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魔界から帰って来たら、世界は救われた後でした。(旧:最強って誰のことですか?)  作者: 如月
一章 魔界から帰って来たら、何もかもが変わっていました
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第十五話 災厄の予兆

 ──それは誰もが最強と認識する魔物の一つに属する災厄(さいやく)


 それが今、大陸一の大国であるリーアスト王国の王都オルストに一番近い、セディル大森林に我が物顔で居座っていた。


 外からやって来たそれに、始め先住していた魔物達が追い出そうとするも(かな)わず、次々とそれに服従していくようになっていった。


 強い魔物は服従することを選ぶが、力の無い魔物にはその選択肢すら与えられず、段々と大森林から追い出されていった。


 吐き出した息だけで周囲の木々が腐敗(ふはい)していき、葉は全て枯れ落ち幹は見る間に痩せ細っていく。


 何千何万という年月を生きてきた災厄は、もはやこの世界の最強の一角と言っても過言では無い程までに力を持っていた。


 それ(ゆえ)(みずか)らを(おびや)かさんとするものなど居らず、永きに渡り退屈していた。


 そんな災厄は、新しくすみかにした森林の近くに(さか)えている町に目をつけた。


 ──否、つけてしまった。


 これは良い暇潰しになると。


 そして災厄は、人知れず娯楽(ごらく)の準備へと動き出した。


◆◆◆


 俺達は何時ものようにセディル大森林でウルフ狩りをした帰り、その報告へとギルドへ向かい大通りを歩いていた。


「ふんふふーん♪」

「どうしたシエラ、何か気持ち悪いぞ」


 俺がシエラとイリアに出会ってから、既に日課のようになっていたウルフ狩り。

 今日もそのウルフ狩りの帰りなのだが、何時もと違って妙にシエラが上機嫌だ。イリアもシエラ程では無いがそわそわしているように感じられる。


「今日で私達、ランクアップするんだよ~」


 それを聞いて俺はこの異常なテンションの理由が理解できた。

 なるほど、こいつらもとうとうGランクから抜け出すことが出来るのか。

 それにしても⋯⋯。


「何で昇級するって分かるんだ?」

「こっそりリーシャさんが教えてくれた」

「おいおい、受付嬢がそんな事して良いのかよ⋯⋯」


 イリアが言ったのを聞いて、俺は頭を押さえる。

 本来は後どれくらいでランクアップするのか何て教えてはいけない筈なんだが。まあリーシャさんの性格からして押しに弱そうだし、仕方無いか。

 つまり今日でこの二人はFランクになるのか。


「ってことは俺もそろそろ必要無いな」


 最初の頃はまだまだ実力も判断力も欠片ほども無かったが、今では俺なしでもウルフを狩ることも出来るまでに成長している。

 それに俺が何時までも二人の側にいては、どうしても俺を頼ってきてしまうだろうしな。


「そう、だね⋯⋯」


 俺の言葉に何処か寂しそうに呟くシエラ。


「でも、たまには一緒に依頼してくれるよね?」

「勿論、そのくらいなら全然良いぞ」


 そうこうしている内に、俺達はいつの間にか冒険者ギルドの前までやって来ていた。

 中に入ると多くの冒険者達がいて、多くの冒険者が暇を持て余しているようだ。

 俺が闘技場でイケメンの⋯⋯えーっと、誰だったか? まあとにかくあの騒動からもう一週間も経ったので噂は静まったが、未だに俺はちょっとした有名人となっている。

 俺達が受付に行くと、直ぐにリーシャさんはこちらに気付いた。


「あ、お帰りシエラちゃんイリアちゃん、それにオルフェウス君。最近、魔物の数がが減ってきてるから大変だったでしょ?」

「少しね。確認お願い!」

「了解。じゃあ三人ともギルドカード出して。⋯⋯うんうん、依頼達成だね。これでシエラちゃんとイリアちゃんはFランクに昇級だよ!」

「ありがとうございます!」

「やった⋯⋯!」


 前々から知ってはいたものの、やはり直接リーシャさんの口から昇格と知らされるのは嬉しいようだ。

