第十三話 王都観光?
「早めに依頼を達成出来て良かったですね」
「まあな、お陰で昼が暇になったからな」
「それに良い天気」
「だな」
俺達は楽しく会話をしながら王都の大通りを三人で歩いていた。
今日のウルフ討伐は幸運なことに丁度五体の群れと遭遇することが出来たので、朝の内に依頼を達成させることが出来たのだ。
個人的にはもう一度ウルフを探して二回依頼を達成したいところだったのだが、彼女達はまだレベルが低いので魔法を撃つ回数に限りがある。
魔力切れになって倒れられても困るので、そのまま王都に帰って来たという訳だ。
そして暇となってしまった昼を使って昨日酒場で約束した王都の案内を頼んだのだ。
彼女達もやることが無くなってしまったので快くそれを快諾してくれた。
「で、まずは何処に行くんだ?」
「うーん」
「闘技場」
「ああ! 良いですね! そこ行きましょう」
「こっち」
イリアの言葉に唸りながら悩んでいたシエラがそれだっ、と言わんばかりの笑顔をつくり、彼女達は俺の両手を引っ張られながら歩き出した。
向かう視線の先には大きなドーム状の建物がどんと建っており、それこそが闘技場だと俺は悟った。
「な、なあ、別の所にしないか⋯⋯っ?」
その行動力に少しだけ驚きながらも、俺は別の所に行こうと彼女達に提案する。
⋯⋯王都を観光するつもりでいたのに、何でよりにもよって闘技場なんていう場所に行こうとしてんだよ!? 闘技場ってあれだぞ? 人同士が闘う様子を見て楽しむっていうやつなんだぞ、絶対に観光で行くような場所の訳が無いだろ!
何でそんな場所に行くのに笑顔なんですか御二人方。ま、まさかとは思うが、人同士が半ば殺し合いをしているのを見るのが面白いとか思っちゃう系の人なんですか!?
「何でですか、王都といえば闘技場は必須ですよ!」
「週に一度しかやらない。見なきゃ損だよ」
嘘だろおおおおっ!?
何で、そんな良い笑顔をこっちに向けてくるんだよ!? まあ二人とも冒険者なんだし? そういう方面に耐性があるのかも知れないけどさ、さすがに王都といえばなんて事は無いだろ! どんな戦闘狂だよ⋯⋯。
十数分後、遂に俺達は闘技場に到着してしまった。
もう此処までやって来てしまった以上、一応見るけど、俺はちゃんと忠告はしといたんだからな? 良いんだな本当に良いんだな──と繰り返し念を押してみたのだが、二人には全く響く様子もなく、とうとう観客席まで来てしまった。
げんなりした俺とは対称に、彼女達は何処かそわそわしている様に見てとれる。
『お待たせしました! 次のカードは──』
「ほら、始まりますよ」
司会者の声が闘技場に響き渡る中、俺は一人頭を抱えて椅子に座っていた。
別に殺し合いを見るのが怖い訳でもないし、苦手な訳でもない。
【魔界】にいた頃なんて命のやり取りなんて日常茶飯事のようなものだったし、その所為で今となっては殺すことになんの躊躇い無くなってしまったが。
これをすすめてきた彼女達に対してちょっと、いやかなり引いてるだけの事だ。
年頃の少女がこれから行われる闘技にこれだけ盛り上がっているいるなんて⋯⋯親御さんが聞いたらどれだけ悲しむことだろうか。
そんな事を考えていた俺は闘技場内がやけに静かなことに気が付いた。
「⋯⋯?」
先程までの盛り上がりは何処にいったのか、突然闘技場の中の声という声が消え失せたのに対し疑問に思っていると──。
『──始めッ!』
わあああああああああああッ!!
