第46話:策略と罠
ザカールの中で浮かび上がった疑念が確信に変わりつつあった。
リドルが隠し育てたメスタという小娘が、ゼータの縁のものであるというのはザカールの直感である。
が、既にその直感は当たらないものだという実感を得てしまっていた。
事実、勝つという直感と確信は千年前に打ち破られたのだ。
三百年前ですら、たかがエルフの、たった一人の小娘に破れ長い回復の時間を取らされたのだから。
故に、ザカールはメスタに感じていたものを、少しずつ修正していた。
暴走の規模が、想定よりも大きい。
血は薄まるものだ、というのがザカールの理解である。
実験でもそうだった。
極稀に濃い者も生まれるが、それはあくまでも他者と比較して濃いだけに過ぎない。
原点の濃さからは程遠い。
それは別に、この千年間で繰り返した実験結果だけでは無い。
それ以前から最高の兵士を生み出すために繰り返された結果である。
……カトレア・オーキッドの祖母は、ゼータの[盾]だった。
確かに面影はある。
だがそれは、メスタ・ブラウンとは何のかかわりも無いはずだ。
肉体を奪ったばかりで本調子では無いとは言え、ザカールの研ぎ澄まされた[怒り言葉]を打ち破るには、遠くかけ離れた縁である。
[翼の王]から放たれた高速の火球を回避すると、その火球の影から当代の剣聖が姿を現し剣をザカールの首元に振るう。
ザカールの知らない[古き鎧]を身にまとった剣聖は、恐ろしいほど強く、その戦いの巧みさは憎きビアレス率いる最強の戦闘集団、[十一番隊]を思い起こさせる。
当時の十一番隊と同じく、リディルはザカールの[言葉]の発動を完全に読み切っており、口元を仮面で覆っていてもそれは同じことだ。
ザカールは咄嗟に〝次元融合〟で彼方より自らの愛剣である[貪る剣]を取り出し、剣聖の一撃を受ける。
[貪る剣]は触れたものの力を奪い主に分け与える。それはかつてザカールが縁より偶然手に入れた魔剣であるが――。
全てを読んでいたリディルは剣を滑らせ、そのままザカールの剣を持つ右腕を切り飛ばした。
『ぐっ――』
リディルと[十一番隊]の動きが重なって見え、かつてのようにザカールは戦慄する。
『やるではないか――』
残った左手で雷の幕を盾として張り巡らすも、リディルはひるむこと無く直進し雷撃と雷撃の合間を縫いザカール目掛け剣を突き立てる。
たまらずザカールは〝次元融合〟にて姿をくらまし、距離を取る。
そして、既に[翼の王]の[言葉]によって治癒を完了させたカトレアの姿を眼下に捉え、ザカールは舌打ちする。
同時に未だに暴走状態のメスタが、明確な敵意を持ち、ザカールをじっと見据えている。
そして、カトレアを守るようにしてメスタが咆哮した時、ザカールは理解した。
※
『――ゼータそのものか!』
ザカールが上昇し大地に向けて叫ぶ。
『〝ディム・ライン〟!』
放たれた[言葉]が大地に降り注ぐと、極彩色の大地が色を灰色に変えていく。そして大地から立ち上る輝きがザカールの体に吸収されると、溢れ出んばかりの魔力がザカールの力をより強大にした。
ザカールの使う[言葉]は、大半が黒竜には理解できない。
知らない概念が混ざると、そうなるのだ。
既に片腕を失っているとは言え、ザカールの力は衰えるどころか増している。
ザカールの体から、バチン、と雷鳴がほとばしる。
メスタが音すらも置き去りにする爆発的な跳躍でザカールに蹴りかかると、ザカールはひらりと身をかわしメスタの顔を同じように蹴り飛ばした。
即座にメスタは身をくるりと回転させ、足元に瞬間的に作り出した魔法障壁を蹴りザカールに迫る。
同時にリディルが黒い鎧の加速装置を全開にしザカールの後方から斬りかかった。
ザカールが〝次元融合〟で姿をくらますと、同時にカトレアがメスタとリディル目掛けて〝次元融合〟を行った。
ザカールの逃げた先の次元に現れた二人が、そのままザカールを追い詰める。
メスタが口元からより力を増した光条を撃ち放つと、ザカールは残された左腕にきらびやかな輝きを放つ強力な魔法障壁の曲面を作り出し、メスタの光条をいなした。
