第十九話 古代遺跡攻略 ①
ここからしばらく、いろいろと戦闘が続きます。(……た、多分)
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「此処が古代遺跡……」
想像以上に大きな遺跡だ。
放置されていたとあって草木が生い茂っていたり所々に風化の痕が見られるものの、建物事態は殆ど損傷を受けていない。
建物を構成する岩に『硬化』の付与魔法でも掛けていたりするのだろうか。
「遺跡の中はかなり強力な魔物が潜んでいるらしいから、皆警戒は怠っちゃいけないよ」
アストさんの言葉にそれぞれ返事をする。
「にしてもこっちは随分数が少ないね~」
アーラルさんが周囲を見渡しながらそんな事を言った。
確かに此所には依頼を受注した二百人ほどの冒険者の半数も人がいない。この場にはざっと五十人くらいの冒険者がいるだけだ。
因みに、その中にラディスの姿はない。
「仕方無いさ、こっちは正面と比べて通路が狭いらしいから」
「こっちは回り道をしてきたから、向こうは既に遺跡の中へ足を踏み入れているだろうな」
遺跡攻略を進めるにあたって、正面……遺跡の入り口から堂々と入っていく冒険者と、もう一つの小さな入り口から攻略を進める班に二分された。
といっても殆どの冒険者は正面からの攻略になるが……まあ、建物の構造上仕方無いのだろう。
「では、我々は此処で待機しておりますので、もし負傷などした場合には一旦戻って来て下さい」
帝国の魔法師団の一人がそう言うと冒険者達は渋々ながらに首を縦に振る。
けど、依頼による死亡者を最小限にとどめるにはこれが一番だろう。それにこれならヒーラーの無駄な魔力の消費をある程度抑えることができる。
「それと、支給したマジックバッグは依頼終了後に回収させて頂きますが、中に入っているものはご自由に使ってくれて構いません。遺跡で手に入れたアイテム類の収納にも便利です」
各パーティーに一つずつマジックバッグを支給するなんて、普通なら考えられないな……。流石は王族といったところだろうか。
亜空間を使える俺には殆ど意味のないものだが、アイテムボックスなどの収納方法を持っていない者達にはかなり心強いアイテムだ。
「では各自準備の整った方から攻略を開始してください。余裕があればマッピングもお願いします」
魔法師団の人が話し終わるや否や、冒険者達は競争でもするかのように遺跡の中へと走っていってしまった。
残されたのは俺達のパーティーだけ。
「皆張り切ってるね、これは暫く魔物の心配は必要なさそうだ」
「でもそれだと、アイテムとかが全部取られちゃうって事でしょ? それは何か悔しいなぁ」
「だが初めての場所、それも危険な魔物がいる遺跡となれば安全を最優先するのは当然だ」
「そんなの分かってるよっ!」
「何でも良いからさっさと行くぞ」
という事で、俺達も遺跡の内部へと向かった。
説明では遺跡の中は狭いと言ってはいたが剣を振るには十分な広さがあり、アストさんが使っている長剣でも易々と振れそうだ。
これで狭いというのなら、正面はどれだけ広いというのか。
「少なくとも三百年は経っている遺跡なのに、かなり綺麗だな」
「そうだね。魔物が棲みついているにも拘わらず、崩壊しているところは見られないし」
ニグルさんの言葉にアストさんが周囲を見渡しながら言う。
「付与魔法ですよ。魔法で遺跡自体を頑丈にしてるんです」
「へぇ、そうなのかい?」
「俺も付与魔法は使えますからね」
「でもそれだと、今までずうっと魔法が掛けられてたって事でしょ?」
「あまり現実的ではないな」
流石は魔法使い。
二人の疑問は尤もだし、全部が間違っているという訳ではない。付与魔法の知識が無い人ではそのような見解に陥るのは仕方無いことだ。
「付与魔法には二つの種類があるんですよ。一時的な付与か、永続的な付与かです」
「つまりこの場合は……永続的な付与?」
「はい。この遺跡全体となると並大抵の魔力量じゃ不可能ですけど」
付与魔法を掛けた者はかなり腕の立つ魔法使いだったのだろう。
永続付与はかなり高度な魔法だし、魔力の制御も量もかなり必要になる。それを満たした上で付与魔法のスキルレベルがある程度高くなければならないからな。
それに、スキルレベルによって付与の強さもかなり違ってくる。
「どれくらいの魔力量が必要になるの?」
「この規模だと……魔法師団長のアランの魔力全部使ってギリギリ……かな」
「それってほぼ不可能じゃん! 昔の人は凄かったんだなぁ」
そんな事をしみじみと言うアーラルさん。
付与魔法のスキル持ちは稀少な上に、その者が戦闘職で更に才能があって、本気でレベル上げを試みない限りは不可能だ。
そんな者がどれだけの確率で現れるのか……そう考えると気が遠くなってくる。
「いや、オルフェウス君なら使えるんじゃないの?」
「……あ、そういえば、使えますね」
自分のことをしっかり忘れてしまっていた……。
いや、でも、俺の場合はこの時代に生きた人とは言い切れないし、そういう事では昔の人の部類に入るのだろうか? 少なくとも三百年以上も前の人間だし。
……そこら辺は考えても仕方無いか。
漠然とそんな事を考えていた、そんな時だった。
「──ッ!?」
全身がゾッとするような悪寒に襲われたのは。
「きゅ、急にどうしたんだい……?」
どうやら俺以外は気付いてないようだ。だが、説明している時間はありそうにない。
「すみません、時間がないんで先に行きます」
「あ、ちょ──」
何かを言おうとしていたアストさんに見向きもせずに、俺は自身の持てる身体能力を最大限に生かして駆け出した。
背後から聞こえてくる声もあっという間に遠ざかっていくのを感じながら、俺はただひたすら真っ直ぐ通路を走り抜けていく。
(間に合うか? ──いや、間に合わせる!)
