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ハヤトのアフリカ資源探査2

前回の投稿は間違えて夕方にしてしまいました。

今回もすこし変則です。

 ハヤトの一行は午後2時からモザンビークの大統領府で、大統領に表敬訪問が予定されている。

 インタビューの後、ハヤトの一行はモザンビークの日本大使館の大使以下4人と協議を兼ねて軽く食事をした後、大統領府に向かった。

 日本大使館のローカルスタッフに案内されて大統領府の建物に入り、エレベーターで最上階の8階の大統領執務室に入る。当然、建物内の人々や大統領執務室で待っていた人々は皆黒人であり、肌が黒光りしている。

 扉の前に着き、ノックに出てきた中年の女性の秘書に導かれて秘書室を抜けて執務室に入ると、待っていた机に座った一人とソファに座っていた5人が立ち上がる。日本側の隊列はハヤトを先頭にしており、次いで錦村モザンビーク大使、さらに外務省本庁の山口アフリカ課長が続く。

 

 まずハヤトが執務机の前に出てきた大統領フィリップ・シサノに挨拶して、差し出す手を握り挨拶の言葉を述べる。

「今日はお招きいただきありがとうございます。良い資源が見つかるといいと思っています」


「ようこそ、ハヤトさん。私もあなたの本を読みました。我が国の国民はあなたを大変期待して待っておりました。よろしくお願いします」大統領は満面の笑みである。


 他の人々は首相と副首相、資源開発大臣、内務大臣、外務大臣であったが、ハヤトを始め一行それぞれが互いに握手して隣の会議室に入る。

 席についてから日本大使が挨拶し、次に外務省の山口アフリカ課長が挨拶、さらにJOGMCのエンジニアがスケジュールを説明する。


 それに対し、資源開発大臣のサミュエル・マキナが太って幅広の顔をゆがめながら、横柄に言う。「今回の資源探査は有難いが、先ほどのテレビ放送で行っていたような、情報を外に説明するようなことは止めて欲しい。それと、調査の結果は我が国の重要な機密情報なので全てこちらに渡すように。コピーを取ってはならん」

 それに対して、日本側は顔を見合わせているが、ハヤトが平然と言い返す。


「ほお、面白いことは言いますね。どういう訳でそういうことを要求するか教えて欲しいね」


「なにを無礼な!当然だ。我が国の情報は我が国のものだ。日本には自治区という特典を与えているだろう」マキナが激しく言うが、ハヤトは動ぜず、大統領の顔を見て言う。

「大統領、この人はこのようなことを言っていますが、これはモザンビーク共和国の国としての公式の要求ですか?」


 シサノは慌てて言う。「い、いや。正式ということではなく、しかし、資源開発についてはマキナの権限の……」


 ハヤトは冷たい顔をして言い放つ。「じゃあ、帰りましょう。資源探査は止めです。あなたの国の秘密に触ったら申し訳ないですからね。どうせデータを手にいれてどこかの会社に売りつけて自分の懐に入れるつもりでしょう。マキナさん?」ハヤトは立ち上がり、太った大臣を見下ろしながら言う。


「ぶ、無礼な!若造が!」マキナは醜く顔をゆがめて立ち上がるが、ハヤトがその目を見つめて静かに言う。


「私が調査した場合、資源の情報はすぐさま公開します。あなたの国が、国としてしっかりしていれば、何ら不都合なことはないでしょう。公開する理由の一つは、あなたのような人が裏でおかしな取引をしないようにというのも理由です」


 そう言いながらハヤトも相手に怒りが湧いて来たため、自然とそれが相手への威圧になり、マキナはそれを受けて顔色が青黒くなって震え始める。

「シサノ大統領。直接の担当がこのマキナ大臣であれば、私は探査を止めて帰ります。言っておきますが、これらの探査については私には拒否権がありますからね。そうですよね。アフリカ課長の山口さん?」


 外務省の山口課長は、ハヤトの言葉に応じてきっぱり言う。

「そうです。資源探査ができるのは地球上にハヤト氏一人です。当然彼には拒否権があります」


 その言葉に続けて、ハヤトがさらに言う。「無論、帰るにあたってはマスコミにマキナ氏の言ったこと、なぜ私が探査をせずに帰るかをちゃんと説明します。それから、錦村大使、ジンバブエとマラウイのこちらに来ている要人に連絡をとってください。『明後日ハラレで協議する。かれらについては私の乗ってきた“しらとり01号”で運びます』と言ってください」


