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魔界から帰って来たら、世界は救われた後でした。(旧:最強って誰のことですか?)  作者: 如月
一章 魔界から帰って来たら、何もかもが変わっていました
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第十六話 王都防衛戦 ②

 任せろと言わんばかりにカムイと呼ばれた竜は咆哮し、辺り一体の空気が震える。

 それを見てグラデュースは満足そうに頷いた。


「──行くぞ」


 瞬時に鋭い目付きに急変し、飛び乗るようにしてカムイの背中にまたがった。

 突然の事に、待機していた騎士達が驚きを隠せず声を上げる。


「だ、団長、どうされたんですか!」

「まだ魔物との距離はかなり離れているので、騎竜に乗るのはまだかと」


 前方から押し寄せてくる魔物の大群を確認しながらグラデュースに騎竜から降りるようにと促す騎士達をまるで相手にせず、唯ひたすらに魔物の大群の先──セディル大森林に視線を向ける。

 その真剣な表情を見て、止めにかかった騎士達は口をつぐむ。

 そして、少し離れた場所からもざわめきが聞こえてきた。


「アラン様、どうか降りてください!」

「何処へ行こうというのですか!」


 どうやら魔法師団の方でもアランが騎竜に乗り、その事で騒ぎになっているようだ。

 此方も制止の声など全く聞こうとせずにセディル大森林を見詰めている。


「全軍の指揮は副団長に預けると伝えろ」

「はっ! じゃなくてっ、団長おおお!?」


 最後まで話を聞くことなく、グラデュースはカムイに乗って空へと舞い上がった。

 それはアランの方も例外ではない。騎竜に乗って空へと飛んだアランはグラデュースに近付き、カムイと並んで飛ぶように竜を動かした。


「これから戦場へ行くというのに、挨拶もせんで良かったのか?」

「それはお互い様だろう?」

「ほっほっ、そうじゃったな」


 騎竜に乗りながらまるで戦場へ行く雰囲気ではない程に明るい声で二人は笑い合うが、本当は最初から二人ともこの先待っている現実に気が付いている。


 ──死にに行くという事に。


 だからこそこう明るく接していなければ、恐怖、不安、緊張といった感情を心の奥底へと押し込む事が出来なかったのだ。

 互いにそれを理解しているからこそ、こうも軽い会話が成立している。


「あれは⋯⋯ワイバーンとコカトリスに、フレズベルグかの」

「雑魚は俺が請け負う。魔力は温存しておけ」

「ほっほっ、済まないのう」


 目の前に近付いてきた魔物の群れを見ながらグラデュースはカムイの背中に立ち上がり、それを踏み台にして目の前まで迫ってきていたワイバーンの背へと跳び移った。

 そして抜き放った剣でいとも簡単にワイバーンの首を跳ね、直ぐさま近くに飛んでいたコカトリスに跳び移り再びその剣を振り下ろす。

 声も出さずに絶命していった同胞を見た魔物達は、グラデュースを危険と判断したのか一斉に逃げるように離れていった。


「何だ、こんなものか」

「相変わらずの戦闘狂っぷりじゃな」


 周囲から魔物がいなくなった事でカムイの背中に戻ってきたグラデュースに呆れるアラン。

 そして漸くセディル大森林の直ぐ前の草原へと辿り着き、二人はゆっくりと地面に着地した。


「さてと、さすがに森ん中で戦いたくねえんだが⋯⋯」

「先ずは魔物の姿を探さねばならんの」


 騎竜から降りながら森の様子を探るグラデュースとアラン。

 強大な魔物の気配を感じ取ったのは良いものの、この森の中という大まかな方向しか捉えることが出来ずに途方に暮れる二人。

 それはまるで団長と呼ばれる立場のそれとは比べることすら出来ず、威厳というものは何処へいったのかと問いたくなる。

 しかしそんな心配も、必要などなかったようだ。


「「っ!」」


 刹那、吹き荒れた突風に二人は思わず腕で顔を覆ってしまう。

 風が吹き止みその腕を退けると、そこはほんの数刻前まで青々と繁っていた草原だったものが見る間に腐敗し、朽ちていき、荒れ地と成りつつあった。

