第十三話 アンデッドの巣食う場所 ③
いつもより短いです。
次の日。
昨日は食料などの荷物を積んだ馬車を二台も連れて森林を通ったので結界のもとまで行くまでに四時間も掛かってしまった。
何故そこまで時間が掛かってしまったのかというと、先ず木々の間が狭すぎてやむを得ずに何本か斬り倒しながら進まなくてはいけなかったという事だ。
道があった時の速度を考えるとかなりの時間を費やしてしまい、本音をいうと結界までの木々を全部まとめて吹き飛ばせば良いんじゃないかとも思ってしまった。しかしそれをしてしまうと流石に結界の中にいる魔物に気付かれてしまうかもしれない──という言葉が出たので、仕方無くちまちまと此処までやって来たという訳だ。
それだけならまだそこまで苦労もしなかったのだが、それによって騒がしい音を長時間に渡って出してしまったので遠くからも魔物が集まってきてしまったのだ。その所為で予定よりも多くのポーションを使ってしまう羽目になってしまったのはこの先の事を考えると痛い出費だ。
「じゃあ一人ずつ武器を渡してください」
大まかな準備が終わったのを確認してからそう言って冒険者の武器に聖属性の付与を施していく。
そう言えばこの編成隊には火魔法のスキルを持っている人が少ない。
なぜ火魔法のスキルを持った冒険者が少ないのか? その理由は恐らく此処が森林という火が燃え広がり易い環境だという事にあり、なるべく被害を出さずに最小限に抑えたいというギルドや国の意向の現れだろう。まあ俺の予想通りにこの先にアンデッドがいたならばその意向の所為で大変な目に逢っているだろう。本当に俺がこの依頼を受けていなかったらこの冒険者達はどうなっていたことやら……。
アンデッドと戦う場合は火魔法、光魔法、聖魔法、神聖魔法などが有効な攻撃手段として挙げられるのだが、その内の光魔法、聖魔法、神聖魔法のスキルは稀少なものだったりする。なのでアンデッドと戦闘するにはありふれたスキルである火魔法で対抗するのが多いのだが、この場で火魔法を使えるのはアリシアとニグルさんしかいない。そしてアーラルさんが一人だけ光魔法を使えるくらいだ。
─まあ、アンデッドがいなければこんなものも意味ないだろうが……。
剣、魔法杖、槍など一人一人の武器に聖属性付与をてきぱきと施していき、もう半分以上は付与をし終えた。
そして最後の人になった時、ちょっとした問題が生じた。
「俺はどうすれば良い……?」
最後の人は俺も知っている人で手には武器らしきものは持たれておらず、当人は少し困った顔をしながらそう訊いてきた。
まあ別に武器を持っていない訳じゃなくて己の拳が武器だというだけなのだが……。
「うーん、グランさんに直接付与しないと駄目ですかね……」
そう、最後の人はアストさんのパーティーに所属しているグランなのだが、そう言えばと思い返してみると武器を持たない〝武闘家〟という職業なのだ。
つまりは本人に直接、俺の付与魔法を掛ける他にもしアンデッドが推測通り出てきた場合に対抗できる手段が無くなってしまう。
要するに、まあ……そういう事だ。
「……あ?」
その事を理解したグランさんは、とても嫌そうな顔を此方に向けてきた。
だがまあグランさんがそれを嫌がるのには俺も、この場にいる冒険者達も、例え誰に訊いたとしても賛同できてしまうだろう。もしもこの状況が理解できていない者がいたとしても、恐らく既に聖属性の付与を行った武器の数々をご覧になればご理解頂ける事だろう。
どうしてかというと──。
「俺も、アレみたいに光るのか……?」
僅かに震えた指でグランさんの指した方向には武器に付与を施し終えている冒険者達がおり、準備万端の様子で自分の得物を握り締めている。
そしてその武器……剣であっても、魔法杖であっても、槍であっても、それらからは何一つの例外もなく微弱だが聖なる光が放たれているのだが、……、ここまで説明して分からない者はいないだろう。
「だ、大丈夫ですよ。腕だけにとどめておきますから!」
半ば諦めたように落ち込んでいるグランさんに何とかして励まそうと言葉を投げ掛ける。
「それの何が大丈夫なんだ……」
「あはは……」
どうやら逆効果だったようだ。
──それから数分。
「じゃあ、いく」
何時もよりも心なしか気合いの入っている声で言った幼女に俺達は無言で応えるようにそれぞれの得物を構える。
そこには先程までの気の緩みなど微塵もなく、本当に本気の集中状態に突入した一流冒険者達による張り詰めた空気が漂っている。
それも一名を除いて、と付け加えた方が正しいのかもしれないが……。
そして、俺達は結界の中へと足を踏み入れていった。
次から戦闘シーンがばんばん出てくる{予定}!




