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第一話 ジェクト=オルネア=リーアスト ①

「んん……」


 目を覚ますと、そこは知らない部屋の中だった。どうやら俺は先程までベッドでぐっすりと眠っていたようで、その所為かまだ頭がまだボーッとしていてこの状況を理解できないでいた。だが時間が経つにつれ段々と意識がはっきりとしていき、少しずつ今の状況を理解でき始めた。

 俺の視界いっぱいには天井が広がっていて、それだけでこの部屋がどれだけ広いかという事が理解できる。というかこのベッド、超ふかふか何ですけど。枕も布団も最高な感触でまたこのまま眠ってしまいそうな程だ。……っと、そんな呑気な事も言ってられないので取り敢えず目だけを動かして先ずは左を見る。

 すると窓があった。縦長で両開きの窓のようでその両端には真っ白いカーテンがあり、今は紐で縛られている。その窓からは青空だけが見える。その他には……窓のちょっとしたスペースに花瓶が置かれていて、とても綺麗な花が咲いているくらいだろうか。

 そして次は左を……見……る……。


「おはようございます。良く眠れましたか?」


 そこには一人の女性がベッドのすぐ横で椅子に座って此方の様子を(うかが)っており、俺と目が合うと表情は変えずにそう言ってきた。

 貴族の使用人が良く着てそうなメイド服を身に纏い、まだまだ若そうに見えるが顔に張り付けた無表情の所為で少し大人びて見える。


「あ……えっと……。おはようございます……?」

「お身体の具合は大丈夫でしょうか?」


 その言葉を聞いた途端(とたん)に、頭の中にとある記憶の断片(だんぺん)が途切れ途切れだがそれでも鮮明(せんめい)に浮かび上がった。そう言えば俺、シエラとイリアの二人と別れて宿に戻ろうと走っていた時に……気絶したんだっけか。


「……大丈夫です。お気遣いありがとうございます。それより此処が何処だか訊いても良いですか?」


 こういう時の話し方がいまいちよく分からないので取り敢えず敬語で話し掛けてみる。

 するとメイド服を着た……もうメイドさんで良いや。メイドさんが少しの間だが俺の顔をじぃと覗き込んだ後で、やはり表情は変えずにゆっくりと口を開いた。


「此処は王城です」

「はあ、そうですか……って、王じょ──」

「静かにしてください」

「……はい」


 驚きのあまり大きな声を出してしまった瞬間、メイドさんが冷たく鋭い目でそれを制してきた。いや、この人普通に怖いんですけど!

 でも王城か……。俺が今いる此処が毎日でけえなーと思いながら見上げていた王城だなんて、聞いただけだとあんまり実感がわかないな。


「私からも質問……と言うより確認を。貴方様の名はオルフェウス様で間違いないでしょうか?」

「そうですけど……。俺は何で王城にいるんですか?」

道端(みちばた)に転がっていたのをフィリア様が拾って来られた、と聞いておりますが」

「…………」


 何この子、俺に対して凄い扱いが雑すぎなんじゃないですか!?

 確かに、確かに状況的に考えると俺は道端に転がっていたのかもしれないけどさ、何か他に違う言い方があったんじゃないですか!? いや何一つとして間違って無いんだけどもさ、もっとこう……、オブラートに包むような配慮が欲しかったんですけど。メイド服着てるんだからそのくらいの気遣いはしてほしかった! というかそんな適当なこと言った奴って誰だよ!?

 ……あれ、ちょっと待って。メイドさんその後に何て言った?


「フィリア様って、……まさか」

「そのまさかです」


 頭に上っていた血が一斉にひいていくのが分かった。

 つ、つまり、王女様が俺を拾って……助けてくれたっていう事なのか? 確か俺は大通りの隣の道を走っていた筈だったよな……。そう考えると良く見つけられたな。それにそれが王女様だったなんて、どんな確率なんだよ。

 まあ何はともあれお礼を言わないといけないな。どうやらファフニールの毒も治してくれたようだし、王城に連れてきてまで面倒を見てくれたんだからな。


「そうですか」

「はい。では私は報告のため失礼します」


 そう言いながら椅子から立ち上がり、その場で一礼して返事も待たずに部屋から足早に出ていってしまった。

 取り残された俺はというと暫くの間そのままの体勢で部屋の扉を眺めた後でゆっくりと起き上がる。すると服を着替えさせられている事に布団が(めく)れて(あらわ)になった上半身を見て気付き、再び暫くの間そのままの状態で自分を見下ろす。

 これ、まさかあのメイドさんがやったとかじゃないよな……?

