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第十九話 古代遺跡攻略 ④

 徐々に入り組み始めた通路を、先駆した冒険者達が残した手がかりを頼りにしながら進んでいく。


 どうやらこの遺跡には高度な結界が施されているようで、魔力による気配察知の範囲がかなり制限されて使い物にならない。

 先程までは問題なく使えたことを考えると、恐らく遺跡の中心へ行くほど結界の力が増していく仕組みなのだろう。

 やろうと思えば魔力操作は可能ではあるけど、なるべく魔力は温存しておきたい。

 出来れば遺跡の構造とかを把握しておきたかったのだが、仕方無い。


「っ、これは……」

「……戦闘の痕、それもまだ新しい」


 進んでいくと、酷く通路が損壊している場所があった。

 辺りは黒く焦げており、此処で戦闘が行われた事を示している。


「此処を通ったのは間違いなさそうだが、酷いな。焼き尽くされて欠片も残ってねぇ」


 グランさんの言う通り残っているのは戦闘した痕だけで、魔物の姿は何処にも見当たらない。

 ここまで徹底的にやすなど、明らかにやり過ぎだろう。


「どれだけ魔物に恨みがあるのやら」

「もしくは、手加減できない相手だったか」


 普通に考えれば魔物に恨みがあるという、アストさんの言葉の方が可能性としては高いだろう。

 しかし、先程のオルトロスの一件を考えると、ニグルさんの方の可能性も十分ある。


「どちらにせよ、俺達は進むしかありません」


 俺の言葉に全員が賛同する。

 結局これしかできないのだから、今は一刻も早く冒険者達に追い付くことを一番に考えなくてはならない。


「進もう」


 アストさんが言うと同時に俺達は駆け出し、遺跡の深部へと向かう。


 進めば進むほど分かれ道が多くなっていき、方向感覚が狂ってくる。

 そして魔物と交戦した痕跡も増えてきている。ダンジョンで言えば正しく深部へ向かえている証拠なのだが、はたしてこの遺跡ではどうなのだろうか。


「──っ!」


 漠然とそんな事を考えていると、通路の先から爆発音のようなものが聞こえてきた。

 きっと戦闘中に違いない。やっと追い付いたのだ。


「急ごう!」


 アストさんの掛け声で走る速度を速め、次の分かれ道を右に曲がる。

 すると再び広い空間に出て、瞬間、此方に魔物が飛び掛かってくる光景が視界に飛び込んできた。


「──『プロテクション』ッ!」


 凛とした声が響いて、目の前に光の障壁が発現する。

 これは『バリアフィールド』より更に強力な障壁を展開する事が出来る結界魔法──『プロテクション』。

 結界魔法のみならず、光属性もしくは聖属性に分類される魔法であり、この属性魔法のスキルを持つ者はパーティーの中に一人しかいない。


「もうすぐ壊されちゃうから対処は任せるよ!」


 アーラルさんが苦しそうに魔法を維持しながら叫び、同時に結界に小さな亀裂が生まれた。

 あっという間に亀裂は広がっていき、やがて砕けてしまう。

 だが、これまで幾つもの死線を潜り抜けてきている冒険者にとって、その僅かな時間でさえも十分以上に意味を持つ。


「俺が出る! 援護は任せた!」


 結界が破壊されると同時にグランさんが単騎で突っ込んでいき、一気に魔物の懐へと飛び込むとナックルによる重い一撃を食らわした。

 不意を突いた見事な一撃により魔物は後退し、そこにニグルさんの援護が入る。


「──ッ!?」

「相手を容易に拘束出来るというのは、なかなか便利なものだな」


 見ると、魔物の足元から胴体までが凍り付いており、冷気を生み出しながら更に侵食を続けている。

 それにより動きを封じられた魔物は呻き声を上げるしか出来ず、必死に氷の拘束から逃れようともがくが時既に遅し。


「ふっ!」

「ッッッ────」


 その隙に距離を詰めていたアストさんが氷の拘束ごと纏めて斬り裂いた。

 断末魔を上げながら崩れ落ちる魔物。

 それに見向きもせずに、俺はその後方へと死線を向けていた。


「今度は、オーガの群れか」


 目の前に広がるのは百体近くのオーガの群れと、それと乱戦を繰り広げている冒険者達。

 恐らく先駆した冒険者全員がいるだろう。だが、だからこそ不可解な点が浮かび上がる。


「どうやら押されているようだね」

「はい」


 此処に居るのは、聞いた話によると殆どがSランク冒険者。にも拘わらず、たかがオーガごときの群れに押されているのだ。


