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魔界から帰って来たら、世界は救われた後でした。(旧:最強って誰のことですか?)  作者: 如月
一章 魔界から帰って来たら、何もかもが変わっていました
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第八話 王都へ

 次の日、俺は宿で朝食を取った後、すぐにギルドへと向かった。辺りはまだ薄暗く、人の姿は見られない大通りを走り抜ける。


 昨日は何だかんだいって忙しい一日となってしまい、宿に帰ってこれた時には既に辺りは暗くなってしまっていた。

 それから夕食を手早く済ませて部屋に戻ると直ぐ眠りに就いたのだが、純粋に遅くに寝てしまったせいで起きるのが大分遅くなってしまいこうしてギルドへと走っているのだ。

 と、淡々と良い訳を並べ立てたが、つまりは──。


「遅刻だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ──と、言うことである。


 だって仕方無いじゃないか。

 依頼が始まれば無事王都に到着するまでずっと野宿なんだぞ!? その間まともな料理が食べられなくなったらどうしようと考えるのは、いたって普通の事ではないかと俺は思っている。

 結論からいうと、昨日の買い物で余ったお金を全てからあげにつぎ込んだということだ。そのからあげを全て出来立てほやほやのまま亜空間へと放り込み、王都までの旅の道中でもからあげを味わおうという魂胆(こんたん)なのだ。


「すみません、遅れました!!」


 (ようや)くギルドに到着し、先ず最初に頭を下げて謝る。悪いことをしたら謝るのは、何よりも先に優先して行わなければならない常識中の常識だ。


 ギルドの前には、既に見覚えのある1台の馬車とその御者さん、10頭の馬がずらりと並んでいる。

 そしてその場には以前に会ったことのある執事と騎士達、それに王女様と知らない人達が4人が集まっている。


 その集団から少し離れた場所には、知らないおっさんと昨日の受付嬢、更には何故かセト達もこの場に居合わせているのだが⋯⋯。確かにギルドには伝言を頼んではいたが、まさか見送りにでも来てくれたのか?

 ⋯⋯っていうかあのおっさん、立ちながら寝てないか?


「待ってましたよ、オルフェウスさん。今日から護衛、よろしくお願いしますね?」

「あ、はい!」


 一歩前に出て微笑(ほほえ)みながらそう言ってきた王女様に、少しだけ緊張しながらもしっかりと返事をする。

 その後で王女様の後方で静かにそれを見ていた人達に視線を向けて俺から挨拶をする。

 おそらく⋯⋯というか確実に、俺と同じように依頼を受けた冒険者の人達だろうし、先輩には後輩から挨拶をするのが基本だ。


「えっと、Fランク冒険者のオルフェウスです。これから暫く宜しくお願いします」

「ふーん? 一国の王女様の護衛にFランクがねぇ?」


 すると1人の冒険者が俺の言葉を聞いて、〝Fランク〟という部分だけを無駄に強調するようにしてそう言ってきた。

 それもそうだろう、基本的に護衛依頼を受けることが出来るのはCランク以上の冒険者であって、俺のような最近Fランクになったばかりの奴が受けることなど普通ならあり得ない。

 返す言葉もなく突っ立っていた俺に、今度はその人の(となり)に立っていたイケメンが話に入ってきた。


「こらグラン、好戦的(こうせんてき)な口調は止めろって言ってるだろ。僕は『希望の種子』のリーダーのアストだよ。で、こいつがグラン。根は悪くないから許してやってくれ」

「私はニグル。見ての通り魔法使いだ」

「アーラルだよ! 宜しくね!」

「はい、お願いします」


 アストさんがグランさんの頭を剣の鞘の部分でバシバシ(たた)いているのを完全にスルーして自己紹介してきた2人に取り敢えず返事をする俺。

 その間も横でわーわーと騒いでいる2人に苦笑いをしながら、俺はセト達の方へと向かった。


「どうしたんだお前等」

「師匠の見送りに決まってるじゃないですか」

「そっか、ありがとな」

「僕の師匠なんですから当然です!」


 なんか良いな、こういう師匠の旅立ちを弟子が見送ってくれるっていうのは。


「あんたって本当は凄い人だったのね」

「⋯⋯(コクコク)」

「いや、そうではなく、権力の猛威に俺も成す術なく屈したというか⋯⋯」


 ナディアの言葉に苦笑しながらそう返す。

 王女様とはちょっとだけ面識があるというだけでそれ以外は正真正銘(しょうしんしょうめい)の新人冒険者で間違いない。


「オルフェウス様。そろそろ出発しますが乗馬は出来ますか?」

「あ、大丈夫です。じゃあ三人ともまたな──っと、そうだ」


 執事が俺にそう声を掛けてきたので直ぐにそちらに向かおうとしたのだが、ふとあることに気付いたのでそれをしてから向かおうと思う。

 時間もないので素早く亜空間からあるものを取り出してそれをナディアとアリシアに手渡す。


「これ、魔法杖?」

「すごい高そう⋯⋯」

「セトだけ良いもの持っててもなって思って。二人とも魔法使いとしての素質はいいし、このくらいのものは近い内に必要になると思ってな。俺はもう使わないものだしやるよ」


 そう、俺が亜空間から取り出して2人に渡したのは魔法杖だ。

 魔法を使うときに魔力制御がしやすくなったり、消費魔力を減らしてくれたり、魔法の威力を大幅に増幅してくれたりするのが魔法杖だ。


 【魔界】で暮らしていたとき俺がまだ弱かったときに自作した魔法杖で、材料は確か竜の魔石と竜骨だったと思う。

 その時の俺には到底手に入れることの出来ない代物だが、どちらもギルゼルドから貰ったやつで、取り敢えず強い武器が欲しくて『武器創造』のスキルで創り出したものだ。

 あの頃の俺はまだ杖無しでの魔力操作がまるで出来なくてとても重宝(ちょうほう)していた記憶がある。

 杖に釘付けになっている2人を横目に与えられた馬にまたがる。


「では、行きましょうか」


 執事の言葉に、最前列(さいぜんれつ)に待機していた騎士達が馬を走らせ、その後ろから馬車がゆっくりと走りだし町の門へと向かっていく。そして最後尾(さいこうび)を冒険者達が着いていく形だ。

