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第十五話 帝国での初依頼 ③

 俺が考えた作戦を伝え、早速行動に移ることにした。


「じゃあまずは私だね」


 アーラルさんが一歩踏み出しある魔法を行使する。

 すると突如として雲一つない洞窟内に小さな光の粒が降り始める。それはまさに、寒い土地で見られる雪のようだった。

 しかし当然だが、これは唯の光の粒ではない。聖属性と氷属性の魔力が圧縮されて込められた歴とした合成魔法だ。

 それが、雪のように無数に降り注いでいる。


(……流石はAランク冒険者)


 俺の無茶振りにも、こんなにそつなくこなしてくれるとは。


 この光の粒は物体に触れると溶けるように消えてなくなる。その際に内包された聖属性と氷属性の魔力が解き放たれて、その周囲を一瞬にして氷点下まで下げていく。

 それが光源となっていた炎に触れればあっという間に炎を消滅させ、壁や地面なら多量の冷気を発生させて温度を下げ、そしてタラスクに接触すれば体温を急激に低下させる。


 タラスクは高温の土地に生息する……いや、生息できない。その環境を維持させる為に身体は常に高熱を放射しており、非常に高い体温を保っている。

 そうでもしないとまともに己の身体を動かすことが叶わないのだ。

 ならば周囲の気温、自身の体温が一気に低下させたらいったいどうなるだろうか?


 答えは簡単、身体の各機能の活動が低下して〝冬眠状態になる〟だ。


「ようやく異変に気付いたようだが、もう手遅れだ」


 次に、ニグルさんが魔法を行使する。

 この空間には俺達が通ってきた洞窟以外にもいくつかのルートが存在している。恐らく、視界に映るその一つ一つが地上に続いているのだろう。

 いくら先手を打って動きを鈍くさせているといっても、完全に動けない訳ではない。となれば次にそれらの通路を塞がなければならない。


 ──瞬間、それら一つ一つに魔方陣が発現し、通路を塞ぐようにして巨大な氷の柱が生成された。


「いつもと違う魔法を使うのも、また面白いものだな」


 これで、逃げられる心配は無くなった訳だ。


「後は僕たちの仕事だね。行くよグラン」

「ああ」


 動けなくなったタラスクを見下ろしながら、アストさんとグランさんが得物を構える。


「あれは俺が対処しますから、警戒だけはしといてくださいね」

「分かってる」

「うん。なるべく近付かないようにするよ」


 それだけ言い残して二人は地を蹴り、飛び降りていった。

 動きの鈍いタラスクにあの二人が遅れを取るなんてことは考えられないし、念押しもしておいたので心配は必要ないだろう。


「二人も、魔力に余裕があったら魔法を放ってください」

「任せて!」

「うむ、今日だけで随分レベルが上がりそうだな」


 そんな事を言いながら、アーラルさんとニグルさんは次々と魔法を眼下へと放っていった。

 下では既にアストさんとグランさんが派手に暴れていて、早くも十以上のタラスクが二人の餌食となって絶命していた。


「さて、じゃあ俺も」


 後数センチ踏み出せば落ちてしまうほどギリギリの場所に立ち、腰にさした刀の柄に手を添える。

 これで準備は完了。後はあいつが出てくるのを静かに待つだけ──。


「……──ォォォオ」


(以外と早かったな)


 何処からか聞こえてくる咆哮とともに地面が揺れ、それが俺達の場所まで伝わってきた。

 同時に、タラスク達の視線が中央へと集中する。


「『マキシマム・アイスエンチャント』」


 ピキピキピキ……ッ!

 付与魔法の強すぎる威力に鞘が氷結し、周囲に多量の白い冷気を放出させる。

 その余波だけで一帯の気温が一瞬で氷点下まで下げられ、空気中に含まれていた水蒸気が凍り付いて、まるで散りばめられたダイヤモンドのように美しく輝く。


「なに……この魔力量……っ、本当に、付与魔法……!?」

「これが君の力、か」


 そんな言葉を背中で聞きながら、更に集中力を高める。

 じっとその状態で待っていると眼下の地面の中央に地割れが走り、爆発するように地割れから炎が吹き上がった。


「……っふ」


 地を蹴り、次の瞬間には身体が重力に従って落下を開始する。


「──グオオオオオオオオオオッッ!」


 着地する寸前、地割れの中から一体のタラスクが飛び出した。


「気配から分かってたけど、やっぱデカいな。──だが」


 普通のタラスクの倍以上もの体躯を持つそいつは、明らかに雰囲気も威圧感も違っていた。

 これ程の規模の巣窟となればそれを統率する存在がいるのも当然であって、棲みかを荒らされて怒らないものなどいる筈もない。

 侵入者したのは此方の方だけどな。


「────」


 着地と同時に俺は左手を抜き放った。

 剣よりも更に高く、どこまでも澄んだ金属音を響かせながら鞘から放たれた刀。

 それを発生源にして生み出された氷があらゆるものを凍てつかせ、何メートルもの氷柱を幾つも地面から発生させながら、それらが巨大なタラスクを飲み込んだ。


「……ふぅ」


 付与魔法を解除して刀を鞘に納める。

 目の前には、何体かのタラスクを呑み込んだ氷塊が壁まで続いていた。


「これが、歴史に刻まれる英雄の実力か。まったく、今まで無名だったのが信じられないよ」

「あ、あはは……、言い過ぎですよ」


 歴史に刻まれる英雄て……、俺そんな大層な奴なんかじゃないんだけどな……。


「国を救ったことが、どれだけの偉業か分かってないのか?」

「まあ、それは理解してるんですけど……、困った時はお互い様って言うじゃないですか」


 グランさんにそう言葉を返すも、今でもあまり実感が湧いてこない。

 油断して毒は食らってしまったけど、結局はほとんど一撃で勝負がついたようなものだしな。

 それに変わったことも王様達との繋がりができたくらいで、日常生活は今までと変わらないし。


「そんなご近所付き合いみたいな感覚で国が救われたら、堪ったものじゃないね」

「うっ」


 背後から聞こえてきたニグルさんの声に、思わず呻き声を上げてしまう。


「こ、言葉の綾ですよ。……それより、これで依頼達成ですね!」

「あー! 話逸らしたー!」


 何やらアーラルさんが非常に不本意なことを言っているが無視だ。


「本来は七~十体ほどの群れを討伐って内容だったから、余裕で依頼達成の筈だよ」

「情報に大きな誤りがあることを考えると、かなりの特別報酬も期待できそうだな」

「というか、特別報酬の方が期待できそうだよね~」

「久し振りに剣でも新調しようかな?」

「あっ、それ良いね! ま、グランはいつも通りの気がするけど」

「はあ?」


 ……気付いた時には、アストさん、グランさん、アーラルさんの三人で早くも特別報酬の使い道を話し合っているようだった。

 一人参加していないニグルさんは俺の隣で溜め息を吐いている。


「……取り敢えず俺、素材の回収に行ってきますね」

「ああ、済まないなオルフェウス君、私も手伝おう」

「助かります」


 そうして、俺達は三人から離れ素材の回収へと向かった。

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