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第二十三話 時代の足音

「『ステータス』」


 そう唱えると、少年の目の前に半透明な画面が浮かび上がる。


◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇

名前:天野暁斗

種族:人族

職業:勇者

レベル:12000

スキル:『聖剣術 Lv30』『神聖魔法 Lv30』『神眼 Lv30』『創造魔法 Lv30』『魔法耐性 Lv30』『物理耐性 Lv30』『アイテムボックス Lv30』

称号:超越者・覚醒者・神格者・勇者・聖剣の使い手・神の使徒・神の加護・異世界人

◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇


「へえ、本当に出た。流石は異世界」


 現れた自分のステータスを興奮気味に覗き込む、この世界では少し珍しい黒髪と黒い瞳を持った少年。


「確か、一般人のレベルは一桁、三百年前に世界を救ったって言う勇者様が五千と少しって話だから、僕はこの世界では間違いなく最強クラスの実力ってことになるのかな? あまり変わった様子はないけれど⋯⋯というか」


 自身の身体に視線を落とすと、白や青といった色を基調としたローブが風に靡いていた。


「服が変わってる。何だか仮装してるみたいで恥ずかしいけど、この世界ではこれが普通ってことなのかな? それに、本当に僕が強いのかも今の段階じゃ分からないし」


 そんな事を呟きつつ、自身の顔に触れてみたり体を動かしてみたりと調子を確かめた後、足の爪先で軽く地面を小突いた。

 瞬間、少年を中心として地面に小さなクレーターが発生する。

 ほんの軽い気持ちで行った行動とは裏腹に、想像を遥かに超える結果を刻み付けられた地面を見て思わず「おお」と感嘆の声が溢れる。


「⋯⋯な、なるほど、確かにこれは凄まじい。最初からチート性能なんて、ご都合主義にも程がある。ゲームバランスもあったものじゃない。⋯⋯それだけ急を要するって事なのか」


 周囲を見渡すも、視界にはひたすら樹木が映し出されるのみ。

 小動物はおろか、小鳥の囀り一つ聞こえない静けさ。

 上を向くと木々の隙間から太陽の光と蒼い空が覗いていて、再び足元に目を向け、もう一度目の前の樹木を見る。


 十数メートルはありそうな木々だが、少年には不思議とそれが然程高いとは感じられなかった。

 自分なら、今の自分ならあの程度の高さ、難なく飛び越えてしまえるという確信があって、疑うことすらなかった。

 そして、少年はそれを証明する様に高く跳躍した。


「おお、本当に出来た──っと、あそこが神様の言っていた、三百年前の勇者が使っていた聖剣が眠る遺跡か」


 跳躍した少年が真っ先に捉えたのは、不自然にも森林にぽっかりと空いた空間と、その中心に物々しく聳える巨大な建造物。

 建物のあちらこちらに蔓や草が生えてはいるものの、損壊している箇所は見受けられない。

 相当の年月が経過していると見ただけで窺えるにも拘わらずしっかりとした造り、形を保ち続けている。


「──さあ、最強の初期装備を手に入れに行きますかっ!」



 そこは紛れもなく、帝国領に存在する古代遺跡。

 三百年前、勇者が使っていた最強の聖剣──エクスかリバーが安置されている場所だった。




◆◆◆


 リーアスト王国の王都、そのすぐ近くの街道に、一台の大型の竜車が走っていた。

 見た目はお世辞にも良いとは言えないものだったが、その割に護衛の者達の装備はどれも高価なもので、その数も多い。加えて、冒険者とは思えないほど綺麗な隊列。


 見る者が見れば、直ぐにその違和感に気付くことが出来るだろう。

 しかし此処にはその者達の他に人の気配はなく、見晴らしの良い街道を順調に進んでいた。

 

「──済まない、そこの、止まってくれぬか」

「うおっ!?」


 そんな時、不意に、何処からか声が降ってきたかと思えば、竜車を引いていたレッサードラゴンはたちまちその動きを止めた。

 当然、御者の意図して行ったことではないため竜車は大きく揺れ、同時に困惑の声が上がる。


 そして漸く、道を塞ぐようにして立っている者の存在を認識する。


「なっ、何だお前は!? 一体何処から⋯⋯!?」

「何、魔法で転移してきただけだ。別に驚くような事ではないだろう」


 何てことはないとばかりに言い放つ、突然目の前に現れた男。

 その男にとっては造作のない手段に過ぎずとも、時空魔法はとても稀少な魔法であり、それを使える者は限りなく少ない。


 加えて、御者をしている者は『気配察知』、『魔力関知』のスキルを有しており、索敵に関しては人族の中でもかなり上位に位置していた。

 もし時空魔法が使えたとしても、高レベルの索敵スキルを有する者の索敵外から転移してくるなど、信じられないことだった。

 それだけで、彼等が驚くには十分な理由となる。


「そう睨むな人の子よ。我はただ、交渉をしに来ただけ。──その積み荷とともに来た道を引き返せ、と。まあ、これを拒むのであれば、残念ながら容赦は出来ぬが」

「!?」


 積み荷、この男はそれが何かを知っている──そう理解したと同時に、護衛達は戦闘体勢に移る。

 その行動を見て、男は予見した様に肩を落とし溜め息を吐く。


「⋯⋯貴様、その情報を何処から手に入れた」

「魔道具を隠したいのなら、魔力を遮断する結界を張った上で認識阻害を重ね掛けするべきだな。その様な膨大の魔力の込められた魔道具を、認識阻害の付与のみで隠し通せる筈もないだろう?」