 俺だけギルドカードを返され、二人のギルドカードは新しくするためにリーシャさんが奥へと持っていった。

 その間、二人はリーシャさんが新しいギルドカードを持ってくるのを今か今かとそわそわしながら待っている。


「お待たせ~。はい、新しいギルドカード」

「わあ、ありがとうございます!」

「遂にFランク!」


 ギルドカードを受け取って、ピカピカのそれを指で撫でながらうっとりとしている二人。

 それが落ち着いてから報酬を受け取りギルドをあとにする。


「じゃ、今日は二人の昇級祝いに俺がご馳走してやるよ。何処に行きたい?」

「ええっ!? ほ、本当っ!!」

「何処でも、良いのっ?」

「ああ、お祝いだからな。何処でも良いぞ」


 俺の言葉に、大通りで人が大勢いるということも忘れて大きな声を出して騒ぎ出す二人。

 二人ともついさっきまでは駆け出しの冒険者だったんだし、あまり良い店には行ったことが無い筈だ。何時も行ってる酒場も普通にうまいのだが、やはり一流の料理店と比べれば敵わないだろう。


「と言っても、まだ全然時間あるんだよな⋯⋯」

「じゃあ、ちょっと武器屋にでも行こうよ!」

「うん、私も行きたい」


 何故か知らないが二人とも武器屋に行きたいと言い出した。


「何か買いたいものでもあるのか? 杖はまだ使えそうだが」

「使えるけど、杖の魔石を変えてもらうの!」

「Fランクになったら、色々と新調するのが常識」


 言いたいことは理解できた。

 つまり、Fランクに昇級したから杖に取り付けている魔石を新調しに武器屋に行きたい、ということなのだろう。

 二人の杖はまだまだ使えそうではあるが、ランクが上がったことでより強い魔物と戦う機会が増えると考えると、確かに今の杖だと心細い気がする。

 だがそれでも一番下から二番目のランクとあって新しい魔法杖を買うのは経済的に厳しいものがある。だからせめて魔石だけでも新しくしようということなのだろう。


 俺には昔から常識となっていること以外は殆ど常識を知っていない。

 なので魔石を新調することがFランクになった魔法使いにとって常識だということも初耳だ。

 しかし、そういう事であれば行くしか無いだろう。


「へえ。それで何処の武器屋に行くんだ?」

「知り合いに武器屋をしている人がいるんだ~」

「結構有名な人だよ?」


 誰だか分かる? という様な顔をしてこちらを見てくるイリア。

 何となく気まずかったのでそっと視線をイリアから逸らす。

 誰か当ててほしいんだろうけど、俺は王都に来てまだ二週間くらいしか経っていないので、有名な人と言われても全然分からない。

 それを知っている筈なのに悪戯めいた笑顔を向けて聞いてくるイリアは意地が悪い。


 そういえば王都に来てからまだ一度も武器屋になんて行ったことが無かったな。

 依頼が終わってからその後は暇な時間とか結構あったのに、宿でゴロゴロして時間潰してるだけだったし。

 それに装備してる短剣もまだ刃こぼれしてない⋯⋯というか刃こぼれするような魔物と出逢ってない。


「そこって杖だけを扱ってるのか?」

「大半がそうだけど、剣を魔法剣にしたりとかもしてるよ」

「オルフェウス君の剣もしてもらえば?」

「考えておこう」


 そんな話をしながら俺は二人に案内……というか、引きずられるようにしてその武器屋へと向かっていった。


 そういえば洞窟調査の依頼の件だが、次の日に調査隊が編成され調査に向かったところ、間違いなくダンジョンになっていることが分かった。

 攻略難易度はそれほど高くはないらしいが、新たなダンジョンということもあって連日冒険者が挑んでいるらしい。


 そんなダンジョンに、少し違和感を感じていた。


 ダンジョンとは魔力濃度が高い場所に発生しやすいと言われている。

 しかし、そうあっという間に出来上がるものではない。

 それにダンジョンが出来るほどの魔力溜まりが出来ていれば、その魔力に惹かれて強い魔物が住み着くのが普通だ。


 じゃあ何故あの洞窟はジャイアントラットの住処になっていたのだろうか?