反対側から現れたリディルが剣を振るうと、そのままザカールは素手でリディルの剣を掴み取り一気に手繰り寄せる。
リディルの漆黒の兜とザカールの仮面がガチンと衝突すると、リディルは具足の先から隠しナイフをきらめかせザカールの胸元に突き立ってる。
だがナイフの切っ先がえぐりこまれる瞬間にザカールは再び〝次元融合〟にて元の次元に戻り、カトレア目掛けて光の槍を撃ち放った。
それは文字通り光そのものであり、光速の一撃である。
空間が砕けると、暴走状態のメスタが自力で次元の壁を破壊しカトレアの盾となって躍り出、咆哮した。
世界が揺れるとカトレアに向けて放たれた光の槍は四散し、消滅する。
メスタが砕いた次元の裂け目からリディルが遅れて姿を現し、再びザカールに斬りかかった。
だが、彼女の剣は既に所々が欠けている。
ザカールの周囲からノーモーションで撃ち放たれた無数の雷撃を、リディルはその剣で全て打ち払いザカール目掛けて刃を振り下ろす。
ザカールが力場を放つと、リディルはそのまま身をくねらせるだけで回避し刃がザカールの左肩に突き立てられた。
リディルの剣が、砕ける。
ザカールが左腕を膨張させリディルを殴り飛ばした。
リディルは咄嗟に両の腕をクロスさせ攻撃を受け切るが、勢いまでは殺せない。
だがリディルは吹き飛ばされながらも視界の端に捉えた一振りの剣を見つけ、魔法で自分のもとに手繰り寄せた。
ザカールが舌打ちをし、叫ぶ。
『〝オル・ディグラス〟!』
ザカールの体のうちから爆発的な力が開放される。
そのままザカールは嵐のように雷撃と光の槍、[炎の言葉]を撃ち放つも、ある雷撃は回避され、ある光の槍はかき消され、そしていくつかはリディルがつい今しがた手繰り寄せ自分のものとした[貪る剣]によって吸収されていく。
[貪る剣]の力によってリディルの動きは更に早くなり、ザカールの反応速度の上をゆく。
跳躍したメスタの拳がザカールの顔面に直撃した。
だが、ザカールはわずかに顔をそむけただけで全てを受けきり、メスタを蹴り飛ばした。
ザカールはリディルの剣撃を拳で弾き飛ばし、合間を縫って撃ち放たれたカトレアの雷撃を〝次元魔法〟で反転させメスタに直撃させる。
だがメスタは軽くよろめいただけで即座に反撃し、再びザカールに殴りかかった。
ザカールの拳とメスタの拳が激突し、空が砕けた。
極彩色だった空がみるみるうちに剥がれて行くと、赤と黒が入り混じった暗黒の世界が姿を現した。
大地からは赤いマグマが噴出し、どす黒い煙を上げている。
ここがどこなのかと疑問に思う間もなく巨大な腕が空からぬらりと現れると、その腕はザカールどころかメスタやリディル、黒竜すらも標的にして攻撃を始めた。
だがそれはザカールにとって好都合だろう。
ザカールが巨大な腕に向けて波動を撃ち放つ。
すると腕はピタリと動きを止めてから、明確な意志を持ってリディルたちを襲い始めた。
まるでザカールに操られているように動くその腕は、リディルが切り結んでも即座に再生しろくなダメージを与えることができない。
メスタの怪力にもひるまず、カトレアの魔法も通用しないその腕の正体は黒竜にはわからない。
だが、次第にザカールによってこちら側が追い詰められつつあることは、理解できた。
黒竜は内心焦りを覚えていた。
正直動きが早すぎて何をしているのかわからない。
対象が細かすぎてどこで攻撃をして良いのかわからない。
そもそも目まぐるしく変わる戦況にまるでついていけていない。
どうしたら良いのかもわからない。
下手に[言葉]を使えば誤射してしまう恐れのほうが大きい。
故に、黒竜は思考と観察に多くの時間を割いた。
おそらく、ザカールは大地から何かを吸収しパワーアップしたのだ。
そしてそれは、黒竜には理解できない概念である。
そもそも吸収してパワーアップなんて事象が理解できない。意味がわからない。
そして空間を割いたり砕いたりすることもまるで理解できず、その後に使った二段階目のパワーアップもまるで意味がわからない。
叫んでパワーアップなど到底理解できることではないのだ。
……ではなぜ、自分は火を吐けるのだ……?