「ッ!?」
司会者の声と共に闘技場に立っていた二人がほぼ同時に動きだし、腰にさしていた剣をこれ見よがしに抜き放った。
そして場内は再び活気を取り戻し、負けるなーっ、いけえええっ、などと闘技に出場している二人に様々な声援を飛ばす。
これを目にして俺は何故たったの20年そこらで大陸一の大国に成り上がったのか、その根源を垣間見た気がした。
勝負は一進一退の激しい攻防戦と化した。どちらも軽装で動きやすさを重視したスタイルで、剣が当たってしまえば即試合終了になりかねない程に装備が乏しい。
──しかし此処で、俺はあることに気が付いた。
「怪我をしていない⋯⋯?」
「やっと気付きました? そうです──」
「闘技での怪我や死亡は絶対にない。血も出ない。だから安心」
「あーっ、私の台詞取らないでください!」
説明をすることを忘れて言い合いを始めた二人から視線を外し、再び闘技場に視線を戻す。
よく見ると二人が激しく闘っているステージを、結界が覆い尽くしている事に気付いた。あの結界がこの摩訶不思議な状態を引き起こしているのだろう。
「⋯⋯とても複雑な結界だな」
結界内での攻撃を無効化しているのか、攻撃を受けた瞬間から回復させているのか、それとも攻撃自体を無かった事にしているのか。はたまた、そのどれでもない特殊な結界なのか。
俺は専門家でもないので分かりかねるが、あり得ないほど高い技術を用いていることは分かる。
超絶便利機能を持つギルドカードに引けを取らない興味深さだ。
ともかく、安心して高レベルな戦闘を見られるからこそこれだけの人気があって、二人が誘ってきたのだろう。
うんうんと一人納得していると。
「どうです、オルフェウス君も出てみませんか?」
「⋯⋯⋯⋯うん?」
突然、意味の分からない事を言ってきたシエラに思わず間抜けな声を出してしまう。
⋯⋯チョットナニイッテルノカワカラナイデス。
◆◆◆
──一時間後。
『さあ! 遂に最後の一試合となりましたッ! 最後まで盛り上がっていきましょう!!』
おおおおおおおッッ!
司会者の声に観客が沸き上がり、熱気に包まれる。
『今週最後の試合に出場する選手を紹介しますッ! 一人目はつい先程エントリーしたッ、全く情報の無いダークホースぅぅッ! その名もおおお!? オルフェウスぅぅぅッッッ!!』
わあああああああッッ!!
突如としてエントリーしてきた名も知らぬダークホースに、観客が沸く。
最初にステージに現れたのは、不機嫌そうな様子を全く隠そうともせずにとぼとぼと出てきたオルフェウス。
それを見て先程までの観客の歓声は無くなり、何だそのモヤシはああっ! だの。別の奴を出せえええっ! だの。何がダークホースじゃボケえええっ! だのとオルフェウスに向けて場内に野次が飛び交う。
しかしそれは一瞬で終わりを告げた。
『そしてそしてえええ!? その対戦相手はああッ、我等がスターッッ、ユーリウスぅぅぅッッッ!!』
わああぁぁぁああああッッッ!!
散々なまでの野次は何処へやら、場内は急変してユーリウスコールがその場を完全に支配した。
そんな歓声に笑顔で手を振りながら出てきたユーリウスに、きゃぁぁぁ! と、お次は女性達の黄色い声が響き渡った。
それに応えるようにしてユーリウスは腰にさした剣を抜き放ち、高々とそれを掲げる。更に場内のユーリウスコールと黄色い声に拍車が掛かった。
『さあッ! 最後の試合を始め……っとお!? オルフェウス選手が座り込んでいるぅぅぅッッッ!? 一体どうしたのでしょうか!』
司会者の声によって観客がユーリウスから視線を外してオルフェウスを見る。すると歓声が一瞬止み、次の瞬間には再びオルフェウスへの罵声が場内を支配した。
『場内がこれ程荒れるのは私の司会者人生で初めてですッッ!』
そんな荒れに荒れている中、ユーリウスがオルフェウスに歩み寄る。
『おおっとぉ! 我等がスター、ユーリウスが、オルフェウス選手に近寄り肩に手を置いています!! 何を話しているのでしょうかあああッ!?』
オルフェウスに歩み寄ったユーリウスが確かに話し掛けているのが見てとれるが、一体何を話しているのやらと観客がざわめきだす。
場内が混乱する中、何か心境に変化があったのか体育座りをしていたオルフェウスが立ち上がった。
何か、とても怒っている様子なオルフェウスに対し、ユーリウスはちょっと焦った顔をしながら後ずさった。
『おおおッッ! 立ち上がりました! やる気満々の様です! ──それでは、大変長らくお待たせしましたッ! 試合、開始いいいッッッ!!』
◆◆◆
「し、試合に出るって⋯⋯?」
こいつ、いきなり何言い出すんだ。
俺に試合に出ろだと?