 考えられることは二つ。

 元々そこにいた魔物が別の場所に移り、その後にジャイアントラットがやって来たという考え。

 それともう一つは短期間でのダンジョン化。可能性としてはこっちだろう。


 前者は、ダンジョンになるだけの魔力が溜まっているのにそこを捨てて別の場所に行く意味が分からない。

 他にもっと凄い魔力溜まりがあるというのならば納得できるが、それ程の魔力溜まりはそうそう無い。

 逆に後者はというと、魔力が溜まりだしてから短い期間でダンジョンとなったのならば、強い魔物がやって来る前にジャイアントラットが住み着いたと考えれば説明が付く。

 でもいったい何故、急速に魔力溜まりがダンジョンになったのかだが、これは正直にいうとさっぱり原因が分からない。


「此処だよ」


 考え事をしていると、何時の間にか目的地である知り合いの武器屋とやらに着いたようで、先導していたイリアがある建物の前で振り向き様にそう言った。

 此処は大通りから少し離れた場所、辺りは人通りが無いのでとても静かだ。


「此処⋯⋯なのか?」


 目の前にはいたって普通の建物が寂しく建っているだけ。

 どこからどう見てもぱっと見で武器屋と分かるような外見ではないが。


「うん」


 一言言って、その扉を開き中へと入っていくイリア。

 それを追うようにしてシエラと最後に俺がその建物の中へと入って──。


「やあ、久しぶりだね」


 ──その声を聞いた瞬間、完全に思考が停止した。

 何故なら、その場にはもう会うことなど無いだろうと思っていた、以前に闘技場で会ったアイツがこの武器屋に居合わせていたからだ。

 たっぷり三秒ほど思考を停止した後に漸く正気に戻り、俺の脳は直ぐ様この状況を把握しようと動き出す。

 そして。


「⋯⋯⋯⋯」


 そっと、武器屋の扉を閉めた。




 それから数分。

 俺は武器屋の中で唯一、テーブルと椅子が置いてある部屋の一角に居た。

 そのテーブルをシエラとイリアと俺、更にこの間の王都の観光で向かった先、闘技場で出会ったユーリウスの四人で囲んでいた。


「⋯⋯で、何でお前がこんな所に居るんだよ。闘技場に帰れ」

「どうしてそう攻撃的なのさ⋯⋯と言うか、僕は闘技場(おそこ)に住んでる訳ではないからね? 今日は武器や防具を見にきただけだよ」


 不機嫌な俺の言葉にやれやれと軽く馬鹿にした様にそう言う。

 それに合わせての身振り手振りが異常に多いのが普通にイラッとくる。


「あっそう。それよりお前らってどういう関係なんだ?」

「僕と彼女達の関係のことかい? うーん、一言で言うなら此処の常連仲間みたいなものかな」


 俺の質問にそう答えるユーリウスに、シエラが頷いてそれに続ける。


「そうなんだよ。結構な頻度(ひんど)で会ってるし」


 その言葉に隣に座っていたイリアが頷く。

 つまりこいつらは前からの知り合いだったという事か。

 何となく、闘技場で俺とこいつが登場したときに二人が笑っていた理由が分かった気がする。


「そっちはどうして此処に来たんだい?」

「私達、今日の依頼でFランクになったの。だから杖を新調しようと思って来たんだよ」

「おお! 遂にランクアップしたんだね!」

「──騒がしいと思えば、お前達か」


 その時、不意に俺達では無い人の声が少し離れた所から聞こえてきた。

 振り向くとそこには一人の中年の男性が作業服のようなものを着て立っており、両手にはめた手袋を取りながら此方に歩いてきていた。