それは、火という概念が黒竜の中にあるからだ。
では今からパワーアップしてくださいと言われても何をしたら良いのかわからない。だが火を起こしてくださいと言われれば、黒竜はとりあえず木や木くずで火をおこす原始的な方法が思い浮かぶ。
とは言え、火の原理や詳細な仕組みまでは知らない。
知らないが、火は起こせる。
それは黒竜が、こうすれば火が起こるということを疑っていないからだ。
思い込みだけではない、確固たる確信がある。
それが、概念ということなのだろう。
ザカールも、そしてリディルもメスタもカトレアも、皆平然と黒竜の理解できない概念に沿った行動をする。
文字通り、住む世界が違うのだということを痛感する。
だからこそ、黒竜の中にあった僅かな疑念が、小さなひらめきとなる。
――俺だけの、概念。
それはすなわち、現代社会における常識。
強さとはなんだ。力とはなんだ。
俺の世界における武器とは、何だ――。
空を割って降り注ぐ巨大な腕と連携するザカールの魔法が、ついにリディルを捉えようとしたその瞬間、黒竜は叫んだ。
「〝ザカール・ロックオン〟!」
概念が発動し、ザカールに黒竜の意識が集中される。
集中を維持したまま、黒竜は叫んだ。
「〝炎・加速・音速・多段・誘導・ミサイル〟――!」
そして、それは発動した。
黒竜の口元から総勢三十を超える灼熱の光線が、ぐにゃりとねじれ曲がって音速の誘導ミサイルの如く正確にザカールだけに狙いを定め襲い掛かる。
ザカールは即座に反転し、ジグザグの飛行で回避運動を取るも全ての光線がザカールを追い詰めて行く。
そのままリディルがザカールの背後を取り[貪る剣]で横薙ぎにするも、ザカールは宙返りの形でリディルを光線の盾にする。
だが光線はリディルの正面で散開し、正確にザカールだけを目掛けて収束していく。
ザカールが〝次元融合〟で姿を消失させると、再びカトレアが同じく〝次元融合〟の門を開く。
ザカールを追尾する光線のミサイルが敵を探知し、門の中へと侵入していく。
たまらず姿を現したザカールの頭上から、リディルが[貪る剣]を振り下ろした。
『〝ディム・ライン〟!』
再びザカールの[言葉]が放たれると、大地、そして空から魔力の本流が湧き上がりザカールの体に吸収されていく。
[貪る剣]がザカールの肩に食い込むが、まるで鋼の如く硬質化したザカールの体はそれ以上の攻撃を受け付けない。
ザカールがリディルの首を掴み取ろうとした時、リディルの着る漆黒の鎧の下腹部が生き物のように割れ、赤黒い閃光が撃ち放たれた。
それはザカールが使った大地を腐らせる言葉に酷似した輝きである。
ザカールが咄嗟に回避すると、リディルは更に腰元とから二つの小瓶のようなものを放り投げる。
小瓶が輝くと、それは遠隔型の魔法発射装置となってザカールを四方から追撃していく。
リディルから僅かに疲労の色を感じ取った黒竜は、先ほどと同じように叫んだ。
「〝リディル・ロックオン〟!」
そして黒竜の持つ概念の限界として、内心で彼女に謝罪しつつ息として[力・増強・前借り]を放つ。
それは、俗にいう二十四時間働くための概念。すなわち現代社会の闇である。
だが今という状況に限って言えば特効薬となり、リディルの力を万全にまで引き戻すことに成功した。
再び力を取り戻したリディルは更に鎧を加速させ、剣を振るう。
メスタが筋肉を膨れ上がらせ空から伸びる巨大な腕を殴り飛ばすと、カトレアがその腕目掛け封印魔法を詠唱し、腕を次元の彼方に弾き飛ばした。
