第十八話 本当の目的
「なるほどな……そういう事か」
俺は静かに納得しながら肩を落とす。
今日、俺達は受けた依頼の詳細を聞くために王城へとやって来ていた。
案内されたのは謁見の間。
そこには既に多くの冒険者達が集まっており、流石に王城だということもあって荒くれ者の集団であろうとも大人しく待機していた。
そんな中に見たことのある顔が一人。
「昨日の言葉もあったからな、まさかとは思っていたが……」
「まあ、聖国所属の冒険者がわざわざ帝国に来ているんだから、何となくそうだろうとは思っていたよ」
「同じ依頼を受けていたとはねー……」
アストさん達も苦笑いを浮かべていて、その視線の先には先日酒場で騒ぎを起こした『拒絶者』ラディスがいた。
──ふと、俺とあいつの視線が交差した。
向こうが口許を緩めるだけで突っ掛かってこなかったのは、運が良かったというべきか……。取り敢えず俺からは目を合わせないようにしよう。
そんな事を考えていると、謁見の間の扉が音を立てて閉まった。
「どうやら、全員集まったようだね」
隣でアストさんが呟き、他の冒険者達は僅かにざわざわとしだす。
「静まれ! じきに国王様が御見えになられる!」
騎士の一人が謁見の間全体に響き渡る声量でそう言うと、すぐに冒険者達は口を閉じた。
そして騎士の言った通り、それから数秒も経たずに俺達が入ってきた扉とは別の扉から騎士と魔法使いの二人の護衛を携えて、帝国の王が姿を見せた。
「よく集まってくれたな冒険者達よ、私はこのフレイド帝国を治めるシドラス=グライアル=フレイドだ。私の依頼を受けてくれたこと本当に感謝する」
……やはり、何処の王様でも威厳や風格というものはあるんだな。
(こんなにしっかしとした王様が父親だというのに、その息子は自分勝手でおてんばなのは皮肉なものだな……)
ふと、リーアスト王国の建国祭に来た帝国の王子──レオの姿が頭に思い浮かんだ。
あいつの所為で俺もレオの専属騎士と面倒な手合いをさせられたからな。まあ元はと言えばルシウスの奴が俺を巻き込んだのが原因だけど。
「まずは、依頼内容の確認をしようと思う」
王様がそう言うと、見計らって後ろに待機していた騎士が前へと進み出てきた。
「今回の依頼はここ帝都の南西にある古代遺跡の探索及び攻略で、暫定として達成難易度はSランクと仮定。報酬は一人あたり金貨二十枚、ただし遺跡で入手したアイテム等の一部……主に古代に使われていた魔道具等は依頼主に寄進するものとする。……以上が、既に知っている内容だと思う」
周囲を見渡し、冒険者達と情報の食い違いがないことを確認してから騎士は更に続ける。
「そして、我々が勢力を上げて古代遺跡の攻略に乗り出した理由だが、三百年前、魔王を討った勇者が使っていたとされる──【聖剣エクスカリバー】の回収だ」
騎士が口にした言葉にその場にいた誰もが驚きと動揺を隠せず、思わず己の耳を疑った。
誰もが知る英雄が使っていたとされる、強大な力を持つ伝説の剣。魔王を討ったと同時に勇者が何処かへと隠したと言い伝えられている【聖剣エクスカリバー】。
それが古代遺跡に眠っている、そう言われて誰が信じるというのか。
しかしこの状況でそんな事を口にできるほど冒険者達の頭は悪くなかった。
これは帝国、それも王の言葉を代弁した騎士から提示された情報だ。一国の王から知らされた情報、これほど信憑性のあるものなど他にあるだろうか。
「そ、そんなもの本当にあるのかよ!?」
冒険者達を代表してある冒険者が声を上げた。
例え王から知らされた情報だとしても、素直にその言葉を受け入れることは出来なかったから。
「これは、聖国から提供された情報だ。信憑性は十分あると判断している」
聖国から提供された……ね。
確かに勇者を異世界から召喚したのは聖国だから、勇者が何処に聖剣を隠したかも知っているかもしれない。
けど、どうして三百年も放っておいたものを今さら回収しに行く必要があるんだ?
「今は平和でも、いずれこの平和が揺らぐ時が来るかもしれない。その切り札として【聖剣エクスカリバー】を回収するというのは三大国の総意である事を言っておこう」
三大国の総意。つまり聖国、帝国、リーアスト王国が同意したという事。
それだけでこの依頼の重さが痛いほど伝わってくる。
「それにあたり、我々も最大限の支援を惜しまない。なので、冒険者達には必ず【聖剣エクスカリバー】を回収してきてほしい」
王様がそう言って、謁見の間から出ていった。
その間俺達はただただその姿を目で追うことしか出来ず、謁見の間の扉が開かれた後も暫くその場を動けないでいた。
──それが、三日前の記憶。
そして今日この日、俺達は古代遺跡の攻略に向けて足を踏み入れる。
次から遺跡攻略に移れそうです。




