第十九話 古代遺跡攻略 ②
オルトロス。
力と素早さを兼ね備えた危険度Aランクに指定されており、火魔法も操るという厄介さも持ち合わせた魔物だ。
普通の武器ならば毛皮であっさりと威力を殺されてしまいダメージを与えられない。
しかし、俺の使っている刀ならその程度の防御などものともせずに斬り裂く筈……だというのに。
「ッ!」
オルトロスに向けて刀を振り下ろすが、またしても刃が肉まで届くことはなかった。
つまり毛皮すら斬れていないのだ。
(もっと魔力で強化できるか……?)
そう思い、刀に魔力を込めてみる。
今でも魔力を流し込むことでかなり切れ味は上がっている筈なのだが、それでもオルトロスには通用していない。
なればこそ、更に刀の性能を上げなければまともな傷を負わせらることができないのだが……。
「ちっ」
刀が魔力に耐えきれず不自然に震えだしたところで魔力の供給を止めた。
これ以上の強化は無理なようだ。ならば──。
(あまり使いたくはなかったんだけどな……『エンチャント』)
多くの冒険者の前ということもあってなるべく実力を隠しておきたかったのだが、そうも言ってられない状況にある。
そして刀に『切れ味上昇』の付与を施し終えた時、三体のオルトロスが俺の横を抜けて駆けていった。
「逃がすか」
『テレポート』によって真ん中を走るオルトロスの目の前に現れた俺は、またしても横を抜けていこうとするそいつに刀を振るった。
何の構えもせずに、ただその場で。
だが次の瞬間には、二つの首を跳ねられた三体のオルトロスが地に倒れた。
まるで死んだことを遅れて知ったかのように──。
「よし、ちゃんと斬れる」
刀の調子を確認して頷く。
念の為に少し強めに付与魔法を使ったお陰であっさり首を斬ることができたし、これだけの切れ味なら十分に戦えるな。
因みに、左右のオルトロスは『ディメンションスラッシュ』で刀を振るついでに殺した。
「じゃ、そろそろ攻略に戻らないといけないし、さっさと終わらせるか」
一連の様子を見ていた他のオルトロスは怯み、明らかに俺を警戒している。
先程までは遊ぶように俺を扱っていたことを思うと、此方も相応の仕返しをやりたくなってしまうのは仕方のない事だ。
しかし何が起こるか分からない遺跡にいる以上、油断に繋がる行動は出来ない。
「…………」
一旦刀を鞘に戻し、静かに居合斬りの姿勢をとる。
刀の扱いにはまだあまり慣れてはいなかったのだが、先程までの、感覚を掴む為の戦闘で漸くコツが掴めてきた。
剣とはまるで扱い方が違っているから、今までは感覚を掴む為に手加減していた節もあった。
けど、これからは全力で振れる。
「──っ!」
硬直した状態に痺れを切らしてか、一体のオルトロスが突進してきた。
だが集中状態の俺にはものの数秒で目の前まで到達するそれさえも、まるで数分にまで引き延ばされたかのように長く感じる。
「はあッ!」
【疑似魔眼】を使用していた俺の目にはオルトロスの体内に存在する魔石の位置が正確に映し出されており、狙ってそれを斬ることなど造作もなかった。
狙い狂わず魔石を切断し、心臓とも呼べる魔石を斬られたオルトロスは白目を剥いて、一切の痛みも味わうことなく絶命した。
その様子を窺っていた他のオルトロスは接近戦では勝てないと判断したのか、今度は一斉に火球を放ってきた。
直径二メートルと簡単に人を呑み込んでしまいそうな火球が、あっという間に視界を覆い尽くす。
(こぼれ球はあいつが対処してくれるだろうし、一気に仕留める)
魔力を視ることの出来る【疑似魔眼】によって魔力の集中している場所──魔法の核を捉え、直撃しそうな火球の核だけを斬り裂きながら突き抜ける。
核を破壊された火球は内包していた魔力が乱れてあっという間に消えていく。
そして、目の前にオルトロスを捉えた瞬間、視認さえ困難なスピードで全ての魔石を両断した。
「ふう」
止めていた息を吐き出し、刀に付いたオルトロスの血を払う。
そして冒険者達の方へと振り向くと、そこには自身の身体を鞭のように伸ばしたスライムが埃でも払うかのように火球を消滅させる姿があった。
短めなので、今日はもう一つ更新します。
20:00に更新予定です