同時に空からいくつもの目が、腕がヌラリと姿を表す。
メスタが空中の魔法障壁をジグザグに跳躍しながらザカールに迫る。
カトレアが、ぜえ、と肩で息をしてザカール目掛け自身の持つ最大の全属性融合魔法を光弾に変え撃ち放つ。
リディルの剣が灼熱を纏い、ザカールに振り下ろされた。
メスタの拳、リディルの剣、カトレアの魔法、そして黒竜の放った誘導ミサイルの全てに対してザカールは再び
『〝オル・ディグラス〟!』
と叫び、全ての攻撃を残された左腕に集中させた拳の一撃で相殺した。
また、空が砕けた。
赤黒い空は音を立てて崩壊し、次に現れたのは色の無い奇妙な空間であった。
ザカールは動じずリディルを蹴り飛ばすと、そのままの流れでメスタを殴り飛ばす。
カトレアが再び渾身の魔法を撃ち放とうと身構えるも、それよりも早く降り注いだ衝撃波がカトレアの体を弾き飛ばす。
思考する間も無く黒竜の眼前に現れたザカールが、拳の乱打を黒竜の胴体に打ち込んでいく。
黒竜の体が弾き飛ばされるよりも早い速度で打ち込まれた数十発の拳の乱打が黒竜の鱗、甲殻を貫通して体の内部に鋭い激痛を走らせる。
ザカールが黒竜の顔を蹴り飛ばすのと、黒竜が「〝ザカール・ロックオン〟!」と叫ぶのはほぼ同時だった。
弾き飛ばされながら黒竜は強く念じた[息]にて先程よりも強く凶悪な意味を込め、それは〝炎・加速・音速・粘着・拡散・多段・誘導・ミサイル〟となって撃ち放たれる。
ザカールが追尾ミサイルから回避運動を取りながら、黒竜に向けて先程カトレアが使った魔法と同質の、それでいてより強大な合成魔法を連続して撃ちはなった。
まるで暴風雨の如く撃ち放たれる光弾が黒竜の巨大な体に降り注ぎ、それは明確なダメージとなって黒竜の体を焼いていく。
色の無い世界の中、メスタが咆哮した。
メスタの周囲の空間だけが再び砕け飛び、メスタだけが色を持ちザカールに襲い掛かった。
ザカールは咄嗟に反応し拳で応戦する。
メスタの拳とザカールの拳がぶつかると再び次元が砕け、ザカールの体が弾き飛ばされた。
次の瞬間、色の無い世界は様変わりしどこまでも広がる青く美しい空と一面の蓮の花の世界が姿を現した。
ザカールの体が蓮の花畑に転がり、メスタが追撃する。
なおもリディルは両肩の加速装置を吹かせ、ザカールに追いすがった。
ザカールが笑った。
『ついに来たか――』
メスタの攻撃の瞬間、ザカールは再び叫んだ。
『〝ディム・ライン〟!』
すると、世界が震撼し爆発的な光の本流がザカールに集まっていく。
メスタの拳が、リディルの剣撃がザカールの体を包み込む見えない障壁で止まる。
ザカールが言った。
『素晴らしい、これが〝次元融合〟の果て、[神界]の力――!』
そのまま衝撃波だけでメスタとリディルを弾き飛ばしたザカールは、もはや二人には目もくれずに天空の一点を目指し飛翔した。
何だ、と思う間も無くカトレアが遅れて現れ、どさりと蓮の花の上に倒れ込んだ。
※
もはや、カトレアには魔力の一欠片も残されていない。
最高傑作と謳われる当代の剣聖、そして敬愛する師であるリドルの育てた秘蔵っ子のメスタについていけないのは悔しくもあり、嬉しくもある。
だがそれとは全く別の疑惑が、彼女の中に浮かび上がりつつあった。
ザカールは、カトレアに[支配の言葉]を使おうとした際に、わざわざ名を呼んだのだ。
[古き翼の王]に最も近い存在であったザカールですら、[支配の言葉]を使いこなすことはできなかったのだ。
……本当に?