「馬鹿な! 教皇様の魔法を破れる筈がない!」

「教皇? やはり聖国の間者か。そもそも、魔力の放出を抑えるのと認識を阻害するのとでは根本的な本質が違うのだが」


 認識を曖昧にしたところで、そこから放たれる魔力を感覚として捉えることは、ある程度魔力操作が熟達している者であれば可能なこと。

 とは言え、それでも人間にとってはかなり高度な技術と言えるが。


「それなら阻害ではなく、認識を摩り替える方がよっぽど良いと我は思うぞ?」

「くっ、殺れ!」


 護衛の者達が戦闘体勢に移っているにも拘わらず悠々と歩み寄ってくる男に、御者をしていた者は自らも抜剣しながらそう叫ぶ。


「交渉とは上手くいかないものだ。先はああ言ったものの、今代の王の話によると、洗脳を受けている可能性があるのだったか。これでは無闇に殺す訳にもいかない、か」


 男は剣を向けられても尚、まるで警戒もせずに独り言を呟く。

 その間にも護衛の者達は男に斬り掛かろうと接近しており、その一人の剣が今、男の首を捉えて。


「死ねぇぇえ!! ────は?」


 金属と金属が衝突し合う様な本来しない筈の音と、周囲に火花が散る──それに遅れる様にして、間抜けな声が遮蔽物のない草原に響く。

 目を見開き、信じられない──そんな顔をして、護衛の男は自分の手元を今一度確認する。


 そこには、見事に男の首を捉えている剣があって、それを受けて掠り傷の一つも負っていない男の首があって、しっかり頭と身体を繋ぎ止めている。

 視線を少し持ち上げると、先程と変わらない表情で見下ろしてくる男がいて。


「太刀筋は悪くなかったぞ。魔力を込めていたなら、掠り傷くらいはついたかもしれぬ」

「!?」


 そしてあろうことか、斬り掛かった方の剣にいくつもの亀裂が走り、次の瞬間、砕け散った。


「な、な、な⋯⋯!?」


 途端に軽くなった剣だったものを手に、漸くこの男の異常さを理解し後退りする。


「加えて、こうした外部からの魔力による干渉もある程度は防げていただろう」


 そう付け加えるも、それを聞き届けられるほど冷静さを保てている者は、残念ながらこの場に存在しない。

 攻撃を仕掛けた護衛は勿論、他の護衛達もその信じられない現象に等しく目を疑い、身体が反射的に動きを止めてしまっている。

 しかし。


「⋯⋯む」


 護衛の者達の気配が変わる。

 恐怖に震えていた身体はいつの間にか静まっていて、彼等のの表情は覇気がまるで感じられないものとなっていた。

 瞳も虚ろで、焦点が合っていない様に感じられる。


 例えるなら──そう、感情を持ち合わせないアンデッドの様な。


「やはり、洗脳されていたか」


 無機質な表情で、再びその身体を動かし始める。

 感情を無くした彼等は死をも恐れることなく男に斬り掛かり、その動きは先程までとは明らかに違っている。

 枷が外れたかの様に速く、鋭い斬撃。


「いや、それだけではないな」


 それらの攻撃を難なく回避しつつ、男は思考を巡らせる。


「⋯⋯成る程、悪魔を寄生させているのか。天使の召喚に飽き足らず、よもや悪魔の召喚にまで手を出したか」


 ──悪魔。

 男の言う通り、この者達には悪魔が寄生している──いや、寄生させられていると表現した方が正しいかもしれない。

 下位の悪魔を【魔界】から召喚し、無理やり従えているのだ。


(流石に上位悪魔であれば我でも苦労したかもしれぬな。まあ、そうであっても、彼の方が余程苦労が絶えないのだろうが)


 瞼の裏に一人の少年を思い浮かべて、ふっと笑う。


「──『眠れ』」


 一言、男がそう呟く。

 その瞬間、襲い掛かって来た者達がたちまちその場に崩れ落ちる。


「三百年前、勇者と我、──そして、ファフニールが挑んで尚届かなかったそれに、どう立ち向かう? 人の子よ」

 プロローグ以降、実際に悪魔が出てきたのは初めてですね。

 それに勇者なんかも出てきましたが、この章ではもう出てくることはなく、次の章から主に登場してくる⋯⋯かもしれない⋯⋯たぶん⋯⋯予定です。ここだけの話、ネタわk⋯⋯いえ、なんでもありません。

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