 朽ち果てた草は最早その原形すら保つことも出来ずにボロボロと崩れ落ちる。

 それが微風によっていとも簡単に舞い上がり、徐々に荒野へと移り変わっていく。

 それを二人は無言で見ている事しか出来なかった。否、あまりの出来事に言葉を発することすら出来ずに絶句していたといった方が正しい。

 しかし、今度ばかりは声を出さざるを得なかったようだ。


「あ、あれは!」

「空の覇者、ドラゴンだと⋯⋯!?」


 突如としてセディル大森林の峡谷から現れたのは、一体の竜。

 それはグラデュースやアランの乗ってきた竜とは比べ物にならない程の巨大な体躯を持ち、見る者を例外なく恐怖させる赤紫の禍々(まがまが)しい鱗で覆われている。

 やや細長い胴体の背中から生えた一対の翼は、身体には不似合いな程に大きく存在感を放っていた。

 鉤爪(かぎづめ)は緩い弧を描くようにして鋭く伸びており、人の身体など容易(たやす)く切り裂いてしまいそうだ。

 更に牙に角と、全身が戦闘に特化した非の打ち所のない完璧な体躯は、見る者を恐怖させると同時に、何処か惹き付けるものがある。


 己の同胞とは思えないそれに、二体の竜は怯えたような唸り声を上げる。

 それに反応するかのように竜は咆哮した。


 ──ォオオオオオオオオオオオッ!


「吼えるだけで吹き飛ばされてしまいそうじゃ⋯⋯!」

「とんでも、ねえな⋯⋯っ」


 その咆哮よって生み出される強風にに吹き飛ばされそうになるのを何とか耐えきるが、二人は格の違いとやらを思い知らされる。

 それと同時に自分達がどれだけ常識はずれの化け物と戦おうとしているのかを、身をもって再確認した。

 竜はゆっくりと近付き、二人の前に着地した。


《まさか、目の前の雑魚共を無視して我に挑もうとするとは、流石に想定外だ》


「「っ!?」」


 その声は聞こえたのではなく、直接頭の中に響いてくる。

 声の主など考えるまでもない。

 目の前の巨大な竜が、話し掛けてきているのだ。


《少しでも我を楽しませてくれるよう経験値として用意したのだが、まあいい》


「はっ! それは済まねえことをしたな」

「生憎、儂等のレベルは上限まで届いておる。お主の予想よりかは楽しませられると思うぞ?」


 この会話が終われば戦闘になるのを二人は直感で感じ取っている。

 だからこそ分かりやすい挑発を行ってまで、一分一秒でも長く時間を稼ごうとしているのだ。

 自分の一言で相手の機嫌を損ねてしまうかもしれないというリスクのある賭けではあるが、どうやら二人は賭けに勝つことが出来たようだ。


《フハハ、レベル上限まで達していると言っても、精々が超越者だろう? ただ己の限界を越えたに過ぎぬ》


「⋯⋯どういう事じゃ?」


 竜は、超越するということをまるで軽いものの様に扱い、二人を逆に挑発してきた。

 その言葉に眉をピクリと動かして聞き返してしまうのは、超越者が最高と考えていた二人には致し方無いことである。


 人というのは基本的に、99が到達しうるレベルの限界値であり、そこに辿り着くと人は成長しなくなる。

 しかしそれはあくまでも基本的にはというだけであって、その先が存在しないと証明している訳ではない。

 その先は超越者という形でしっかりと存在している。

 超越者となれば99が限界であったレベルの上限は更に増え、その者を遥か高みへと昇華させる。

 故に、超越者とそうでない者とが戦う場合まず超越者ではない者に勝ち目などある筈もない。

 それ程までに超越者というものは常識の枠組みに収まるものではなく、圧倒的な強さを誇っているのだ。


 だからこそグラデュースやアランを含める超越者がその限界まで到達した時、これが己の可能性の限界と決めつけてしまうのだ。

 だからこそ、それが否定された事に対して驚きを隠せないのだ。


《我の知る限り、少なくとも人にはもう一つ上の段階があるのを知っておるぞ。まあ、魔物である我には関係の無い事だが。──少々話が過ぎたな。そろそろお前達の命の限りを尽くして、我を楽しませるのだ!》


 その言葉と共に、戦いの火蓋が切られた。

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