疑問は思考の棘となり、カトレアを迷わせた。
その迷いがカトレアの動きを鈍らせ、同時にザカールの行動理由を考察させる。
それは仮説である。
[古き翼の王]が名を呼ばず[支配の言葉]を使うことができた。ザカールはそれができない。だが――手段だけなら、ザカールは知っていた可能性は無いか?
呼ぶ名が偽名では駄目な理由は、既に目処はついている。
魂と結び付けられた、最初の、真実の名が必要なのだ。
では、[古き翼の王]は真実の名を、魂を見ることができたのか?
否、それならば〝次元融合〟で現れた[暁の勇者]たちにも通用したはずだ。
だが、彼らには通用しなかった。
それは、この世界と彼らの魂は別のところから生まれでたものだからだ。
かつて、この[神界]にまで〝次元融合〟を成功させたものはいなかった。
[精霊界]ですらやっとのことで行えるというのに、この戦いの中で[魔界]を通過し、世界を砕き、[神界]にまで来てしまったのは魔導師としては快挙である。
だがその中で、いくつかある仮説の一つにカトレアは辿り着いていた。
[神界]には、魂の[核]があるのだと。
全ての魂は[神界]の[核]に戻り、やがてそこから再び世界に戻り命となるのだと。
[神界]の青空と世界を照らす太陽が、やけに白く輝いている。
――太陽、なのか……?
ザカールが他者に目もくれず、一直線に太陽に向けて飛翔する。
ぞわり、と悪寒が走った。
カトレアは渾身の力を振り絞り、通話魔法で呼びかけた。
※
〈やつを、止めろ――! やつは[世界の核]に[支配の言葉]をかけるつもりだ――!〉
その掠れた悲鳴を聞き、黒竜は咄嗟に〝加速・音速〟をかけ飛び立った。
リディルも、メスタも同じくザカールを追ったが、既に遅かった。
ザカールは勝ち誇ったように嘲笑った。
『ハハハ、勝ったぞビアレス! もう数百年はかかると思っていた!
こうも容易く[神界]の[核]にたどり着くことができた!
――貴様らの努力には感謝しよう!
私一人では成し遂げることができなかった!』
黒竜が再びザカールへの追尾弾を放つも、[核]から溢れる力の余波に触れただけでそれはかき消されてしまう。
『魂の強さを知らぬ愚か者には、地を這いつくばって消えてもらう!』
ザカールが[核]に向け、叫んだ。
『〝ウィル・ディネイト〟!』
しかし――。
その瞬間、ザカールの左肩が弾け飛んだ。
メスタがぎょっとして動きを止め、黒竜もそれにつられ翼を羽ばたかせた。
ザカールから放たれた[支配の波動]は[核]に触れる前に挙動を変え、様子を変貌させ、ザカールの体にベタベタと張り付きその体をどす黒く染め破壊していく。
世界が割れ、色の無い世界に移り変わる。
すぐさま再び世界が割れ、赤と黒の世界に移り変わり、また割れ、極彩色の空へと戻った次の瞬間には全てが崩壊し夜の[竜人の里]の森へと全員の体が放り出されていた。
間髪入れず、リディルの[貪る剣]がザカールの胴体を両断する。
ザカールは苦しみ悶ながら、憎々しげに呻く。
『が、ぐ、ぐ――私の、[言葉]が――。リ、リドル!
じ、自分の、体に――罠を……!
やつめ、さ、最初から……し、死ぬつもりで、リドル、おのれ、リドル……!』
リディルが[貪る剣]でザカールに止めを刺すべく追撃する。
それよりも早くザカールは自らの首を切り落とし、残った首から下を爆発させた。
四散した肉体全てがどす黒く変色し消失する中、首だけになったザカールの仮面が闇の中に溶け消えていく。
リディルはぎり、と奥歯を噛み締め叫んだ。
「索敵! ザカールを取り逃した! 急いで!」
「面白かった」
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面白ければ★★★★★、つまらなければ★☆☆☆☆、是非よろしくおねがいします。