 男性の背は一般よりも低いが、その割には腕の筋肉が違和感にしか感じられないほどに膨れ上がっている。

 この事から考えるに、この男性はドワーフ族だろうと推測できる。


「あ、ゴルドさん。お邪魔してます」

「店番もしないでまた鍛冶をしていたのかい?」

「はっ! どうせ誰も盗りやしねーよ。それより、そっちは見ねえ顔だな?」


 そう言ってシエラがゴルドと呼んでいたドワーフの男性は此方を見た。


「初めましてだな。ゴルド、で良いのか? 俺はオルフェウスだ。よろしく」

「⋯⋯む、どっかで聞いたことがある名だな」


 何処かで聞いたことがある、と言うのは恐らく、今俺の隣に座っている奴をぼこぼこにした闘技場でのちょっとした騒動の事だろう。

 因みに俺の隣に座っている奴はそれを聞いて苦笑いを浮かべている。

 あの騒動は今ではもう殆ど噂されることが無くなったが、それでも俺の名前はかなり知れ渡ってしまっているから名前だけ覚えている人は大勢いるだろう。

 それもこのまま何事も起きなければ自然と人々の記憶から抜け落ちていくだろうし、俺が名前を言うだけで周囲に人だかりが出来る──なんて事が無くなるのも時間の問題だろう。


「それより、今日は何しに来たんだ?」

「私達は杖の魔石を新しいものにしてもらうために来たんです」

「僕は何時もと同じだよ」

「ま、お前の方はそうだろうとは分っていた。それでシエラとイリアは魔石の新調という事は、漸くランクアップしたのか」


 顔に笑みをを浮かべながらゴルドはそう言ったのに対し、シエラとイリアは二人揃って元気良くはいと返事をする。

 外見が(いか)ついのに比べて以外と表情は豊かのようだな。


「じゃあ、お前達は奥に着いて来い。お前は何時ものように好きなだけ見ていれば良い」

「そうさせてもらうよ」


 ユーリウスを除く俺達三人此方には背中を向けて歩きだすゴルドのあとを着いていく。

 武器が置かれている部屋から更に奥へと続く通路を進み抜けると、そこは先程の部屋と比べてかなり広い空間となっていた。

 しかし、広いといってもその殆どが棚という棚に埋め尽くされているので、空いている場所はあまり広くはないようだ。

 その棚には様々な色の球状の宝石のようなものが置いてあり、それぞれが僅かに光っているように感じられる。

 恐らく魔石を丸く加工したものだろう。

 だがそれが置いてあるのは少しだけで、大半の棚は空となっていた。


「よし、取り敢えず杖を見せてみろ」


 その言葉にシエラとイリアはそれぞれの魔法杖をゴルドの前に差し出す。


「結構使い込んだようだな。後一月も使っていれば魔石に罅が入っていたところだ。お前達、レベルはどれくらいなんだ?」

「えっと、16です!」

「私も16」

「おい、そう易々と自分の個人情報を人に教えるもんじゃないぞ」


 全く、こいつらは警戒というものを知らないのか?

 どんな人にも共通していえる事だが、その中でも特に冒険者が自身のステータスに関するものを口に出すのはあまり褒められたものではない。

 それを口にするということは自分の情報が人に知られてしまうという事であり、もしその情報が敵などに渡ってしまえば一大事だ。

 なので冒険者というのは大体が自分の事をあまり話さず、またそれを聞き出そうとするのをルール違反とされている⋯⋯のだが。


「大丈夫だよ。ゴルドさんは良い人だし」

「そういう問題じゃねえよ⋯⋯」


 俺も大概だとは思うが、こいつらも常識が分かってないな。

 というか俺の方が常識あるんじゃないか?