「良いじゃん、面白そう」
「いやいやいや、何で俺が出ないといけないんだよ! 見てるだけで良いじゃんか!」
イリアまで変な事を言い出しやがって!
何が面白そうだよ、何が! ふざけた事抜かしやがって、こいつらどうしてくれようか⋯⋯!
「ほら、何で怪我しないのか気になるんでしょ?」
「⋯⋯む。それは⋯⋯そう、だが」
「決まり、さあ行こう早く行こう」
「ちょっ、俺はまだ出るなんて言ってないぞ!?」
確かに、確かにあの不思議な結界が気になるのは間違っていない。
出来るならばあの結界の中がどうなっているのか、攻撃を受けたときにどうなっているのかを試してみたい気持ちはある。
俺を引っ張っていこうとするイリアの手を振りほどき、少し距離をとる。
「大丈夫だって、オルフェウス君Cランクなんでしょう? 結構良い試合になると思うの!」
誰だお前は。
「勝てるとは言ってくれないんだな」
「じゃあ、今日の依頼の報酬全部オルフェウス君に賭けてあげるから」
「勝てるとは言ってくれないんだな」
ここって賭け事までやってるのか。
⋯⋯って、かなり勿体振った言い方しやがったが、報酬って銀貨5枚ぽっちじゃねえかよ! そんなんで俺をつろうと考えてるなんて安く見られたもんだな!
そんな程度で俺を釣れると────。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯し、仕方ないな、出てやるよ」
「やった」
「さすがオルフェウス君!」
釣られた。
別にこいつらが俺に賭けてくれるから出るという訳じゃない。
ただ単純にあの結界が気になるだけだし、別に勝つも負けるも二の次で正直いってどうでもいい。
まあ、だからといって簡単には負けてやるつもりはさらさら無いが。
そして残念なことにぎりぎりエントリーに間に合ってしまい、シエラとイリアは観客席に戻ったが俺は控え室に案内された。
そこには様々た防具や武器が揃えられてあり、その中から好きな防具、武器を選んで試合に挑めということらしい。
持ち歩いていた短剣は試合が終わるまでは没収のようで渋々腰から剣を外し、立て掛けられていた剣から一本手に取りそれを腰にさした。
スタッフから簡単にルールを説明してもらったところ、大体の試合は気絶か降参で決着がつくらしい。
それで勝利するとなんと報酬が支払われるらしいが、一体いくらの報酬が貰えるのだろうかと聞いたところ、賭けの倍率によって変わるらしい。自分に賭けられた倍率が高ければ高いほど多く貰えるそうだ。
そして俺の試合は一番最後らしく、その間は控え室で待機だそうで、かなり暇な時間が出来てしまった。
周囲には俺以外の出場する選手もいるが、結構ピリピリしているようだったので声を掛けるのは諦めた。
いやまじで皆の目が怖いっす⋯⋯。
──そして遂に俺の番が来た。
『さあ! 遂に最後の一試合となりましたッ! 最後まで盛り上がっていきましょう!!』
相変わらず観客の盛り上がりが凄まじい。
本格的に出るの嫌になってきたんですけど⋯⋯。
『今週最後の試合に出場する選手を紹介しますッ! 一人目はつい先程エントリーしたッ、全く情報の無いダークホースぅぅッ! その名もおおお!? オルフェウスぅぅぅッッッ!!』
呼ばれたので仕方無く闘技場へと足を進める。
あいつらは何処かな⋯⋯っと、居た居た。
⋯⋯何あいつら、さっきから肩が震えてるんだけど。まさかとは思うが笑い堪えてるとかじゃ無いよな? あ、目が合ったのに逸らされたんだけど、いやもう普通に笑ってるじゃねえか!
頑張って堪えようとしてるのは分かるんだけどさ、分かるんだけどさっ、自分達で出場しろとか言っておいて何で笑ってるんだよ!!?
⋯⋯⋯⋯後で絞めよう。
というか俺めっちゃバカにされてるな。
モヤシとかボケとか散々なこと言われてるんだが⋯⋯。
『そしてそしてえええ!? その対戦相手はああッ、我等がスターッッ、ユーリウスぅぅぅッッッ!!』
そんな事を考えていると、反対側から一人の男が観客に手を振りながら出てきた。
我等がスターって⋯⋯あいつそんなに強かったりするのか? 人気があるのは場内を見れば分かる、特に女性陣に人気があるのはよぉーく分かった。
⋯⋯ちょっとイライラしてきたな。
その時、ユーリウスが腰から剣を抜き放ち、掲げた。
その瞬間更に歓声は大きくなり、黄色い声が五月蝿いほどに場内を支配した。
⋯⋯このイケメン野郎がッッッ!!
