから!」


 王都へと向かうだが道中ずっと俺の話し相手をしてくれているセトは、さっきから俺に関する話ばかりをこれでもかという程している。馬鹿にされている訳ではないので別に悪い気はしないけど、ずっと同じような話を繰り返しているので流石に聞き飽きてしまった。よくもまあこれだけ飽きずに似たような話を楽しそうに出来るのか……。

 逆に感心してしまうくらいだ。


「ま、剣は使い物にならなくなったけどな」


 苦笑を浮かべながらそう答える。

 兎にも角にも、これで金貨三十枚が手に入る訳だ! 大きな仕事も終わらせた琴だし暫くは冒険なんてせずにだらだらと過ごしていこうと思うッ!

 静かにそう心に決めていると、どんどんと王都が近付いてきた。

 東門に配属している兵士達はこの集団の誰もが高ランクの冒険者だと知っていたようで、ちょっとしたどよめきが起こったが問題なく中に入ることができた。やっぱりこの人達って顔が売れているくらいに有名な冒険者だったんだな──と、改めて思い知らされる。……それで頭も回ればなお良かったんだけどな。


「そういやお前達はどのくらい此処にいるんだ?」

「うーん、暫くはいようと思っていますよ。折角来たんですし」

「ふーん」


 言い方からするとまたネルバには戻る予定ではあるようだ。こいつらももうかなり実力も付いてきて有名になってきているようだし、何処でもやっていけそうではあるけどな。

 それにしても、本当にこの集団って目立っているよな。なんか存在感があり過ぎるからか通行人が向こうから道を開けてくる。それを見ると何か悪い気がするのだけど他の冒険者の人達はこれが当たり前のように堂々と開けられた道を進んでいる。セト達は流石に俺と同じくこれには慣れていないようだが、それよりも王都の町並みを物珍しそうに眺めている。

 注目を浴びながら大通りを進んでいくとギルドに到着し、ぞろぞろと中へと入っていく。


「おい、あれって……」

「三日前に出発した編成隊だよな?」

「もう帰ってきたのか」

「いやまだ三日だぞ。早すぎないか?」

「まさか失敗したんじゃあ……」


 ギルドに入って早々に顔バレしているメンツがこれでもかと揃いすぎている所為であっという間に注目を浴びる事となり、そこかしこでヒソヒソと此方を見ながら話し出す者が現れる。

 俺は以前にやらかしてしまった経験があるのでこの視線には慣れているが、あまりこういうものに慣れていないセト達はあわあわと慌てふためいている。

 そんな視線を浴びながらも受付へと向かうと、丁度リーシャさんの受付だけ空いていたのでぞろぞろとその前へと移動する。既に俺達の存在に気付いていたリーシャさんは「えっ、こっち来んの?」みたいな顔をして苦笑いを浮かべている。


「ギルドマスターを呼んできてくれないかな」

「あ、はっ、はい。少々お待ち下さい……」


 代表してこの中で一番まともそうなアストさんがそう言うと、リーシャさんは俺達に小声で待つようにと言って逃げるようにしてその場から離れていった。やっぱり予定では五日は調査に向かう筈だったからもう帰ってきた事に驚いているのだろうか。

 ともあれ、原因であろう高密度の魔力を放っているデュラハンは俺がこの手で討伐した事だし依頼失敗と見なされるようにはならないと思う。でもまあどうやってこの短期間で依頼を達成したのかは聞かれるだろうけどな。


「待たせたな。早速話を聞かせてもらいたい所だが……。応接室にその数は入らないから代表者を、そうだな……三人ほど出してくれ。それ以外は少し待っていてもらいたい」


 程無くしてギルドマスターがやって来て、数をしぼるようにと言ってきた。それに俺達は「誰が行くんだ?」と目だけで会話をしながら互いに顔を見合わせる。


 ──数分後。

 応接室にはギルドマスターとリーシャさん、俺、アストさん、幼女の五人が座っていた。

 この三人が選ばれた理由は至ってシンプルなものだ。取り敢えず幼女は編成された調査隊のリーダーだから当然だし、アストさんはあの中でまともな人を探したら選ばれただけだし、俺はこの依頼の目的を達成した張本人だからだ。俺はこういうものは面倒なので出来れば他の人に押し付け……任せたかったのだが、しょうがない。


