第十九話 古代遺跡攻略 ③
「お見事だったね」
「アストさん、勝手に突っ走っちゃってすいませんでした」
笑顔でそう称賛を送ってくれるアストさんに俺は頭を下げた。
「いいよいいよ、この場を収める事が出来るのは君だけだっただろうからね」
「それにしてもやっぱりスゴいねー! 一人で片付けちゃうなんて」
俺の従魔のスライムを抱きながらアーラルさんが誉めてくる。
まあ、凄いか凄くないかでいえば、凄いの分類になるだろう。……けど、そんな事よりも気にしなければならない事がある。
(あのオルトロス、強すぎた……)
あの力強さと速度、あれはもう危険度Sクラスに分類されなければならない程の脅威だった。
特別身体能力が他に比べて高い特殊個体だったのなら兎も角、群れ全てがそうだというのはあまりにも現実を逸脱している。
それに冒険者の言葉も気になるな。
(光ったと同時に強くなった……か。無関係な筈がないよなぁ)
言葉をそのまま信じるのならあのオルトロスの群れは最初、あれほど強くはなかったという事になる。
つまりあの力は本来はオルトロスの力ではない──という推測が生まれる。もしこの推測が正しいとするならば、また更に疑問が生じる。
(……誰が力を与えたのか)
そして、どうして力をオルトロスに力を与える必要があったのか。
「──オルフェウス君? おーい、聞いてるー?」
「っ!」
ふと下がっていた視線を持ち上げると、視界にアーラルさんの顔がいっぱいに映し出された。
「えっと、何ですか?」
「そろそろ攻略再開しようっていう話。私たちは全然大丈夫だけど、オルフェウス君は戦闘の後だから、疲れたりしてない?」
「ああ、はい。大丈夫です。行きましょう」
漸く顔を話してくれたアーラルさんに、そう答えながら足を進める。
疲れたらすぐ言ってくれて良いからね──というアストさんにありがとうございますと返事をして、俺達は先に進もうとした時。
「ちょっと待ってくれ!」
そう言って背後まで駆けてくる冒険者達がいた。
「さっきは俺の大切な仲間を本当にありがとう。この借りは必ず返す!」
リーダーらしき冒険者が頭を下げると、他の者達も同様に頭を下げてくる。
別に貸してるとは考えてなかったが、ここは彼等の意思を尊重することにしよう。
「じゃあ、その時はお願いします。ところで、この後はどうするんですか?」
「一度遺跡を出て仲間を休ませてやることにするよ。……この状態で奥に進んでも仕方無いから」
まあ、当然だろうな。
ここから遺跡の外までは一つの通路で繋がっているから万が一にも迷うという事はないだろうから、それほど心配する必要はないだろう。
「そうですか。危険は無いと思いますが気を付けてくださいね」
「君こそ、気を付けるんだ。オルトロスを無視して先に進んだ冒険者たちがいるはずだから、もし会ったら警戒するよう伝えてくれ」
言われてみれば、確かにこの場にいる冒険者だけでは数が少なすぎる。
確かこの入り口を使用して攻略に挑む冒険者は五十人はいた筈、しかし此所にはその半数以下の二十人程しかいない。
俺達のパーティーを合わせれば大体半分だ。
(半数はもう先に向かってるのか……)
「分かりました。ではそろそろ行きますね」
「ああ、借りを返すまでに死んだら許さねえからな!」
そうして、俺達は遺跡の深部へと足を進めた。
再び代わり映えのしない通路を進むこととなり、先程と比べてより通路の幅が広くなっている。
辺りを見渡す限り戦闘が起こった痕跡は見当たらないが、それでも十分に警戒しながら移動すること数分。
「……分かれ道だね」
ここで初めて、分かれ道が姿を見せた。
「斬り込みがある。恐らくこっちに進んだのだろう」
「入ってきた場所を考えると、そっちが遺跡の中央に繋がってる可能性が高いからね~」
確かに、言われてみればそうだ。
それにもし此所に、本当に勇者が使っていたという聖剣が眠っているとするならば、遺跡の中央に位置する部屋や地下に安置されていると考えるのが当然だろう。
反対の通路の壁には斬り込みがないところを見ると、どうやら全員、同じ通路に曲がったらしい。
「マッピングも依頼に含まれていることだし、本当は誰も行ってない方を行きたい所だけど……」
「まずは情報の共有が先だな」
「だね」
グランさんの言葉に頷いたアストさん。
「じゃあ僕たちもこっちへ行こうか」
そうして、俺達もまた先駆した冒険者達を追うように通路を駆けた。




