第十三話 アンデッドの巣食う場所 ②
数分後、休憩している冒険者達のもとまで戻ってきた。
そして直ぐに事情を話すために幼女が声を掛けて冒険者達を一ヶ所に集めた。
冒険者が集まり終えると、それを見計らったように幼女が口を開く。
「このさき、けっかいがあった」
それだけ言って、幼女は黙りこくった。
……って、は? それだけっ?
嘘だろと思いながら幼女を見下ろすと、どうやら本当にそれだけしか言うつもりは無いようだ。
俺は溜め息を吐きながらそれを補完するため口を開く。
「あー……っと、こっから十キロくらい行った所に結界魔法による結界が張られてありました」
すると幼女へといっていた冒険者達の視線が一斉に俺へと集まる。
「それで、その先に俺達は向かっているので結界の中に入らないといけないんですけど……」
そこまで話した時、一人の冒険者が手を挙げた。
「ちょっと良いか?」
「あ、どうぞ」
すると今度は視線が俺から外れてその冒険者に集まる。
「その結界は誰が張ったものなんだ?」
「俺はファフニールだと思ってます。恐らく込められた魔力が多かった所為でまだ結界が維持されているのかと」
俺の考え……と言うか、事実をそのまま説明する。
あの結界からはファフニールの魔力が感じ取れたしな。
「成る程。じゃあその結界の性質は?」
「簡単に調べただけですが、外からは中に入れるけど、中からは結界の外に出られないようです」
その言葉を聞いた冒険者達はざわつきだす。
それも仕方のない事なのだろう。
いくらありとあらゆる冒険を切り抜けてきた冒険者をしてきて長いとは言え、これまでそんな特殊な結界を聞いたことがないのは仕方のない事だ。
「それじゃあどうすんだ?」
「結界の中には入らないといけないだろうしな」
「入ったら出られないってマジかよ……」
「中の情報がないのは厳しいな」
「入るんなら全員一斉にじゃないと駄目か」
「なら普通に結界壊したら良いんじゃねえのか?」
等々、様々なことが聞こえてくる。
しかしこのままだと全然話が進まなそうなので、俺も意見を出してみる。
「……多分ですが」
そこまで言った所で、ついさっきまで騒がしかった冒険者達が一斉に口を塞ぐ。
……え、何このよく分かんないけど期待されているような雰囲気。
俺にそんなに期待されても困るんだけど……。
「……多分ですけど、魔物がかなりいる事は分かっているんですが、俺の推測だと結界の中にはアンデッドがうようよしていると思います」
流石にこれは本当に唯の推測なので断言できないが、かなり可能性としては高いと思う。
まあ、それ以外だと普通にファフニールの下についた魔物っていう考えもあるけどな。
あの竜の事だからもしスタンピードの時の魔物の大群を耐えきれた場合に備えての第二波だったりもするかもしれない。暇潰しに国を滅ぼそうとするような奴なんだからそのくらいの事は思い付きそうだしな。
「アンデッドだと?」
「囲まれたらヤバくないか」
「光や聖魔法使える魔法使い何ていたか?」
「いても数足りねえだろ」
「対策を練らないとな……」
「そもそも対策なんて出来んのかよ」
ざわざわとまたしても話し合いが始まるが、これといったものが出てこない気がしてならない。
でも一応は暫く話し合い静観しようと決めて様子を見続けるのだが、やはりと言うか何と言うか話が纏まらずに段々と口数が減っていく。……おいマジかよ案の一つも出ずに話し合い終了とかふざけてんのか?
そして結局、完全に静かになると一斉に此方へと助けを求めるように視線を向けてくる。
「…………」
え、なんすか意味が分からないんですけど。
どうしてさっきから結局は俺が何かしら言わなくちゃいけない空気作り出してんの?
……まさかとは思うけど、此処にいる奴等って実は戦闘以外は基本的に脳の無い考えることが出来ないような人達ばかりの塊だったとか何かなのか? 色々と話し合うまでは良いんだが、それから何も生まれる事なく困ったら俺に任せようとしてくる所を見るとそんな感じがしてならないんだが。
一応は戦闘経験が豊富な人達だからそっち方面では頼りになるのかもしれないが、それ以外は皆無ですなんて奴等なのか? 一応は指名された冒険者なのに。
「まあ、考えが無いわけでは無いんですけど……」
そう言葉を発すると、冒険者達が期待に満ちた目で此方を見てくる。
あのギルマス、何ていう面倒な奴等を指名してきたんだよ……っ!
いや実力があるのは別に問題ないから全然良いんだけどさ、せめてもう少しは頭の回る者をこの中に組み込んで欲しかったんだけど。
と言うかリーダーである幼女が一番話し合いに参加してないし。
こんな偏り過ぎている編成で良くもまあ大丈夫だと思ったなあのギルマスは。
「俺、付与魔法が使えるので皆さんの武器に聖属性付与を行えばいけるんじゃないかなーって……」
「「「「「おおおっ!」」」」」
……いや、本当に何これ。何で皆こいつすげえみたいな眼差しで俺を見てくるの?
