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第十四話 帝国での初依頼 ①

遅くて本当にごめんなさい。ちょっと出掛ける用事があって……!

「ここだね」


 先頭を歩いていたアストさんが、智頭を片手に立ち止まる。

 目の前に広がるのは、どこまでもゴツゴツとした岩肌の岩山。

 そして、そんな岩肌にぽっかりと空いた大きな洞窟の入り口の前に俺達は立っていた。


「にしても、運が良かったね。日帰りでこれる場所にSランク依頼があるなんて」

「ああ、まったくだ」


 とてもやる気のあるアストさんとグランさん。


「……Sランク依頼の後に遺跡攻略って、なんか凄いハードスケジュールな気が……」


 普通、高ランクの依頼を立て続けにやるか? しかも自分のランク以上の依頼を。

 いや普通はしない。

 だって怠いし面倒臭いし、場所が遠ければ移動もしなくちゃいけないし、そんなに真面目に働きたくないし、怠いし。

 ……俺の個人的な意見でしかないけど。


「あはは、しょうがないよ、向こうが張り切っちゃってるから」

「いつも受注する依頼を決めるのも、決まってあの二人だからな」


 アーラルさんとニグルさんが、励ますように声を掛けてくれる。

 まあパーティーなどそれぞれだし、このパーティーではこれが普通ということだろう。


「さあ、行こうか。ここからは十分気を引き締めていこう」

「ああ、そうだな、アストとグランは特に」

「「何ぃ!?」」


 そんなこんなで、遂に俺達は洞窟へと足を踏み入れた。


 ──それから暫く洞窟の中を進み、外の光が完全に届かなくなった頃。アーラルさんの光魔法によって光球を作り出して、周囲を照らし探索を続けていた。

 変わったことといえば、入り口は小さなものだったが、今ではとても広く穴が空いていることくらいだろうか。

 しかし、不思議なことに分かれ道などは見当たらない。


「かなり奥まで進んだはずだけど、まだまだ続きそうだね」

「だが、この洞窟で間違いないのだろう?」

「うん、ギルドからもらった地図も何度も確かめたし、周囲に他の洞窟は見当たらなかったから、ここで合ってるはずなんだけど……」


 ニグルさんとアストさんがそんな会話をしているさなか、俺はある異変に気づいた。

 そして、展開していた気配察知に反応を得ることができた。


「止まってください」

「どうしたんだい? オルフェウス君」

「何か気付いた事でもあるのか?」


 俺は首を縦に振り、それらの質問に肯定の意を示す。


「洞窟を進んでいるにもかかわらず、気温が下がっていません。むしろ、高くなっているような気がします」

「……確かに、言われてみればそうかもしれないね」

「うむ、普通の洞窟なら進めば気温は下がるはずだ。気温が下がらない時点で、この洞窟は他のものと違うということだな」


 日光が届かず、土や岩石で構成されていて、風が殆ど吹かない洞窟の中では、進めば気温がかなり下がる筈なのだ。

 にも拘わらずこの洞窟は、進めば進むほど気温が上昇傾向にある。

 この土地が寒地というのなら兎も角、温暖な土地でこのような現象が起こるのは異常だ。


「はい。それと、この先に大きく開いた空間があります。魔物の気配も」

「……なるほど、魔物と距離が近くなるにつれて、洞窟内の気温が上昇しているという訳か」

「つまり、この先にいる魔物から熱が発生しているか、火魔法を使う魔物かのどちらかってことだね」

「それかどっちもの可能性だな」


 やはり高ランクの冒険者とあって、理解が早い。


「まあ、今回の依頼を考えれば両方だな」

「そうだね。耐熱の魔法なら僕たちの装備にもう付与されてるし、後は対抗手段だね」


 言いながら、アストさんは此方へと視線を向ける。


「オルフェウス君、頼めるかな?」

「任せてください」


 そう言って、俺はアストさん達の武器に付与魔法によって氷属性付与を行った。

 するとそれぞれの武器から冷気が放たれるようになり、発生した結論があっという間に氷結する。


「ニグルさんは火魔法の使い手なので、かなり強く付与をしておきました」

「そうすると、どうなるんだい?」

「一時的に氷魔法が使えるようになります」


 そう答えるとニグルさんの目が見開かれた。

 まあ、火属性を対をなす氷属性で塗り潰すほどの付与なんてそうそうしないし、それを可能にするだけの使い手など滅多にいないしな。


「本当に君は凄いな……」

「これまでとは少し勝手が違うと思うので、気を付けてくださいね」

「肝に銘じておこう」