「待って、待ってください。マキナは罷免します。どうか、どうか、探査はお願いします」

 大統領が青くなって、必死に頭を下げてハヤトにすがるが、マキナが頭を振って威圧を跳ねのけながら必死に言い返す。


「な、なに!俺を罷免するだと!」


「き、君は国の利益を著しく損なった。当然罷免だ。我が国の国民は、貧しさから抜け出す大きな手段としてハヤト氏の資源探査を待っていた。ハヤト氏から、担当を拒否されたお前の罷免に、お前の支持母体も文句は言えん!」

 大統領は、最初はつっかえていたがだんだん自信を持ってきて最後はきっぱり言った。


 マキナは、さらに言い返そうとしたが、首相などが口々に大声で現地語で非難するのを聞いて、形勢不利なのを悟り、思い直して怒りながらも外に出て行った。


「いやあ、お見苦しいところをお見せしました。マキナの言ったことは我が国の方針ではありません。彼の罷免は直ちに発表します。ただ、彼の率いているグループは血の気の多いものが多いものですから、お泊りのホテルまで護衛をつけさせますので少しお待ちください」

 シサノ大統領が丁重に弁明し、指示を受けた内務大臣が携帯で慌ただしく連絡をとっている。


 ハヤトが日本側一行に小声の日本語で言う。「ちょっと面白い幕間劇ですね」


「うーん、面白いねえ。でもあのマキナ大臣はとかくの噂がありましたが、最大の野党勢力のボスだったので手が付けられなかったのですよ。しかし、かれが失脚してくれれば、日本自治区プロジェクトはやりやすくなります。ただ、大統領の言うようにマキナの派閥は、武装グループを動かせるのでその点は心配です」ハヤトの言葉に錦村大使が解説する。


 その後、ハヤト一行は装甲車2台と武装した兵を乗せた3台のトラックに護送されて、予約していたインぺリアルホテルに到着した。ホテルは3m以上の塀に囲まれたもので、なかなか厳重な警備体制であるが、その上に一緒に来た装甲車は玄関脇に外を向いて止まり、兵の30人ほどはそのまま機関銃を携えて警備につく。

 兵の表情を見ると真剣であり、実際に起こりうる何かに備えているのがわかる。


 ホテルのロビーに着いて落ち着いた大使が言う。

「ちょっと今日は危ないかも知れませんね。しかし、このホテルは過去たびたび市街戦が行われた時代に作られたもので、守りはそれなりに堅固です。あのように警備もついていますので、大使館にこもるのと大差はないと思います。私どもも一緒に泊まります」


 平気な顔をしているハヤトに比べ、他の者はこのような状況に慣れておらず、緊張しきった顔をしている。

「大丈夫ですよ。こんな状況は私が異世界で魔族の国に入り込んだ時に比べれば、何ということはありません。任せてください」


 ハヤトが言うが、外務省の本庁の課長である山口が苦笑しながら言う。

「私たちなど、ハヤトさんの重要性に比べるとゼロに等しいのですよ。その我々がハヤトさんに守ってもらうなどということはまさに本末転倒です」


 それから錦村大使に向き直って言う。「錦村大使、何か大使館で打つ手はありませんか?」


 大使はそれに頷いて応じる。「はい、そう思いまして、ローカルの館員の伝手で、近郊の自警団のものが数人来ることになることになっています」


 それから間もなく、ローカルスタッフがロビーに座っている皆の所に30台半ばに見える1人の逞しい男を連れてきた。身長は190㎝以上あるだろう。たくましく筋肉がついているが、細身でいかにも俊敏そうだ。

「シンバ・カミャロです。近郊の村の最大の自警団の団長です。荒事には慣れていますので、頼りになります」


 シンバというのはライオンという意味で、人々がカマナにつけた称号であるなどと、その黒人のローカルスタッフは説明する。しかし、カマナの視線はハヤトにくぎ付けであり、たどたどしく英語でハヤトに話しかける。

