第十一話 再会
短めです。
「さっきはありがとうございました」
「……別に、俺が気に食わなかったからやっただけだ」
そっぽを向きながら言うグランさんの隣を歩きながら、俺は少し笑ってしまった。
やっぱり、グランさんは不器用なだけでとても優しい人だ。
「それにしても、グランさんって有名人なんですね」
「はぁ?」
「ほら、廻りの人が皆グランさんを見てますし」
そう言って、俺は周囲に視線を向かわせる。
冒険者は勿論のこと、老人から子供まで、果てには衛兵さん達までもが、グランさんを見るや立ち止まっている。
「お前、何言ってんだ? 注目されてるのはお前の頭の上にいるスライムだろーが」
「えっ、スライム?」
もう一度周囲を見回してみると、確かに、人々の視線はグランさんではなく、俺の頭の上に集中しているようにも思える。
加えて、幼い女の子が小さな指を此方に向けて「かわいいー」という声も聞こえてきた。
……確かにグランさんに可愛いと言うとは思えないので、スライムを指して言ったのだろう。
「従魔を連れてる奴なんて王都でも滅多にいねえからな、物珍しいんだろ」
「そういうものですか。……ところでグランさん、いったい何処に向かっているんですか? 話があるって言ってましたけど」
俺がグランさんと共に行動している理由。それは、ギルドで会ったグランさんから「お前に頼みたいことがある」と言われたからだ。
流石に内容も聞かずにその場で即了承する訳にはいかなかったが、絡まれたところを助けてもらった恩もあるので、話だけでも聞くことにしたのだ。
そして、場所を変えると言ってギルドをあとにしてから早十数分は経つのだが、いまだに歩き続けている。
そんな時、グランさんがはたと立ち止まった。
「もう着いた」
グランさんが立ち止まった場所は、立派な建物の前だった。
「此処は……?」
「俺達の拠点だ。着いてこい」
端的に答えたグランさんは、そのまま建物の中へ向かっていく。
慌てて小走りで着いていき建物の中へと入っていった俺は、思わず「おお」と小さく声を上げてしまった。
「此処がグランさんのパーティーの拠点なんですか」
扉の先は広いエントランスになっていて、さながら何処かの貴族の豪邸のように思える。
こんな立派な豪邸に住めるなんて、Aランクのパーティーって儲かるんだな……。いや、俺もAランクの冒険者なんだから、もしかしたらこんな豪邸に住めたりするのか……?
ずっと宿屋暮らしだったけど、家を買うのも良いかもしれない。
まあ、一人で住むとなると、拠点を作っても逆に虚しいだけかもしれないけど。
「──あれ、もう帰って来たのかいグラン」
奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「アストさん、お久し振りです」
「ああ! オルフェウス君、久し振りだね!」
俺を発見すると足早に近付いてきて、手を取ってくるアストさん。
「また会えて嬉しいよ、それにしても、どうして此処に?」
「ギルドでグランさんとばったり会って、頼みたいことがある……って」
「……ああ、そういう事か」
俺の手を解放しながら、アストさんは納得したように頷いた。
しかし、俺はまだ何も話を聞かされていないので、小首を傾げることしかできなかった。
「グラン、まさかとは思うけど、無理やり連れてきてないだろうね」
「ああ? してねぇよ」
「本当かい? なら良いんだけど」
そんな一連のやりとりは何処か見覚えがあるものだったので、やっぱり二人は仲が良いな……と、思わず笑ってしまった。
「そういえば、君の頭の上に乗っているスライムは、君の従魔なのかい?」
「はい」
「へえ、可愛いね。うちのグランとは大違いだ」
ふざけたように言うアストさんを、グランさんが横から鋭い目で睨み付け、今にも殴り掛かってきそうな勢いだ。しかしアストさんは、それを意に介さずにニコニコとしている。
俺の頭に乗っているスライムはというと、そんな事などお構いなしにぐでーっと自由気ままに寛いでいるのみ。
「……っと、そろそろ本題に入らないとね。オルフェウス君、僕に着いてきてくれ」
寸劇を終えたアストさんがそう言って、俺を応接室へと案内してくれた。