ねえねえ、やっぱり顔なのか!? 顔で全てが決まるってのか!?
もういいや、座ろう。
『さあッ! 最後の試合を始め……っとお!? オルフェウス選手が座り込んでいるぅぅぅッッッ!? 一体どうしたのでしょうか!』
司会者も観客も、どいつもこいつも五月蝿い奴等だ。
『場内がこれ程荒れるのは私の司会者人生で初めてですッッ!』
だからなんだよ?
『おおっとぉ! 我等がスター、ユーリウスが、オルフェウス選手に近寄り肩に手を置いています!! 何を話しているのでしょうかあああッ!?』
「君、大丈夫? もしかして僕の美しさに嫉妬してるのかい? しょうがないよ、これは生まれ持った才能だからね」
──ぶっちん。
俺の対戦相手が近付いてきて、素でそんな事を抜かしやがった瞬間──俺の中で、何かが切れる音がした。
『おおおッッ! 立ち上がりました! やる気満々の様です! ──それでは、大変長らくお待たせしましたッ! 試合、開始いいいッッッ!!』
「ふ、ふふふ、フフフフフ」
「ど、どうしたんだい⋯⋯?」
俺が一歩進むと、ユーリウスは一歩後退する。
もう試合は始まっている。つまりこれから俺がどれだけこいつをいたぶっても、誰も何も文句は言えない。
それにユーリウスが勝つと信じきっている観客どもに丁度良い見せしめをつくってやるのはさぞ楽しいだろうなあ。
別に闘技で勝つも負けるもどうでもいいって考えていたが、こんな顔だけのイケメン野郎になんて死んでも負けてやらない。
剣を鞘から抜き放ち、その切っ先をユーリウスへと向ける。
それを見てユーリウスも腰にさしている二本の剣の内一本の剣を鞘から抜き、隙の無い構えをとる。腐っても実力はあるのだろう。
まあ、だから何だって話だが。
今すぐにでも目の前にいるイケメン野郎をボコボコニしてやりたいのだが、それよりも先にやらねばならない事がある。
それをするために俺はユーリウスから視線を外しある方向に視線を向ける。
ある方向、それは勿論俺を此所に連れてきた元凶である二人の少女がいる方向だ。
そして少女達と目が合った瞬間、俺はそいつらに満面の笑みをする。お前達にも後でお仕置きが必要だからな。
「──余所見とは随分と余裕だねっ!」
視線を外している隙に、イケメン野郎が攻撃を仕掛けてきた。
向き直る頃には斜めから振り下ろしてきた剣が無防備だった俺の体を切り裂いた。
しかし結界の効果によって、斬られた筈の俺の肩には傷一つも付いていない。
「なんだ、痛みはあるのか」
「っな!?」
攻撃を受けたのにも拘わらず平然としている俺を見て、イケメン野郎が驚きの声を上げる。
そしてすぐさま距離を取ろうと後ろに飛び退くが。
「遅い」
「ぐあああッッ!?」
それよりも早く俺の振り上げた剣がイケメン野郎の身体を圧倒的な速度で切り裂いた。
その瞬間、周囲に僅かな鮮血が飛び散る。
「成る程」
それを見て俺は結界の効果を大体把握することが出来た。
これは攻撃されて負った傷をその瞬間から回復するようにと設計された結界で、この中に居れば殆どの傷が瞬時に癒されていくというもののようだ。
つまり実際のところ、確かに攻撃を受けており、それによって痛みだけは感じるようになっているということだろう。
しかしそれでも、結界の治癒速度を上回る早さで攻撃を与えれば、治癒が間に合わず血が出ることもあるらしい。
「え⋯⋯これは、血? な、何で」
自分の血を見て途端に顔が真っ青になるユーリウス。
その目には驚き、困惑、恐怖などの感情が入り交じっており、それ故か剣を持つ手が震え今にも落としてしまいそうなほど弱々しい。
先程までのあの余裕な表情はどうしたのかと、思わずそう問いたくなってしまう衝動に駆られる。
全く、無様なものだな。始めはあれほど威勢が良かったのにたった一回の攻撃でそこまで戦意を喪失してしまうとは。
『こ、これは一体どういうことでしょか!? 僅かですが、ユーリウス選手が血を流しているぅぅぅ!?』