 そして、最後の付与をしようと振り向くと、そこには不機嫌そうなグランさんが立っていた。

 以前付与を行った時の経験があるからか、とても嫌そうな顔をしている。

 だけど今回はしっかり対策を考えてあるし、グランさんも納得してくれるだろう。


「安心してくださいグランさん、今回は大丈夫──」

「何が、大丈夫だと、言うんだ?」


 ……おおう、かなりトラウマになってるっぽいな。


「と、取り敢えず見ててください」


 詰め寄ってきたグランさんから逃れるように後退した俺は、亜空間からあるものを取り出す。


「それは……ミスリル?」


 特徴的な白銀色の光を反射させる鉱石を見て、アストさんが呟く。

 アストさんの予想通りこれはミスリルだ。一般的な鉱石と比べ価値が高く、高ランクの冒険者になれば、これを使った武器を持っている者も出てくる。

 ミスリルだけでなく、【魔界】にいた時に入手したものが大量に亜空間の中に仕舞い込んであるので、渋る気はない。


(グランさんが使うものだから、やっぱりナックルとかだよな)


 そんな事を考えつつ、ミスリルを持つ手に魔力を集中させて、『武器創造』のスキルを発動させる。

 するとミスリルが突如として発生した光に包み込まれ、光の中でその形状を変化させていく。


「「「「「……っ!」」」」」


 アストさん達がその現象に驚き、思わず息を詰まらせる。


(そういえば、アストさん達には見るの初めてだったな)


 等と思いつつ、俺は出来上がった一組のナックルに氷属性の付与を施し、グランさん専用の武器が完成した。


「い、今のって……?」

「俺の『武器創造」ってスキルです」


 四人の疑問を代弁して訊いてきたアーラルさんに俺は答える。


「それってつまり、自分で武器を創れるってことかい……!?」

「はい」

「……ズルくない?」


 全くもってその通りだと俺も思います。

 心の中でアストさんに同意しながら、俺はグランさんへと振り向く。


「グランさん、早速これを装備してみてくれませんか?」

「……良いのか?」

「それは勿論、グランさんの為に創ったんですから」


 そう言って笑顔を向けると、恐る恐るグランさんがナックルを手に取り、それを両手にはめた。


「大きさとか大丈夫ですか?」

「……ああ、ピッタリだ」


 手を開いたり閉じたりして感触を確かめていたグランさんが、先程までの不機嫌さが嘘のように満足そうに言った。

 サイズが合っていたことと、グランさんの期限が直ったことの二つの意味で安堵する。


「これ、貰って良いのか……?」

「その為に創ったんですから当然です。そういえば、グランさんがナックルを装備している姿は見たことないんですが、もしかして持っていないんですか?」


 グランさんの機嫌が良い隙に、今まで気になっていたことを訊いてみた。


 武闘家などの職業は素手での戦闘に特化しているが、それでもナックルなどの攻撃威力を上げる装備を身に付ける者が多い。

 その方が魔物を直接攻撃する訳ではないので、衝撃も少なく、痛みも軽減される。それに魔物の体液で汚れたりすることもない。

 そんな良いこと尽くめだというのに、グランさんが持っているところを見たことがない。


「ああ? ……別に、気に入るもんが無かっただけだよ」

「そうなんですか」


 何か深い意味があると思っていたけど、そんな事はなかったらしい。

 と、隣でアストさんが笑いを堪えている姿が目に映った。

 この表情、どこか見覚えがある。そう、グランさんに要らない言葉をかける時とか……。


「っく、くくっ、あはははは!」

「アスト、何が可笑しい」


 遂に声を出して笑いだしたアストさんに、グランさんが睨み付ける。


「いやぁ、可笑しいってことは無いんだけどさ。でもグラン、オルフェウス君には正直に言ったらどうだい? 『自分の分け前のほとんどを孤児院に寄付している』って」

「なっ!? アスト! いつからそれを!?」


 俺がアストさんが言った衝撃の事実に驚いて言葉も出せないでいる中、グランさんがアストさんの襟首を掴み凄い勢いで迫っていた。

 すると横からひょっこりと顔を出したアーラルさんが口を開く。


「グランの金遣いが荒いから、この前みんなでグランのことつけてたんだよ~」


 そして今度はニグルさんが。


「うむ、そうしたらなんとビックリ、グランが孤児院に入っていくではないか。そして出てくる頃には、手に持っていたあるものが消えていたと」


 ふとグランさんへと視線を移すと、その顔が絶望の色に染まっていた。

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