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第十三話 アンデッドの巣食う場所 ④

ごめんなさい。戦闘シーンは次に持ち越しのようです。

「はあっ! ……っと、これで粗方片付いたな」

「……そっすね」


 霧のように霧散(むさん)していったアンデッドを見ながら、俺は素っ気なくそう言葉を返す。

 いやもうその言葉しか出てこなかった。


 ──俺達が結界の中に足を踏み入れてから、一時間が経っていた。


 一時間前、総勢二十名の冒険者は一斉に結界の中へと突入していき、それからたったの十秒も経たずに魔物との戦闘が開始された。

 外からでもずっと魔物の気配があるのは感じ取っていたので、突入したら直ぐに魔物と戦闘になると予想していた。その情報は冒険者全員と共有していたので然程(さほど)の混乱も招かずに的確な対応を取ることができた。

 そして俺の予想していた通り、待ち受けていたのはアンデッド化した魔物の大群だった。

 まあ、予想していたまんまの展開になったのは別に問題ないのだが、そこからが予想外だった。


 ──俺の付与魔法が思っていた以上に強力すぎたのだ。


 指にはめた魔道具によって魔力が一パーセントに制限されている以上、それなりに本気を出さなければアンデッドに対して効果が薄いだろう。そう思い、そこそこ本気を出して付与を行った。

 するとどうしたことか、思ったよりもかなり強力な付与を施してしまったようで、ほぼ一撃でアンデッドが塵となって消えていくではないか。

 別に悪いことは全くしていないので反省はしていないけど、ちょっと張り切りすぎてしまったらしい。

 結界に入ってすぐに百を超えるアンデッドと結界に挟まれてしまったのだが、ほぼ一撃のもとに討伐することが出来たので、それほど時間を取られることもなく駆逐(くちく)することに成功した。


「──おい」

「ひっ……!?」


 と、不意に後ろから声を掛けられた。

 それには確かな怒気が籠っいるのが手に取るように分かり、思わず身体をビクッとさせてしまうくらいには恐ろしい声だった。

 ギギギ……と、そんな擬音が聞こえてきそうなほどぎこちなく振り返った先には、一人の冒険者が光っている腕をわなわなと震わせながら立っていた。


「な、何ですか、グランさん……?」


 言いたいことは直ぐに理解することが出来たけど、とぼけたふりをしてそう訊いてみた。

 すると無造作に拳を握り締め、振り上げる。


「……っ!」


 こ、怖いっすグランさん! その拳で殴られたら俺もアンデッドみたいに浄化されちゃいますって!


「コレ、戻してくれるよな?」


 そんな風に怯えている俺にグランさんがそう言って俺の目の前へと突き出してきたのは、やはり色々な意味で存在感が拭いきれない腕だった。

 顔は笑っている筈なのにどうしてこんなに怖いのだろうか?

 やばい、早く何か言わないと……!


「で、でも危険ですし……」

「ああ? 何処が危険だったんだ? なあ、凄腕の付与魔法使いさん?」


 グランさんの言葉に言い返すことも出来ずに俺は口を閉ざしてしまう。

 す、凄腕だなんてそんな。……この状況じゃあ微塵も喜べないんですけど。

 確かに、丁度ここら辺のアンデッドは殆ど倒し終えた所だが、それを成すのに冒険者が五人もいれば事が足りてしまった。

 勿論、この場にいるのが一流の冒険者達であることも影響していると思うのだが、それ以上に俺の付与魔法が強力すぎてしまった。


「これからまだ出てくる……」

「それに俺は、必要あるのか?」


 ……まあ、ぶっちゃけて言うと必要ないかもだけど。

 この先にはまだまだアンデッドが蔓延っているようだけど、失礼な言い方だが近接戦闘のグランさんではまあり役には立てないだろう。

 と言うのも、初手の遠距離からの魔法攻撃によって百を超えるアンデッドを纏めて一網打尽にしてしまうからだ。


 本当は牽制(けんせい)のつもりでやってみただけだったが、思ったよりもアンデッドに対して有効すぎた。


「っくくく」


 そう俺がグランさんに詰め寄られている時、少し離れた場所から笑い声が聞こえてきた。

 見るとアストさんが堪えるように口に手を当てて笑っている。


「グラン、もうちょっとそのままでも良いんじゃないかい? ……くくっ」

「…………」


 ちょっとおおおおっ!?

 何を言っているんですかアストさん!

 そんな事を言ったら……。


「……貴様」


 ほーら言わんこっちゃない。グランさんめちゃめちゃ怒っちゃったじゃん!


 というかアストさんって意外と性格悪かったり。初対面の人には礼儀正しそうだけど、仲間に対しては思ったよりもくだけた態度で接していたりするのか?

 そう考えると、仲間って良いな~とも思ってしまうが、流石にもう少し空気というものを読んでほしかった……。


 って、そんな事より! 取り合えずグランさんの付与を解除して機嫌を直してもらおう。


「グランさん! 今すぐ戻しますんで、落ち着いて下さい!」

「いや、ちょっと待て。こいつを一発殴ってからにしてくれ。どうやらこいつには〝聖なる鉄拳〟を食らわせなければいけないらしい」


 ………………。

 何だろう。こんなに怒っているグランさんは初めて見た気がする。

 というか〝聖なる鉄拳〟って……。いやまあ文字通り今のグランさんの拳なら〝聖なる鉄拳〟なんだろうけど。まさかとは思うけど、本気でそんな事を考えていたりはしてないよね……っ?