まあでも付与魔法そのものはかなりレアなスキルなのは知っているけど、一応付与魔法なんてスキルが無くても付与は出来るんだからそこまで驚かれても困る。
何故かスキルを持っていないと魔法は使えないみたいな認識が広く普及しているようだけど、別に魔法なんてスキルが無くても使うことは出来るのに。
先天的なスキルは自分の才能によってあるかないかで決まり、後天的なスキルは神から努力を認められて与えられた恩恵という説がある。
先天的なスキルとはもう生まれ持った才能の現れと言うしかないが、努力して得られる後天的なスキルの取得だって出来る。
つまりは魔法が使えない者であっても努力次第では魔法スキルを取得する事だって出来るという事であり、魔法以外にも剣術などのスキルだって欲しいと思えば手に入れられる。
じゃあそのスキルを手に入れるまでは魔法を使えないのか、剣を振る事が出来ないのか?
その答えは〝否〟だ。分かり易い例えで説明するならば『料理』のスキルが無ければ料理は出来ないのか? 『投擲』のスキルが無いと小石すら投げられないのか? 『近接戦闘』のスキルが無ければ相手を殴ることも蹴ることも出来ないのか? 『算術』のスキルが無ければ簡単な計算すら出来ないのか?
つまりは、そういう事だ。
「だから、今日は取り敢えず結界の所まで進みましょう。まだ時間はたっぷりありますが、馬車も一緒にだと時間が掛かると思いますので」
俺のいた時代でもそうだったように、今の時代もスキルが無ければそれは出来ないという偏見が根深くこびりついている。
確かにスキルの恩恵があれば自力でやるよりも遥かに楽ではある。
そう考えるとそんな偏見が出来るのもしょうがないのかもしれないが、流石に出来ないという誤認くらいは無くして欲しい……。
全員での話し合い(?)によってこれからの方向が決まり、それからは順調に馬車を進めた。
やはりもう道が途絶えているという事もあっていちいち馬車を止めては木々を避けていかないといけないが、まあ今日は結界の場所まで行くだけだからどれだけ時間を使っても問題ないだろう。
「オルフェウス君、ちょっと良いかな」
この冒険者の人達って何か俺が思っていた感じとはちょっと違うな──と、ぼんやりとそんな事を思っていた時、後ろからそう声を掛けられた。
振り向くとアストさんがいて、何処か心配そうな顔をしている。
「アストさん。どうしたんですか?」
「君は付与魔法で全員の武器に聖属性を付与すると言ったよね?」
その質問にはい、そうですけど──と答える。
「その……魔力は大丈夫なのかい?」
ああ、そういう事か。確かにアストさんの心配することは分からないでもない。
全員ともなると予備を含めなくてもざっと二十人分もの武器の一つ一つに付与魔法を使わないといけないので、魔力の消費はかなり多いのは俺だって知っている。
しかも今の俺は指にはめている指輪によって本来の百分の一の魔力量しか扱うことが出来なくなっている状態だ。
「大丈夫ですよ。別に永続付与をする訳でもないですし」
「そう、なのかい? なら良いんだけど……」
付与魔法に関してあまり詳しい知識を持ち合わせてないアストさんは言われるがままに納得する。
と言っても、別に魔力の消費なんて俺からしてみればそんなに大したものでも無いんだけどな。魔道具の効果で一パーセントの魔力しか使えないとしても、たかだか二十人分の武器に付与魔法を掛ける程度で俺の魔力が枯渇するなんて事はない。まあそれでも二割くらいは減るんだろうが、そのくらいなら時間が経てば全快するし、億が一にも無いとは思うが魔力が足りなかったら指輪を取れば良いんだけの話だし。
まあその効果を半永久的に持続させる永続付与を二十人分の武器に付与するとなれば流石の俺も今の状態だと厳しいが。
それにしてもアストさんは優しいな。
「右から魔物が来るぞ!」
俺は勿論分かっていたが、魔法使いの人がそう声を上げる。
「俺が行きます!」
戦闘面ではまだ全く貢献していないので、直ぐに俺はそう言って馬車から離れる。
位置は特定しているので速度を落とさず木々を避けながら森林を駆け抜ける。
すると直ぐに魔物の姿を視界に捉える。
「グォォオオオッ!」
そして同じように魔物──シルバーコングも俺の存在に気付く。
シルバーコングとは鈍い銀色の毛色をしているでかいゴリラのような魔物で、確か危険度がBランクに位置する魔物だったと記憶している。
そんな魔物が、一直線に俺の方へと駆けてきた。
「攻撃がストレート過ぎだな」
全く此方を警戒することなく突っ込んでくるシルバーコングに思わず溜め息を吐いてしまう。
ああいう魔物は他の魔物と比べると知能が高い魔物に分類される筈なのだが、そんな避けてくださいと言わんばかりの行動を取られると逆に此方が何かあるんじゃないかと警戒してしまう。
もしかしてこいつ俺が弱いとでも思っているのか? ……いや良く考えると俺って普段は魔力とか隠してるし、更に付け足せば見た目がもろ何処にでもいる唯の少年……。
これだと嘗められても仕方ない、か。
「よっと」
少し傷付きながら、そして不機嫌になりながらもシルバーコングの突進を横に跳んで回避する。
そして目の前まで近付いた木の幹を蹴って進行方向を変えシルバーコングの背後へと地面に足を付けずに回り込む。
この一連の動作の内に鞘から引き抜いていた短剣を容赦なくその背中に振り抜いた。
「討伐完了……っと」
背中を深く斬り裂かれたシルバーコングは一瞬で絶命し、その場に崩れ落ちる。
それを見届けた後に俺は先に行ってしまった馬車を追い掛ける為にその場をあとにする。
魔物の素材は亜空間の中に入れて持ち帰っても良いのだが、他の冒険者から良く思われないと判断してそこは……潔く諦める。……べ、別に後悔なんてしてないからな!
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