  20年前のものでしかないから現代の常識に関しては皆無だが、それでもどの時代でも変わらない当たり前の常識くらいなら知っているつもりだ。


「着いてこいと言っておいてなんだが、魔石を変えるのは今は止めといた方がいいぞ」


 その時、ゴルドがそんな事を言ってきた。


「えっ、何でですか?」

「最近、魔物の数が減ってきているのは冒険者であるお前達も分かっているだろう」


 その言葉にシエラとイリアは頷く。

 確かに最近は目に見えて魔物の数が普通より減っている。

 それも強力な魔物は特にそうだ。

 なので最近は魔物がいなくなった事でどんどん依頼の数が減っていき、今では魔物の討伐依頼なんで殆ど無くなってしまっている。

 何も知らない人々はこれを平和になっただのと言って喜んでいるが、俺たち冒険者にとっては大事な収入源が減るので死活問題だ。


「見て分かるように、今は殆ど魔石のストックが無い。他の所もみんなそうだ」


 ゴルドがそう続ける。

 冒険者にとって死活問題なのは確かだが、それと同時に魔物の素材を(もち)いて商売をしている者にとってもそれは当てはまる。

 ゴルドがシエラとイリアに言いたいことが分かってきたような気がする。


「つまり、どれだけ小さくて純度の低い魔石でも値が張ってる。折角来てくれなのに悪いが、かなり高いぞ」

「そう、なんですか⋯⋯」


 それを聞いて二人は肩を落とす。


「因みに、どれくらい?」

「一番安くて、大銀貨二枚だな」


 確かに高いな。

 銀貨にして二十枚もの金が掛かるのは低ランク冒険者にはかなり痛い出費だ。

 俺も始めは剣も魔法杖も粗悪なものしか買えなかったからなぁ⋯⋯、どっちかだけを買うという手もあったが、職業が魔法剣士なのでどちらかを選ぶのは出来なかった。

 魔法剣士は魔法も剣も本職に比べると見劣りすることもあって、両方ないと着いていくことが出来なかったしな。


「それに魔石を杖に取り付けるのにも費用が掛かるからな。まあお前達だから安くしてやっても良いんだが⋯⋯」

「それで、二人はいくら持ってきたんだ?」

「⋯⋯大銀貨四枚ちょうど」


 つまり魔石を買うだけで金が尽きてしまうという事か。

 いや、待て。良い考えを思い付いた。


「なら魔石をその金で買えば良い」

「オルフェウス君、話聞いてた?」


 俺の言ったことにシエラがそう聞いてくる。

 イリアも同様に何を言ってるんだといった顔を此方に向けている。


「勿論聞いてたぞ」

「なら」

「安心しろ。魔石を杖に取り付けるのは俺がやってやる」


 ──それから数分後。


「じゃ、始めるか」


 それと共に俺は地面に置かれている二本の魔石のない魔法杖と、綺麗に丸く加工された黄緑色の魔石と水色の魔石に向かって両手を向ける。


「武器創造。話には聞いたことはあるが、見るのは初めてだな」

「オルフェウス君って本当に色々と出来るよね⋯⋯」

「自分で武器創れるとか、反則」


 周りが何か言っているが今は無視だ。

 俺は両手に魔力を込めていき、武器創造のスキルを発動させる。

 すると、杖と魔石が置かれている場所に少しずつ灰色の光の粒のようなものが発生していく。

 その光の粒子は次第にそれを覆い尽くしていくようにして増えていき、最後には完全に外からは見えないほどになっていた。


「「「⋯⋯!!」」」


 始めは僅かな光であったものは今では強く輝いている。

 それはひとりでに空中へと浮き上がり、俺の目の前まで来たところでぴたりと止まる。俺はその灰色の光の中へとそれぞれの手を入れていく。

 その瞬間、灰色の光はどんどんと収束し始める。


「──よし、出来た」


 光が収まると俺は両手に一本ずつ魔法杖を手に持っており、それは先程の状態と比べると少し立派なものになったように感じられる。

 それを手に三人の方へと振り返る。


「ほら」

「「わあっ!」」

「⋯⋯これは、見事なものだな」


 どうやら満足してくれたようで何よりだ。

 各々の使える属性魔法、その威力や消費魔力を軽減してくれる色付きの魔石を取り付けた魔法杖は、こっそり時空魔法で新品同様に巻き戻しておいた。

 早く寄越せと言わんばかりに此方を見上げてくる二人に渡すと、無言でそれを受け取り、杖の感触を確かめたり新しい魔石を眺めたりと完全に自分の世界へと入ってしまった。


「杖も出来たことだし、早く飯を食いに行こうぜ。⋯⋯っておい、聞いてるのか?」

「「もう少し」」


 俺の提案を切り捨て、完成した新しい自分の魔法杖を手にし何かに取りつかれたようにうっとりとそれを眺めているシエラとイリア。

 ゴルドと顔を見合わせて苦笑いをしながら、暫くの間ふたりの興奮が収まるのを待っていた──。

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