第十三話 帝都グラレア
更新が遅くてすみません。
「これで行くんですか?」
「うん、そうだよ」
ニコニコと笑顔を向けてくるアストさんの顔から、俺は再び視線を前へと戻す。
目の前には一台の荷馬車があり、当然のことながら、人の代わりにそれを引っ張っていく生物が荷馬車に繋がれている。
大抵そこには、広く普及している馬が繋げられているのだが、今回は馬ではなかった。
「もしかして、竜車に乗るのは初めて?」
「はい」
そう、目の前にあるのは普通の馬車ではなく──竜車。
見るだけなら何度かあるけど、実際に使ってみるのはこれが初めてになる。
「力が強くて、馬と違って二足で走る分それなりに揺れるけど、速さは馬より遥かに速いからね。冒険者や商人が国を跨ぐ時は、だいたい竜車を使うんだよ」
「へぇ、そうなんですか」
そんな会話をしていると、後ろから足音が近づいてきた。
「おーい、オルフェウスくーん!」
「また君と依頼を受けることができて嬉しいよ」
そこにいたのは、『希望の種子』のメンバーである魔法使いの二人。
「アーラルさん、ニグルさん、今回はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくねっ!」
「ああ、よろしく」
こうして、やや遅れて合流した二人と、既に竜車の中で居眠りしているグランさんを含めて全員が揃った。
そして御者台にて手綱を握ったアストさんによって、俺達が乗り込んだ竜車は王都オルストをあとにした。
◆◆◆
あれからというもの、しばしば遭遇する下級の魔物の撃退をしつつ、約三週間の竜車での移動を経た俺達は、遂に目的の都市へと到着した。
頑丈な防壁によって囲まれた都市の中へと進んでいくと、視界いっぱいに活気づいた町の様子が映し出される。
その活気は、大陸一の大国と呼ばれるリーアスト王国の王都と引けを取らないレベルだ。
中でも無意識に視線が向かってしまうのは、あらゆる建物を突き抜けて存在を主張してくる立派な城。
「ここが、フレイド帝国の帝都──グラレア」
──フレイド帝国。
リーアスト王国も含まれている〝三大国〟の一つに数えられており、大陸でも有数の、地位ではなく実力を強く優先している国。
俺もあまり詳しくは知らないが、世界に二人しかいないSSランク冒険者の一人が所属している国らしい。
「お待たせオルフェウス君。竜車は預けてきたから、早速ギルドに向かおう」
「はい」
竜車を預けに行っていたアストさんが戻ってきたので、俺達は帝都のギルドへと足を進めた。
「帝都も懐かしいなー」
その道中、アーラルさんが周囲を見渡しながらそんな事を呟いた。
「アーラルさんは以前、帝国に来たことがあるんですか?」
「来たことがあるというより、ここは私の故郷なんだよー」
俺の質問に、アーラルさんがそう答えた。
にしても、アーラルさんって帝国の出身だったのか。リーアスト王国で冒険者してるから、てっきり出身も王国なのかと思っていたが。
「そうだったんですか」
「うん、成人してリーアスト王国で冒険者になってからは、まんまり来れてなかったから、久し振りに里帰りができて嬉しい」
「じゃあアストさん達と出会ったのも?」
「そ、リーアスト王国だよ」
そんな話をしていると、遂に帝都のギルドへと到着した。
「……どこに行っても、ギルドの外見は変わらないんですね」
今まで訪れたギルドと全く同じ造りをしている帝都の冒険者ギルドを見上げて、俺は呟く。
どこに行っても見慣れた建物があるのは少しばかり不気味だな。
「ははは、まあこっちの方が分かりやすくて良いじゃないか」
扉を開けて中へと入ると、やはり帝国の帝都とあって、ギルドの中はとても賑わっていた。
リーアスト王国の王都のギルドに負けず劣らずの盛況を見せている冒険者達を横目で眺めつつ、俺達は真っ直ぐ受付へと向かう。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。恐れながら冒険者とお見受けしますが、本日はどのようなご用件でしょうか?」
(なんか……新鮮!)
丁寧な言葉遣いをする受付嬢に、そんな印象を受けた。
今までにもいろいろな受付嬢と話す機会があったけど、その殆どと少し砕けた言葉で話していた。
なので、こうして丁寧な対応をされるのはとても久し振りだ。
「ああ、依頼を受けに来たんだ」
言いながらアストさんは、懐からある紙を取り出しそれを受付嬢へと渡した。
恐らく、依頼を受注したことを証明する書類か何かだろう。
「……なるほど、古代遺跡の件を受注した方々でしたか。では、本人確認を兼ねて、ギルドカードの提出をお願いします」
それぞれ、順番にギルドカードを提出していき、最後に俺がギルドカードを受付嬢に渡す。
「Aランク冒険者のオルフェウスさんですね。職業は魔法剣士、そして従魔が…………エルダー、スライム?」
「はい」
俺の返事に合わせて、ローブの中に隠れていたスライムがひょっこりと顔……なのかどうかは分からないが、姿を現す。
以前の従魔登録をした際の経験を踏まえて、普段は俺のローブの中に隠れてもらうことにしたのだ。
「スライムを従魔にした人など初めて見たもので、申し訳ありません」
丁寧なお辞儀をしながらら謝ってくる受付嬢。
「しかし、危険度Aのエルダースライムを従魔にするとは……、恐れ入ります。もしかして、魔法剣士ではなくテイマー……いえ、何でもありません」
「気にしないでください。俺は歴とした魔法剣士ですよ」
冒険者の情報を聞こうとするのはルール違反という暗黙の了解が存在しており、咄嗟に思い出したのだろう。
まあ、テイマーではと思われるのも仕方ないとは思うが。
「では、ギルドカードをお返しします。それでは、依頼の詳しい説明を……といきたい所ですが、受注した冒険者の数がとても多いので、後日、王城で依頼主から直接説明されるそうです」
「そうですか、分かりました」
……まあ確かに、王族が大規模遠征を計画しているとなれば、その規模はかなりのものだろう。
それにパーティーずつに説明をしていればそれだけで日が暮れそうだしな。
(それにしても、依頼主から直接とはな)
要するに、王族から直接説明を受けるということ。
荒くれ者の集まりである冒険者を相手に王族からの説明など、本来であればあり得ないことこの上ない。
それだけこの依頼が重要なものだということを表しているのだろう。
「それでは、他に何かご用件はありますか?」
依頼の件の話が終わり、受付嬢が再び丁寧な口調でそう尋ねてくる。
その言葉を聞いて、少し悩むような素振りを見せてからアストさんは口を開いた。
「なら──」




