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第20話:ドラゴン襲撃

 テントの中でミラは半ば無理やり椅子に座らされていた。

 体からほかほかと湯気が上がっており、熱で上気した自分の腕を見、ミラは苛立った。


「カルちゃんこれどうするー?」

 とカルベローナの従騎士の一人が宝石の散りばめられた金のネックレスを手に持ち、ミラの首元に合わせてみせる。


「あ、かわいいー!」


 と別の従騎士が言うと、ミラは絶句する。

 彼女たちは、今自分を着せ替え人形にしているのだ。

 それどころか……。


「なんで野営地に大きなお風呂あるんです……」


 腹立たしいことに、急増品ではあるが各々の隊のテントのそばに簡易の風呂が用意され、ミラはそれに入れられたのだ。

 [ハイドラ戦隊]の部隊数が十三であるため、単純計算でその数だけの風呂をわざわざ用意させたことになる。

 テントの外、少しばかり遠い場所から笑い声が聞こえる。

 ふと肉の焼ける匂いが鼻孔をくすぐり、ミラはまた不機嫌になった。

 同じく匂いを嗅ぎ取ったカルベローナが、盛大にため息をつく。


「んもう! アンジェリーナさんの隊ですわね? こっちにまで匂いが!」


「でも良いよねぇ。うちもみんなとバーベキューしたいなぁ」


 従騎士がちらとカルベローナを伺うと、彼女は「ふん」と鼻を鳴らした。


「それならば兵隊方が勝手にやればよろしい。わたくしは自分で肉を焼き素手で食べるなど――」


「素手じゃ無いと思うけどなぁ」


「同じようなものでしょう!? 大体、あのハンバーガーという食べ物は好きません」


「ええー? 美味しいじゃーん。あたし好きだなぁ」


「どこが! 下品な食べ方」


「そーかなぁ」


「ええ、そうです!」


「そーかなぁー」


 尚もくいすがる従騎士を、カルベローナは、


「そうよ!」


 と一蹴し、半月の櫛でミラの短い髪の毛を乱暴にとかしていく。


「痛った……」


「あら、ごめんあそばせ」


「…………」


「ほら、動かないで。髪くっしゃくしゃ。貴女、さては不潔ですわね?」


「……冒険者ですし、あなたには関係無いです。――ここまでしてもらう理由だって、ありません」


「んふ、それと同じこと、あのドラゴンには言いまして?」


 ……言っていない。言えなかったのだ。

 ミラが表情を曇らせると、カルベローナは勝ち誇った笑みを浮かべる。


「ほら見たことですか。

 既に暗殺者が二人もいたということ、

 あのドラゴンはそれを貴女に伝えずに守りきったということ。まさに騎士の鏡でございましょう?

 それを、このわたくしが教えて差し上げなければ貴女は知らないままだった。

 無知というのは愚かですわねえ? ご自分の騎士にねぎらいの言葉をかけることもできない」


 それはこのテントに案内されてからすぐに聞かされたことだ。

 そして、その場にいた暗殺者が全員捕まえられたとも。


「ま、このわたくし――テモベンテ家の騎士たちにかかれば暗殺者など恐れるに足らずですわ」


 カルベローナが従騎士に視線を送ると、従騎士は[魔法石]が組み込まれた熱と風を送る[魔道具]を手に持ち、ミラの濡れた髪を乾かしていく。

 魔力が込められた[魔法石]には、ピンからキリまで様々なものがあるが、ミラはこの[魔法石]を一目で最高の品質のものだと見抜いた。

 これは幼い頃[魔術師ギルド]でその手のアイテムに触れる機会があったから故のことだが、だからこそミラはげんなりしてしまう。

 この[魔法石]一つで、ミラの欲しかったエボニー製の杖を購入して尚様々な付呪を施すことができるのだ。

 ミラの恨めしげな視線を別の意味に捉えたのか、カルベローナはまた自身に満ちた笑みを浮かべる。


「あら? ひょっとして薄汚い冒険者のミラ・ベルさんはこのような道具もご存じ無い?