 付与魔法によるアンデッドの末路をグランさんは知っている筈……、だからそんな物騒な拳を振るわないと信じたいんだが……。


「ぷぷっ、〝聖なる鉄拳〟って何さ。バカも休み休み……ぶへぁべしッ!?」


 アストさんが言い終わる前に、何時の間にか接近していたグランさんが、その顔面を容赦なく殴り飛ばした。


「アストさーーーん!」


 俺としたことが、つい思わず叫んでしまった。

 そして鮮やかに宙を舞ったアストさんは数メートル吹き飛んでからどさりと地面に落ちた。

 一部始終を目撃していた冒険者達は突然の事にどよめき、それに反応した冒険者達も何事だと此方に注目し始める。


 それよりもアストさんは無事なのだろうか。武闘家の聖属性の付与がされた一撃をもろに顔面から受けたので無事ではないだろうが、鼻の骨を折っていなければ良いのだが……。

 まあグランさんを必要以上に(あお)ったアストさんが一方的に悪いのは確実なので怒られるのは同然だとは思うけど。

 アストさんの心配をしていると、グランさんが此方に振り返った。


「おい、もう良いぞ」

「……あっはい」


 やり遂げたといった清々しい顔でそう言ってくるグランさんを見て、もう良いやっていう気持ちになってしまった俺は、それに従いさっさと付与を解除する。

 うん、やっぱり犠牲というものはどんなものでも最小限に抑えるのが一番だもんな。ここは大人しく従ってこれ以上の犠牲を出さないようにしなくては。


「アストさん、大丈夫ですか?」


 その後で未だに地面に大の字で転がっているアストさんのもとへと向かい、出血はしていないか、骨は折れていないかを入念にチェックする。特に顔面を。

 見た感じは大した怪我を負った様子は見受けられないけど、少しだけ鼻血が出ている。

 ……まあ武闘家に容赦なく殴られてその程度で済んだのなら、まだ良い方だとは思うけど。


「いつつ……。もう少し手加減してくれよグラン」


 鼻を押さえて止血しながら立ち上がったアストさんは思ったより元気そうなので安心する。


「……これでも加減はした」


 まだアストさんに怒っているグランさんは顔を背けて言う。

 あれで手加減はしていたのか。グランさんのレベルっていくつなんだろう? 

 そういえば俺もここ最近は『ステータス』を確認していなかったな。この依頼が終わって王都に戻ったら見てみるかな。


 それから十数分の休憩を特にアストさんの為に取ってから再び行動を開始した。


「それにしても全然出てこなくなったな」

「あれで全部だったりして」

「それは無いだろう」

「ま、あの倍の数が来ても余裕だろ」

「そうだな」


 移動している最中、冒険者達はそんな話しをしながら足を進ませている。

 どうやら俺の付与魔法にかなりの信頼を置いてくれているみたいだが、あまり油断はしないでほしい。高位のアンデッドが出てきたりすればそれが通用するか分からないし。


 まあ何かあれば聖剣持ちの幼女やセトに任せれば良いし、それでも厳しいようなら俺が出れば良いだけだし。


 それにしても段々と森林の雰囲気が不気味になっていくな。入ったすぐの場所に比べて明らかに木々が枯れている……というよりも、毒に侵されている感じがするといった方が正しい。

 とても痩せ細ってしまっているが、枯れているという訳ではないので葉はしっかりと生えている。まあそれがより一層に不気味さを引き立てているが。

 これはファフニールが此処にいたという証拠にも繋がっていると考えられるけど、それと同時に魔素が濃くなっていくので誰か魔力酔いになりはしないかと心配になってしまう。


「ねえ」


 先頭を歩いていた幼女が、立ち止まって俺に話し掛けてきた。


「ん? どうした」

「魔物のの気配がしたからする」

「その事か」


 幼女が言ったのは魔物……アンデッドの気配が地上からではなく、地下から感じられるという事だ。

 それは俺もかなり前から気付いていた。


「ま、頭の回る奴が居るんだろう」

「強い?」

「さあな」


 知らない、という事にしておいたが本当は知っている。

 俺の感じ取れる範囲では一体だけかなり強力なアンデッドがいるようで、そいつは多くのアンデッドに守られるように地下の大空洞に居座っている。

 恐らく、此処にいる冒険者達では話にならないだろう。

 この中で対抗できるとすれば俺がこの幼女くらいなものだ。


「……あそこか」


 そうこうしている内に、結界の中心地に辿り着いた。


 視界の先には森林の中にぽっかりと空いた何もない空間が広がっていて、そこにはアンデッドの姿は見られない。

 そして中心には地下へと続いているであろう階段が作られている。そしてその先にある大空洞で、何千というアンデッドの大群が俺達を待ち構えている。


「何だあれ。……階段?」

「アンデッドはいないようだが」

「俺達が目指してきたのは此処で合ってるんだよな?」

「待て、あの先に何かいるみたいだぞ」

「……罠か?」


 口々に言う冒険者はとても戦場に立っているとは思えない。

 ここからが本当の戦いになるというのに、少しは緊張感を持ってもらいたいものだ。

 まあそれはこの後すぐに必要に持ってもらう事になるなるけどな。


「静かに。これからあのなかにいく。油断はきんもつ」

「「「「「──ッ!」」」」」


 こんな幼女に言われても……と、俺でさえ思ってしまったが、それは一瞬で掻き消された。


 これまで全く戦闘に関わってこなかった幼女──いや、剣聖ルナが、聖剣を召喚したのだ。


 幼女の背丈に見会わない長い聖剣から放たれる聖なる光は非常に凄まじく、一瞬にして辺りを光で包み込んでしまった。

 そして光が収まった時と、目の前の地下へと続く階段の先から雄叫びが上がったのはほぼ同時だった。

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