気付けば場内のユーリウスを応援する声は無くなっており、観客もまた同じように混乱しているのが見てとれる。
それを横目に俺は手に持っていた剣を投げ捨てる。
これ以上剣で攻撃してしまうと普通に殺しかねないからな。安全安心が売りのこの闘技で人が死んだとなればそれはもう大事になること間違い無しだ。
さすがに王都に来たばっかりで俺に変な噂が広まるのはなるべく避けたい。
「さ、流石だね。なら僕も本気を出してあげるよ!」
これ以上こんな所に長居する用も無いしなるべく手短に終わらせようと思っていた時、まだ自分の方が強いとでも思っているのか、勿体振りながらイケメン野郎が二本目の剣を抜いた。
それを見て観客がさっきまでの混乱を忘れて盛り上がりだした。
場内に飛び交うそれによるとユーリウスが二本目の剣を抜くのは久し振りの事らしく、二刀流になったこいつに勝てた者はいないらしい。
「君が何故盾を持ってないのかは知らないけど、僕には見た目のカッコよさ以外に理由がある」
こいつ、人をイラッとさせる言い方しか出来ないのか?
「僕には二刀流というスキルがあるんだ。つまり、今の僕はさっきまでの僕とは比べ物にならないほど強いよ⋯⋯!」
それは見れば分かる。
というか、それ以外に剣を二本も持つ理由なんて何があるっていうんだよ? バカなの?
しかも俺に手加減しようとしてた時点でこいつの実力なんて大体は分かる。
相手の実力もろくに推し量ることも出来ないような奴が、こんな狭いとこで最強だのなんだのと言われて付け上がっているだけ。
相手との実力差くらいは分かるようにならないと、広い世界では生きていけないってことを教えてやろう。
「外野もうるさいし、これで勘弁してやるよ」
一瞬で距離を詰めた俺は、イケメン野郎の顔に強烈な右ストレートを打ち込んだ。
地面と平行に飛んでいったそれは、結界にぶつかり地面に落ちる。
『⋯⋯し、試合終了おおおっ?! 勝者は何と、オルフェウス選手だああああああああああああッッ!』
司会者の声が場内に響き渡り、闘技は幕を閉じた。
実にあっという間で、呆気なく勝負がつき、しばらくの間観客は何が起こったのかまるで理解出来なかったのだそうだ。
──それから数十分後。
報酬を受け取った俺達は、歓声とはまた違った微妙な騒がしさを纏った闘技場をあとに大降りを歩いていた。
「あの⋯⋯その、ね、オルフェウス君。私達、悪気があった訳じゃないの。ほ、本当だよ?」
「ごめんなさい。つい調子に乗っちゃった」
先を歩く俺におそるおそるといった感じで話し掛けてきたシエラとイリアはかなり緊張しているような声で先程の事について謝罪をしてきた。
その様子から少なからず反省の色が見てとれるが、謝ってすむ程度なら俺はあれほど怒ることは無かっただろう。
それにイリアは正直に謝ったが、シエラの〝悪気があった訳じゃない〟は完全に嘘っぱちだ。
俺がステージに出てきた時にあれほど笑っていたくせに、悪気があった訳じゃないなんて事があってたまるか。
でもまあ。
「正直に謝ってくれたんだし、怒らないでいてやるよ」
「え、良いんですか!?」
「許してくれるの⋯⋯?」
俺の闘技場でのあの笑顔を見ているからか、俺の言葉に驚きながらもホッとしたような表情でそう聞いてくる。
俺の知りたいことも知れたのだし、臨時収入も手に入った。
経緯はどうあれ悪いことばかりでもなかったのだから、今回くらいは水に流そう。
「何だよ、人がせっかく許すと言ってるのに、文句あるのか?」
「いやいや! そんな事ある訳無いじゃないですかっ!」
「良かったあ」
「ま、今日の夕食ぐらいはご馳走してもらうからな?」
「わっかりました!」
そんな話をしながら、俺達はだんだんと暗くなっていく王都の町へと繰り出した。
かなり暴走してきた感ありますね(俺が)
面白いと思って読んでくれたら有り難いです!