 初代賢王ら、[暁の勇者]たちが発明した〝次元融合〟の遺産ですのよ?」


「……別に、知ってます、それくらい」


「あらそう? でしたら――わたくしの美しさに見とれていたのかしら? オーッホッホッホ!」


「……うざい」


 ぽそりと吐いた毒は幸いなことに誰にも聞こえなかったようで、ミラはもう一度深いため息をついた。



 ※



「……あの子、声大きいな」


 テモベンテ家のテントの横で思わず黒竜はそうつぶやいた。

 実際、会話の内容は丸聞こえであり、だからこそ黒竜はより一層の警戒を強めた。


 あの時、赤い光は確かに三つあったはずだ。

 全員捉えられた、と聞かされたのでそれで良しとしてしまった黒竜の大きなミスである。

 今からでも言うべきか、と考えたが、しかし、とも思う。


 可能性の問題なのだ。

 暗殺者を捉えたのは、テモベンテ家の兵士だ。

 そしてもう一つの赤が、逃げたのならばまだ良い。


 だがもしも……三つ目が内部に潜り込んでいたら――。

 黒竜はなおも考える。

 誰に、このことを伝えるべきなのか――。

 疑心暗鬼に陥っているな、と彼は翼で目元を覆った。

 腹芸は苦手なのだ。

 誰が味方で、誰が敵だなどと見抜く力は欠片もない。

 というよりそんな経験したことすら無い。

 最悪のケースは、カルベローナが敵だった場合か?

 あるいは、もっと……。

 考え、考え、焦燥し、黒竜は深く息をつく。

 テントの中からまた声が漏れ聞こえてくる、


「え、ええ、なんでハンモック一つしか無いんです!?」


「はー、ほんとおバカさん。このわたくしたちと近ければ近いほど、貴女の身の安全は確実なものになりましてよ?」


「そうだよミラちゃん、カルちゃんの言う通りにしたほうが良いよ」


「カルベローナ様ってこう見えて意外と賢いんですよぉ」


「意外とか言わない!――ほらミラ・ベルさんはさっさと、貴女が真ん中なのですから!」


「あ、やっ、ちょっと、やぁ!」


 どさ、と音がし、黒竜は小さくため息をついた。

 彼女たちが、敵だとは思いたく無い。

 やがて、少し離れた位置で騒いでいた四部隊ほどのバーベキューとワインの食事会も終わり、静かな夜が訪れる。

 ところどころから、兵士たちの、


「肉美味え」


「[ハイドラ戦隊]様様ってな」


 という緊張感のない会話が聞こえてくると、黒竜は一層不安になった。


(この騎士団駄目だ……たるみきってる……)


 曰く、昔はたるむどころか腐敗していたそうだが、正直今でも十分腐敗していると思う。

 ……これ以上酷い昔があったなど、想像もできない。


 一応だが、[ハイドラ戦隊]の五、七、八、十、十ニ番隊の彼女たちが良い子なのは良くわかった。彼女たちの部隊がバーベキューの主催であり、肉も野菜もパンも酒も兵士たちに振る舞っていたのだから。

 十二番隊隊長のアンジェリーナという美しく穏やかな女性が、『貴方もいかが?』と笑顔で肉を持ってきてくれたのはありがたかったが、後ろの方で酔っ払っている兵士たちを見た黒竜は、『い、いや、実はもうお腹いっぱいで』と断ったのだ。


 実際、未だに空腹感は無い。

 焼けた油の滴る肉を見て、美味しそうだなとは思うのだけれど、口に運びたいとは思えないのは不思議である。

 だがそれよりも問題なのは、そもそもいつ戦いが起こるかわからない状況にいるということなのだ。

 騎士団全体が緩みきっている。たるみきっている。


(メスタ君が外に出たがるわけだ……)


