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第二十二話 旅の終わり

短めですが、これで四章完結の予定です。

「ありがとう」


 ふと、背後から声が聞こえた。

 振り向くと、先程まで離れた場所に隠れていた精霊が立っていて、じっと此方を見上げていた。


「聖剣を守ってくれて、ありがとう」


 透き通った瞳を向けてくる精霊に、何か言おうと口を──開いた所で、すぐに閉ざした。

 そして俺は、深く頭を下げた。


「どう、したんですか……?」


 精霊が不思議そうに覗き込んでくる。

 しかし俺は頭を持ち上げることなく、そのままの状態で口を開いた。


「すみませんでした」

「……え?」


 困惑している精霊を余所に、俺はひたすら頭を下げ続ける。


「頭を上げてください。どうしてあなたが謝るんですか? あなたは私を救い、聖剣を守ってくれた。謝る事なんて一つも無いです」

「……いえ」


 そんな事はない。

 俺にはこの精霊に、謝る必要がある。


「俺も、聖剣の入手を目的にこの遺跡へやって来た。その事実は変わらない」


 大元を辿れば、ラディスと目的は同じだった。

 だから俺には頭を下げて謝る必要があって、ありがとうと言われる資格は無い。


「でも、あなたが私を救ってくれたという事実も変わりません。此処へ来た過程がどうであろうと、あなたが此処に居なければ私と聖剣は救われなかった」


 確かに、そうかもしれない。

 しかしだからといって過程を無視することは出来ない。

 もっと俺がラディスを警戒していれば、たったそれだけで結果が違っていたかもしれないのだから。


「それに、私はあなた達に魔物を差し向け、命を奪った。むしろ、私が謝らなければならない立場なのです」


 咄嗟に返す言葉が見付からなかった。


 一目見たときから気付いていた。彼女が魔物を差し向けていた張本人だということを。

 精霊の力を与えていたのなら、魔物が強大な力を持っていた事にも頷けたから。


「だからどうか、頭を上げてください。私にとってあなたは恩人で、感謝すべき方なのですから」


 そう言われ、そこで漸く俺は頭を持ち上げた。


◆◆◆


 あの後色々とあって現在、馬車に乗って帝都への帰路に着いていた。

 ラディスの件に関しては説明するのにかなり骨が折れたが、転移の魔道具で聖国に帰った、という事を何とか理解してもらうことができた。

 因みに、精霊の存在は伏せておいた。


「あーあ、結局失敗だったねー」

「仕方無いさ、そういうこともある」

「むぅ~~……」


 不満そうに頬を膨らませるアーラルさんを見て、つい笑ってしまう。


「でも、みんな無事で良かったです」

「そうだね。もし僕達だけだったら、今頃どうなっていたか分からない」

「そんな事」


 ──ないですよ。

 そう言おうとして、アストさん達の視線が真っ直ぐ俺を捉えているのに気付き、最後まで声に出すことは出来なかった。


「君がいてくれて良かったよ」

「だね!」

「感謝している」

「…………」


 不覚にも、ぐっときてしまった。

 俺がいて良かった、そう言われて嬉しくない筈がない。

 精霊から言われた時も、素直にその感謝を受け取っていれば良かった。


「俺も、皆さんと一緒に冒険できて楽しかったです」

「本当かい?」

「はい」

「それは良かった」


 こうして、俺達の仕事は終わりを迎えた。


 あの古代遺跡は強力な魔物が出るということで立ち入り禁止とするらしく、帝国の騎士団が監視することとなった。

 一般人への詳しい情報公開はされなかったものの、これなら間違って遺跡に足を踏み入れるような者も出てこないだろう。

 兎に角、一件落着という訳だ。




 ──それから三週間後、俺達はリーアスト王国の王都オルストに到着した。


 一ヵ月半近くの長旅だったが、今となってはあっという間に過ぎ去っていったように感じる。

 だが疲れというものは本人が気付かなくともしっかり溜まっているもので、ベッドに倒れ込むや否や俺の意識はまどろみの中へと誘われていった。

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