 俺も置いていかれないように馬を走らせ、馬車に着いていく。


「その、ありがとう!」

「ありがと⋯⋯」

「おう、大切に使えよ」


 漸く我に返った少女達がお礼を言ってきたので、俺は上体だけを振り向かせて手を振りながらそう返す。

 向こうも手を振ってくれたのでかなりの時間手を振り続けてしまったが、それが終わると前に向き直って手綱を握り直す。

 早朝だけあって少し冷たい微風(そよかぜ)が過ぎ去っていくのを肌で感じながら、徐々に明るくなっていく空を見上げる。


 別れという言葉が脳裏を(よぎ)り、それと同時に少しだけギルゼルドの事を思い出してしまう。


 ──今頃あいつは何をしているだろうか。


 元気でやっているだろうか、他の奴らと仲良くしているだろうか、やつあたりにエンシェントドラゴンを殴り飛ばしていないだろうか──。

 そんな不安がいくつも出てくるが、まああいつならそんな心配など必要ないだろう。馬鹿だけど何時も元気で明るいし、その性格で他の奴らとも結構仲良いし、短気ではあるがさすがにエンシェントドラゴンを殴り殺すほどには殴らない⋯⋯⋯⋯だろう。


 そんな事を考えながら、まだ見ぬ王都へと向かって馬を進める。


◆◆◆


「ふぁぁ~、さて、戻るか」


 器用に立ちながら眠っていたせいで先程から全く話に介入してこなかった男性が、王女一行を見送った後でそう声をあげた。

 それと同時に大きく欠伸をする男性に対し、隣に立っていた受付嬢が口を開く。


「ギルドマスター、あの時王女様に何かお声を掛けなくて良かったんですか?」

「俺にそんな面倒な事をやらせようとすんな。俺は黙っていた方が貴族受けがいいんだよ、口悪いから」


 ギルドマスターと呼ばれた男性が受付嬢の言葉にあからさまに嫌な顔をし、スタスタとギルドの中へと入っていってしまった。それを見送ってから受付嬢は溜め息を吐き、今度はセト達へと視線を向ける。

 するとそこには魔法杖のある一部分を3人で(のぞ)き込むようにして見ているセト達の姿があった。


「自覚してるなら直してくださいよ⋯⋯。あれ、三人ともどうしたんですか?」


 受付嬢は3人が一体何をしているのか気になり、そう声を掛ける。

 するとピクッと肩を(ふる)わせ、おそるおそるといった様子で受付嬢に振り向く3人の冒険者。彼等は同時に顔を見合せ、再び受付嬢の方へと向き直る。


「えっと、杖に書かれている文字がぐちゃぐちゃで何て書いてあるのかなーって」


 どうやらこの3人は杖に書かれている文字が読めなくてああしていたという事らしい。そこに書いてある文字というのがそれ程までに雑な字で書かれていたから、首を捻っていたということだろう。


「なら私が読んであげましょうか? 汚い字は仕事上慣れていますので」

「良いんですか?」


 受付嬢の言葉にセトがそう聞き返し、「じゃあお願いします」と言って魔法杖を一本受付嬢に差し出した。それを受け取り、早速そこに書かれている文字を読もうとするが。


 ──読めない。


「⋯⋯すみません、読めませんでした」

「そうですか⋯⋯」


 (もう)(わけ)なさそうに魔法杖を返してくる受付嬢に、残念そうにそれを受けとるセト。そしてもう一度杖に書かれている──というより彫られている文字に目を落とす。


「おい、戻って仕事を──って何やってんだ、お前等」


 と、外の様子が気になったのか、ギルドマスターがギルドから出て来てそう聞いてきた。


「ギルドマスター、これ読めますか?」


 どうしても何が彫られているのかが気になった受付嬢が、タイミング良く顔を出したギルドマスターに杖を指差しながらそう質問する。それに合わせてセトが杖を突き出してギルドマスターの顔にずいっと近付ける。


()()()()じゃねえか。俺も何が書いてあるかは知らんが、どうしたんだそれ?」

「「「古代文字!?」」」


 ギルドマスターの言葉に、息ぴったりで半ば叫ぶようにしてそれを復唱(ふくしょう)する。


「それって5()0()0()()()()使()()()()()()っていう?」

「そうだ。その頃から他種族で文字を統合しようとする動きが始まったとされているから、三百年前まではある程度使われていたそうだぞ。どうしたんだそれ?」


 そんな事を再び聞いてくるギルドマスターを無視して盛り上がる4人。

 完全に蚊帳の外にいるギルドマスターは何とか自分の質問の答えを聞こうと何度か試みるが、最後までそれを聞くことは出来なかった。

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