「では、話を聞かせてもらおうか」

「はい。簡単に言いますと、依頼は達成しました」


 隣で話に参加しようとせずに黙々とお茶請けを口の中に放り込んでいる幼女はまあ論外として、俺達を代表してアストさんがそう言った。


「それを証明できるものは?」

「ギルドカードに記録されている魔物を見れば分かるかと」

「そうか。それで、どうだったんだ?」


 ギルドマスターは予定していたよりも二日も早く帰ってきた俺達が依頼を失敗して帰ってきたとはまるで思っている様子はなく、それからセディル大森林の状況について色々と気付いたことをそのまま報告する。例えば激減した魔物の数が元に戻ってきている──とか、ファフニールが展開していた特殊な結界の事とか、アンデッドの強さについて、その場の自然環境の様子と今後どうなっていくか、俺の付与魔法、等々だ。

 話が進んでいくとやはり俺が討伐したデュラハンの話も出てきて、それをたった一人で討伐したと聞くとギルドマスターもリーシャさんもとても驚いた。まあCランク冒険者である俺がいきなりSランクに指定される魔物を単騎で倒してしまえばそうなるのも分からなくもないが。


「……成る程。大体は理解した。しかし報酬は少し待ってもらえないか? 此方も国への報告や報酬の金額の検討などが残っているのだ」

「はい。勿論構いません」

「では、話は以上だ。他の冒険者にもそう伝えてくれ。……ああそれと、ギルドカードだけ提出しておいてくれ」

「分かりました」


 そうして、ギルドマスターへの依頼達成の報告は無事に終了した。

 結局、俺も幼女も全く話に参加せずにアストさんに全て丸投げしてしてしまった。


 応接室を出てロビーに戻り、ギルドマスターと話し合った内容を簡単に説明する。

 依頼達成の報酬の受け取りが後日になった事には少し不満があるようだったけど、何となくそんな事だろうと分かっていたのか渋々と了解してくれた。

 そしてやる事が終わった俺達はそれぞれちょっとした言葉を交わしてから別れて、俺はセト達と一緒に大通りを歩いていた。あの人達とはあた会う機会もあるだろうし、その時にはまた話せたら良いな。


「……はぁ。何で俺が」


 本当についてない。依頼の達成報告が終わった後は直ぐに何処か宿をとってゴロゴロしようと密かに心に決めていたのだが、それが一体どうした事だろうか。一人そそくさと帰ろうとしている所でセト達に捕まってしまい、まだ王都に来たばっかりだからと言って俺に案内をせがんできたのだ。頼られているのは別に嫌な気分にはならないけど、今の俺にとっては非常に迷惑この上ない。

 それにもう一ヶ月くらいは王都に住んでいるからと言っても俺は殆ど王都の観光なんてしてこなかったし、此所の地理に詳しくなった訳でもない。道に迷った時は立ち並んでいる屋根に飛び乗って場所を把握してたりもするしな。なので俺ではあまりこいつらの役には立てなさそうなんだけど……。


「だって、師匠以外に知り合いとかまだいませんし……」


 セト達は此処に来たばっかりなので知り合いもいない。つまり俺しかいないという訳だ。

 なのでそれを言われると何も言ってやれなくなる。


「じゃ、闘技場でも行くか。丁度今日やるらしいし」


 俺が案内出来るような場所、と言ったらもう此処以外に思い当たる場所なんて一つもない。これで満足いかないのならば他のを探す必要があるが……。


「あ、良いですね!」

「一度見てみたかった」

「やっぱりそこは外せないよね!」


 ……おおう、思っていたよりも反応が良いっぽいな。俺の時は人が喧嘩しているのを見て楽しむなんて無理だろう──とたかを括っていたものだが……。俺が知らなかっただけでやっぱり闘技場って別の町にも行き渡るくらい有名な観光名所だったのだろうか。

 何はともあれ、俺の提案が却下されるような事が無くて良かった。


「よし、決まりだな」


 そうして俺達は目の前に聳え立つ闘技場へと足を向ける。あーあ、面倒くさいなー。

 ……あ、そうだ。俺の計画を台無しにしてこいつらの頼みを聞いてやるんだから、こっちも何かしら要求しても別に良いよなぁ?


「……? どうしたんですか師匠」


 おっと、危ない、危ない。どうやら俺としたことがあまりにも面白い事を考えてしまった所為で顔がにやけてしまっていたようだ。


「何でもねーよっ。早く行こうぜ。()()()()()()なるかもしれないしな」

「あ、待って下さい師匠ー!」

「「……(何だろう。嫌な予感がする)」」


 顔を見られないようにと、エントリーに間に合う為にも俺は闘技場へと走っていった。

 その背中を追うようにして追いかける三人の内の二名は何処か考え込むようにしていたが、置いていかれそうになって考えることを止め、急いで大通りを走り抜けた。

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