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第十五話 帝国での初依頼 ②

 それから暫く、取り敢えずアストさんがグランさんに殴られた。

 以前と変わらない、やはりこれがこのパーティーの日常で、普通なのだろう。


「そろそろです」


 俺がそう言うと、一瞬でその場の空気が変化する。戦い慣れしているからこそ、一瞬という刹那の時間だけで集中状態に入れるのだ。

 これが出来ない者がパーティーに一人でもいれば、それだけで全体の生存率に影響を及ぼしてくる。

 だからこそ、このパーティーは素晴らしいといえる。


「……光だ」


 先頭を歩いていたアストさんが、視線の先にある光を捉えた。

 他のメンバーもすぐに光に気付き、それぞれの得物に手を這わせる。


「アーラルとニグル、グランはここで待機。僕とオルフェウス君で見てくる」

「「「「「了解」」」」」


 全員が揃って返事をし、俺はアストさんと頷き合って洞窟の先へと向かう。

 なるべく気取られないように音を立てずに、しかし迅速に奥へと進んでいく。

 そして直ぐ様左右に別れて壁に身を潜め、目配せをしてからゆっくりとその先を覗く。


「……ッ!」


 アストさんが息を呑む音が聞こえた。

 だがそれも仕方のないことだろう。Aランク冒険者でさえ息を呑んでしまう程の光景が視界に広がっていたとなれば。


「……最低でも百はいそうだな」


 視界に広がるのは、洞窟内にぽっかりと空いたとてつもなく広い空間で、この洞窟はその岩壁に空いているようだった。

 そして眼下20メートルほど先には、優に百を超える危険度Aの魔物──タラスクの巣窟があった。

 これ程の規模になるまで、どうしてただの一人も気が付かなかったんだと、若干呆れの混じった疑問が浮かんでくる。

 だが今は、そんな事に割いている時間はない。


「あれは、一つのパーティーでどうこうできる数じゃない」


 ──待機していた四人のもとへ戻ってから、開口一番にアストさんがそう言った。


「……お前にしてはやけに真剣だに」

「今回に限っては冷静になるのも仕方無いさ」

「そんなにか」


 先程までは自分と同じで乗り気だったアストさんが意見を変えたことに、只事ではないと察したグランさん。


「あの先に今回のターゲットであるタラスクがいたんだけど、百は軽く超えていた」

「それって、依頼書に書かれた数の十倍以上じゃん! そんなの相手に私たちだけで勝てる訳ない……!」

「明らかに逸脱した数字だな。確かにそれは、我々の手に余る規模だ」


 アーラルさんもニグルさんも、その規模に驚いたようだった。

 まあ、危険度Aの魔物が百体以上となればそれも必然のように思えるが。


「じゃあ、ここまで来て帰るってのか?」

「そうだね……」


 少し悩むような素振りを見せたアストさんが、何故か俺の方へと視線を向けてきた。

 いや、それだけでなくグランさんもアーラルさんも、ニグルさんまでもが、何故か期待の眼差しのようなものを向けてきていた。


「…………お、俺ですか?」

「オルフェウス君なら、何とか出来るんじゃないかと思って」


 ……なんという無茶振り。

 けど正直、魔道具の力であらゆる能力が一パーセントに制限されているが、()()()()なら一人で片付けることは可能だ。

 だからといってそんな事をしてしまえば、常識を逸脱した力が知られることになるし、そうなれば怪しまれてしまうのは避けられない。

 だからこそ、この場合は誤魔化すしかない。


「いやいや、そんな事言われても……」

「ふふっ、随分と謙虚なんだね。()()()()()()──『()()()()()』ともあろう者が」

「──ッッッッ!!!?!?!!??!?」


 思わぬ言葉が飛び出してきて、俺は不覚にも動揺してしまった。


(どうして、どうしてバレてる……!?)


「その反応、やっぱり君だったんだね」


(カマをかけられた……? ……いや、最初から確信していたのか)


 まんまとしてやられたことを悟った俺は、その場にガクリと膝をつき、地に両手をついた。


「……死にたい」


 あんなのやった時点でかなり恥ずかしかったのに、それを見られただけなら兎も角、正体までがバレていたとは……っ!

 いや、まじで羞恥心です死にそう。


「というか、多分君とよくいる三人も気付いていると思うよ?」

「…………ま、マジですか……!?」

「うん、だって、同じローブ身に付けてたら……ね?」


 ……そういえば、そう……だったかも。しかも今も着てるし。

 これ変えてたらバレなかったのか? 何か、考えたら腹が立ってきたな……!


「皆さんも……?」

「うん、最初から気付いてたよ~」

「まあな」

「黙ってて済まなかった、オルフェウス君」


 ……まあ、アストさんが知っていれば、他のメンバーも知っているのも当然……か。

 こうなってしまったら、もう誤魔化しも必要ないだろう。

 『蒼炎の剣士』の正体が噂されていないところを考えると、アストさん達はそれを秘匿してくれているようだし。バレたのがこの人達で良かった。


「はぁ……、そうですよ、俺が『蒼炎の剣士』です。で、どうにか出来るか、でしたっけ」

「うん」


 こうなったら『コフィンリング』を外して腹いせとして一瞬で終わらせるのも良いかもしれない。

 ……けど、折角パーティーで来ているんだからそんなつまらないことはしたくない。


「出来ますよ。……でも、皆さんにも手伝ってもらいますからね」

「それは勿論」

「どーんと任せてね!」

「了解した」

「……当たり前だろ」


 よし、なら早速やってみようか。

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