「おれはあんたほど強そうな人に会ったことがない。挨拶をさせてくれ。おれ、カミャロ」

 そう言って差し出す手をハヤトも立ち上がって握って、ゆっくり英語で言う。


「ハヤトだ。おれは大丈夫だが、この人たちを守ってくれ。お前の仲間は外か?」


 カミャロは、ハヤトの手を強く握って嬉しそうに、たどたどしく答える。


「そうだ、10人連れて来たが、武器を持っては入れないので外で待たしている」


 ハヤトが手を放しながら再度尋ねる。「ふむ、どうだ、マキナ大臣の派閥の連中は集まってきているか?」今度は英語に自信がないのか、カミャロは大使館のローカルスタッフに現地語で何やら説明し、それが英語に通訳される


「ええ、動員がかかっています。多分数千人は来るでしょうが、国軍にも動員が命じられているので、暴れるなという指示が出ているようです」通訳が終わった合図に、ローカルスタッフが頷くと、さらにカミャロが何やら言い再度通訳される。


「しかし、ひょっとすると、ヤフワ・ジェジャートが来るという話があります。彼はめったに出てこないのですが、ハヤトさんには大変興味を持っているようですから」


「なんだ、そのヤフワ・ジェジャートというのは?」

 ハヤトが聞くとそのローカルスタッフが自ら答える。


「ヤフワは神という意味で、神のジェジャートという名で呼ばれている戦士です。まだ若いのですが、少なくとも国内では如何なる戦いにも負けたことのないことは確かで、とりわけ、毎年ある国内の闘技大会には3年連続で圧倒的な強さで優勝しています。

 2年前に元ボクシングの世界チャンピオンというものがこの国にも来て興行をしたのです。そこで飛び入りを募ったのですが、それに応えたヤフワ・ジェジャートによって、ものの数秒もしない内にパンチ一発で、その元チャンピオンは沈みました。そのように強い割に立派な人柄ということで大変尊敬されており、マキナ大臣も全く彼には頭が上がらないようです」


「ほう、面白いな。それは戦ってみたいものだ。身体強化を使うと不公平なので、無しでやってみたい」ハヤトは嬉しそうに言うと、カミャロが食いついて聞く。


「おお、ハヤトはヤフワ・ジェジャートと戦ってみたいか?」


「ああ、戦えたら面白いと思う。おれも少し歯ごたえがあるものと戦ってみたい。しかし、命のやり取りは無しでな。それほどの男を殺すのは惜しい」ハヤトがそう言ったちょうどその時、外から何やら大勢の声が聞こえる。


「おい、あれは、『ヤフワ・ジェジャート』と言っているのじゃないか?」ハヤトが聞くとローカルスタッフが答える。

「ええ、そうです。彼が来たのです」


 ハヤトがカミャロを向いて聞く。「シンバ・カミャロ、話をつけられるか? 武器無し、上半身裸、裸足で戦う。おれは身体強化をしない。気絶するか、参ったをしたら負けだ」


 ローカルスタッフが、カミャロに通訳すると彼は胸を叩いて現地語で言う。翻訳した結果はこう言っていたらしい。

「おお、彼も俺を知っている。話はつくぞ。彼もそれが望みで来ているはずだ。彼はハヤトの本を読んでいて、ハヤトと戦ってみたいと言っていたそうだ」


「では頼む。おれは15分後に出て行く」ハヤトが言ってカミャロが出て行く。


「ハヤトさん。ちょっとそれは困ります。万が一あなたに何かあったら、私どもの立場がありません」日本語で山口課長がハヤトに懇願するが、その内容を察したローカルスタッフが言う。


「心配ありません。ヤフワ・ジェジャートは今まで素手の戦いで相手を殺したことはありません。刀を持っての戦いでは、1人で10人以上を殺したことはありますが。それに、勝っても負けてもハヤトさんが勇敢に戦えば悪いようにはなりません」それを聞いて、ハヤトは日本語で言う。


「山口課長、錦村大使、わがままを言って申し訳ありませんが、正直に言って俺は今わくわくしています。どんな結果になっても俺の責任においてやることですから、止められなかったということでお願いします」


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