数秒もしない内に光が見えてきて、俺は躊躇うことなく突き抜けた。
広い空間に出てまず目に入ったのは、人の背丈を超える体躯を持った双頭の犬のような魔物。
しかも一体だけではなく、三十体近くの群れを成している。
だが今はそんな事よりその魔物に襲われそうになっている冒険者だ。
「はッ!」
一瞬で間合いを詰め魔物の胴体に拳を打ち込む。
双頭の魔物は思わぬ攻撃に呻き声を上げ、その身体は数メートルほど後退する。
(……硬い)
殴った拳を見下ろし、伝わってきた手応えに違和感を抱いた。
例え魔道具の力であらゆる能力が制限されていても、自慢ではないが今の俺はかなり強い。
それなのに双頭の魔物を地面から離すことも出来ず、たった数メートル後退させることしか出来なかった。
本来ならかなりのダメージを見込める筈なんだが……、考えることより襲われていた冒険者の手当ての方が先だな。
「大丈夫ですか!」
「助けてくれて感謝する。問題ない……と言いたいところだが、あまり無事とは言えないな……。下手を打って肩を砕かれちまった」
見ると冒険者の肩に痛々しい咬み痕がつけられており、流れ出る血が腕を伝って滴り落ちて地面に血溜まりを作っている。
取り敢えず支給されている回復ポーションを取り出し飲ませるが、傷が深く気休め程度の効果にしかならない。
「じっとしててください」
俺はすぐさまポーションでの回復を諦め、時空魔法を使うことにした。
空になったポーションの瓶を放り投げ、肩に手を添えて魔法を行使すると、傷の辺りが淡く光りだし冒険者の肩を魔物に咬まれる前まで巻き戻していく。
「危ない!」
そんな最中、壁際まで退避していた冒険者の誰かが叫んだ。
俺の背後に迫った大きな火球を見て危険を知らせてくれたのだろう。
「頼む」
たった一言声を掛けると、今まで静かにローブに隠れていた従魔のスライムが任せろと言わんばかりに飛び出し、俺の背を守るように降り立った。
従魔として契約していのである程度の意思疎通は可能だが、やはりこのスライムは知能が高い。
スライムは自ら火球へと跳び上がり、『魔法無効』という頭の可笑しいスキルによって一瞬で火球を消してしまった。
「なっ……何だ、今の……?」
「あのスライムがやったのか……!?」
「……まさか上位種か? それもかなりの」
口々に言う冒険者達。
まあ、最初はそうなるよな……そんな事を考えている内に冒険者の傷は完全に塞がった。
「傷は塞がりましたけど、血がかなり失われているのであまり無理はしないでください」
「……あ、ああ、助かった」
「もう立てますか? 危険なので仲間の所まで下がっていてください」
腰にさした刀を抜きながら冒険者の男に離れるように言う。
この場には二十人程の冒険者がいる。
全員がAランク以上の冒険者なので、あれだけいれば自分達の身と負傷者一人くらいは十分守りきるくらいは出来るだろう。
「き、君一人で太刀打ちできる数じゃない! それにあのオルトロス、光ったと思ったら急に動きが素早くなって、強くなったんだ……っ!」
「情報、ありがとうございます。取り敢えずやってみます」
そう言って、俺は地を蹴った。
背後からは「止めろ! 無茶だ!」という冒険者の制止の声が聞こえてくるが、俺は足を止めることなく聞こえないふりをした。