 ありもしない事を考えながらメイドさんが帰ってくるのを待っていると、部屋の扉がノックされる音が聞こえた。どうやらもう報告から戻ってきたようだ。


「はい」


 中に居るのは俺一人だけなので、このノックは俺に対してのものだと判断して返事をする。


「失礼します。お食事をお持ちしました」


 戻ってきたメイドさんはそう言って持ってきたそれをテーブルに置いた。その料理の数々に急にお腹が空いてきてしまうくらいにはその料理の数々はとても美味しそうに見えた。

 この部屋には目の前のメイドさんと俺しかいない。つまりこの食事は俺のために用意してくれたのだという事は明確なのだが……。あまりこういうのに慣れていない所為か、本当に食べても良いのだろうかなどと心の何処かでそう考えてしまう。何となくメイドさんを見ると視線に気付いたのか此方をじっと見詰めてくる。何も言わないという事は食べても良いって事なのだろう。

 置かれていた自分の靴を履いてベッドから降り、そのテーブルの椅子におずおずと座る。すると俺とメイドさんが向かい合う形になってしまい、必然的に目が合ってしまう。


「……いただきます」


 料理に目を向けることでメイドさんを視界から追いやり、そのまま料理に手をつける。

 き、気まずくて味がしない……! いや美味しいんだけどさ、この状況だと碌に食事を楽しむことが出来なくて味が薄いと感じてしまう。

 暫くして食事が終わると、見計らったようにメイドさんが口を開いた。


「国王様が、オルフェウス様と少し話をしてみたいと(おっしゃ)っておりますが、如何(いかが)なされますか?」

「へっ? ……何でですか」


 国王様って、あの国王様の事だよな? 一国を治めてる一番偉い人で、その人に無礼な事とかしたら一瞬で首が飛ばされるっていう……。そんな人がどうして俺と話なんかしたいのだろうか。王族との接点はまあ無くもないけど、目を付けられるような事をした覚えは無いのだが……。


「私に訊かれても困ります」

「そう……ですね、すみません。それって断ることとか出来るんですか?」

「断る……ですか?」


 普通に面倒臭そうなので一応それを断ることが出来るのかどうかを訊いてみるがやはりというか何というか、メイドさんが何言ってんだこいつとでも言いたげな顔で此方を見てきた。それを見て俺は溜め息を吐きたくなるのをぐっと堪える。まあもしここで断ったのが原因で後で面倒事になるのも勘弁してほしいし、下手に断るのは得策とは言えない、か……。

 心の中で自分にそう言い聞かせ、未だにきょとんとしているメイドさんに言う。


「いえ、聞かなかった事にしてください。それって何時なんですか?」

「今からですが、何か問題はありますか?」


 これから直ぐにだなんてまた突然だな。まあ何か外せない大事な用とかがある訳ではないから全然大丈夫なんだが、服装は一体どうしたら良いのだろうか。今着ているやつは完全に寝間着のようなものだし。……というか俺の服ってどうなったんだ?

 そんな事を考えていると、メイドさんが此方を見透(みす)かしたように言った。


「服に関してはこれから着替えをお持ちしますのでご安心を。……と言っても今から仕立てるのは時間が掛かってしまいますのでオルフェウス様が着ていた服なのですが……」

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


──数十分後。


 自分の服に着替え直した俺はメイドさんに案内されながら城内を歩いていた。

 向かっている場所は謁見(えっけん)の間と言うらしく、そこでこの国の王様と会うことになるとの事だ。それにしても王様は俺なんかと会って何を話したいのだろうか。意外と大した内容じゃなかったりして……とかは、流石にある訳ないか。

 そうこうしている内に目の前に大きな扉が姿を現した。誰を入れるつもりで造ったんだよと言ってやりたりくらいに大きな扉の前には、鎧を身に付けた二人の騎士が微動だにしないで立っている。


「メイドのフランで御座います。オルフェウス様をお連れしました」


 何処か張り詰めたような、緊張した空気の中、メイドさん──フランさんがはっきりとした口調で騎士達に一礼した後でそう言った。そして一歩だけ横にずれて後ろに立っていた俺に目配せをする。フランさんはこれ以上先には行くことが出来ないのだろう。つまり、此処から先は自分一人で行けという事か……。

 気を引き締め騎士の前へと進み出る。


「武器をお預かりします」


 それに従い腰にさしてあった短剣を鞘ごと外して騎士の一人に手渡す。受け取った騎士はそれを後ろに待機していたフランさんと同じ格好をしたメイドに渡すと、道を開けるようにして左右に分かれた。通って良いという事だろう。

 しかし直接持っていたのはあの短剣だけだが、まだ亜空間にはかなり多くの武器が入っているがそれは大丈夫なのだろうか。そんな事をぼんやりと考えながら扉の目の前まで歩いていくと突然、大きな扉が独りでに開きだしたではないか。

 暫くそれを見守っていると、ガシャンという音がして扉の動きが止まった。どうやら完全に扉が開ききったようだ。俺は少し身構えながら部屋の中へと足を進める。

 部屋の中は一言で簡単に説明するならば、とても広い。両端には長い木造の机が三列ずつ置かれているが、今は誰も座っていない。天井もかなり高く、本当に誰を入れるつもりで造ったのかを問いたくなってしまう程だ。そして正面には俺の立っている場所よりも高い位置に半円形の床があり、低い階段が何段かある。そしてその中心には豪勢な椅子が設けられており、そこに──。


「君がオルフェウス殿か」


──リーアスト王国国王、ジェクト=オルネア=リーアストが腰掛けていた。

明日も投稿できるように努力します。

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