 Sランクの冒険者ともなればオーガの群れ程度など造作もなく蹂躙できる実力者達だ。

 それがどうしたことか。アストさんの言う通り、明らかにオーガが冒険者達を押している。

 普通では考えられない光景だ。


「やっぱり、あのオルトロスだけが異常ではなかったんだね」

「こうなると、遺跡にいる魔物全てがそうだと考えた方が良いかもしれません」


 アストさんの言葉に俺はそう答え、その場から消える。

 そして今にもオーガに撲殺されそうになっている冒険者の前に転移すると、振り下ろされた棍棒を素手で弾いて横へと受け流す。


「────」


 突如現れた俺に驚きを含んだ目を見開くが、その頃には既に、俺はオーガの首を切断して通り過ぎていた。

 一瞬遅れてオーガの首がずり落ち、盾を構えていた冒険者の足元まで転がっていく。


「ひっ!?」


 小さな悲鳴を上げて飛び退いた冒険者は足を縺れさせ尻餅をつく。


「さがってください、戦いの邪魔です」

「なっ!? 俺はまだ戦え──」


 軽く威圧すると、冒険者はすぐに口を閉ざした。


「なら早く立って武器を構えた方が良いです。あなたを守って戦うつもりはありません、自分の身は自分で守ってください」

「くっ……!」


 俺なんかに言われると苛つくだろうなぁ──と、そんな事を考えながらも敢えて冷たく言い放つ。


 危険なのはこの人だけではないのだから、一人に時間を使っている余裕はない。

 だから敢えて相手の怒りを買うように言って、少しでも恐怖を取り除きたかったのだ。


「無理はしないでくださいね」


 立ち上がり武器を構えたのを確認してから、俺は他の冒険者の助太刀に向かう。

 アストさん達も各自冒険者の助力に向かっている。

 どうやらオーガと対等以上に渡り合えているようで、危なげ無く立ち回っていた。


(俺の付与魔法もあるだろうけど、やっぱり流石だな)


 これなら冒険者達の方はアストさん達に任せても大丈夫そうだ。

 となれば、俺は群れのボスを叩くとしよう。


「あそこにいるオーガジェネラルは……フェイクだろうな」


 オーガはもとより群れを成して行動する魔物だ。


 配下を統率する群れのボスは大抵上位種であることが多い。そして、群れの規模によってボスの強さも大きく変わってくる。

 オーガ百体程度のの群れならオーガジェネラルが群れのボスでも不思議ではない……が、それが三体もいるとなれば話は変わってくる。

 同等の実力を持つ上位種が複数体群れにいれば、誰が群れのボスになるかで実力行使の争いが生まれるのは必然だ。


 だというのに、三体のオーガジェネラルは全く争う様子はない。


 つまりオーガジェネラルの更に上──オーガキングが群れを統べている可能性が高いのだ。


「上手く姿は隠せているようだが、もう少し魔力の隠蔽に気を付けた方が良かったな」


 俺はオーガジェネラルに背を向け、不自然にオーガがいない場所へと目を向ける。

 それと同時に圧縮した魔力の塊を打ち出し、相手の展開している認識阻害の結界に、外部から強制的に干渉する。


 結界が砕けると同時に姿を見せたのは、オーガやオーガジェネラルよりも更に巨大な体躯を持つオーガ──オーガキングだった。


「グォッ……!?」


 展開した結界が破壊され目を見開くオーガキングと視線がぶつかった。


(こいつも、普通のオーガキングじゃない)


 気配からしてまるで違う。


 もともとオーガキングは強大な魔物としてSランクに指定されている。

 Sランクの魔物といえどその強さにはかなりの差があり、上位、中位、下位の三段階に分類される。

 その中でオーガキングは中位に分けられている。つまり、デュラハンと並ぶ力を持った魔物という訳だ。


 ──それが、何者かによって更に強化されているとしたら?


 恐らく、その力はSランクに定義することなど出来ないだろう。

 間違いなくその力はSSランクに片足を突っ込んでいる。


「Sランクを支配できる存在……か」


 それは一体、どれだけの存在なのか。


 今はまだ分からない。


 しかし、こうまでして俺達を遺跡から排除しようとしているという事は、歓迎されていないのは間違いないだろう。

 それが何故なのか、漠然と疑問を巡らせながら、俺はオーガキングと対峙した。

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