 恐らくだが、このままここにいれば何の不自由もなく平和に幸せに暮らせる。そんな予感がするのだ。

 だが同時に、自分が駄目になっていくかもしれないという恐怖もある。

 堕落、というものなのだろう。

 何かしなければ、自分から動かなければ、そう思った結果メスタは冒険者という道を選んだのだろう。


 テモベンテ家のテントを守る兵士の一人が大きなあくびをする。

 入り口を二人、周囲を三人の兵士が厳重に囲っているが、誰も彼も緊張感のかけらもなく、黒竜はより一層不安な気持ちを強くさせた。

 幸いなことに、睡眠が必要のない体だ。夜通し見張ることだってできるはずだと黒竜は気合を入れ直し、遠くの闇夜をじっと見据える。


 やがて、皆が寝静まった頃。

 ふと黒竜は肌がざわつくような気配を感じ顔を上げた。

 それは感じたことのない奇妙な感覚であり、形容し難い悪寒のようなものが黒竜の背筋を震わせる。


 これは、なんだ――。


 黒竜は一度周囲を見渡し、ろくに緊張感のない兵士たち、遠くに見える山々と森林、夜空に浮かぶ二つの月を見、きょろきょろと落ち着かない素振りを見せていると、テモベンテ家のテントを守る兵士が怪訝な顔になって言った。


「そこの黒いドラゴン、どうした?」


「あ、いや――」


 この感覚をどう説明したら良いかわからず、黒竜は言葉をつまらせる。


「便所なら……あー、あんたのデカさに合うのは無いなぁ、悪いが森の方でしてきてくれ。

 お嬢様方のテントに匂いが届かないようにな」


「あ、どうも……。でも便所ではなくて――」


「あん? 腹でも減ったのか? 俺は食わないでくれよ」


 と兵士は快活に笑ったその時だった。

 視界の端に、いつか見た通称[負けないで少年]の姿が映り込む。

 ぞっとし、見やると、その少年は山の向こうをじっと見据えていた。

 まばたきの瞬間、少年が消えると、山の向こうが、一瞬光った気がした。

 それは視界外の確かな感覚であり、黒竜は思わず顔を向けた。

 兵士が武器を構える。


「……何だ? 何か、光ったか……?」


 さーっと風が流れていく。

 兵士が山の方に目を向けたまま、隣でウトウトとしていた別の兵士の肩を叩く。


「お、おい、起きろ馬鹿」


 山の向こう側で、今度は確かにはっきりと、まばゆい輝きが山際を照らした。

 巨大な何かが、山の向こうから飛び立つ。

 それは影となり星空へと吸い込まれて行き、やがてそれが何者なのかがはっきりと月に映し出される。

 兵士が、驚愕して言った。


「つ、翼と、尻尾が見える……。ドラゴンだ――!」



 ※



 あの少年は――何なのだ。

 それは答えの出ない疑問である。

 敵か、味方か、あるいはそのどちらでもない、ただの指針か。

 赤いドラゴンが月を背にして一気に急降下し、五番隊のテントに向けて火球をうち放つ。

 瞬間的に黒竜が心の内から発した〝炎・加速・撃ち弾く〟を練り込んだ[息]を高速の火球として撃ち放つと、それは圧倒的な初速で赤いドラゴンの放った火球と衝突し、互いに干渉しあい爆発、周囲に火の粉の雨をふらした。


 舞い散る火の粉が木材やテントに引火し、炎が燃え広がっていく。

 兵士たちが混乱し、


「ド、ドラゴンだ! ドラゴンが襲ってきた!」


「早い、見えないぞ!」


「何が起こってんの!?」


「ドラゴンなんているわけないだろ!?」


 と怒号が飛び交う中、黒竜は上空を旋回する赤いドラゴンを見据えていた。


 あの赤いドラゴンは、黒竜の姿を見ても何の反応も示さなかった。[古き翼の王]では無かったのか? 伝説に違わぬ姿では無かったのか?

 思い浮かんだ疑念を否定するのは、あの遺跡を飛び立つ際に見た自らの記憶。

 あそこにいたのは、見紛う事なき自分だったのだ。

 ならば、何故何の反応も示さない。

 何故――。


「落ち着け! 弓兵は弓を持て、ちゃんと! 魔道士は障壁、応戦! 消火、急げ!」


 着の身着のままテントから飛び出して来たメリアドールが、指示を飛ばしていく。


 赤いドラゴンが再び火球を口から撃ち放つが、動きを注視していた黒竜は再び――今度はより強力な意志を込め、〝炎・加速・障壁・撃ち弾く〟と巨大な炎の壁を爆発的な速度で撃ち放った。

 赤いドラゴンの火球はあっという間に炎の壁に飲まれ、消失する。


 既に、黒竜は違和感の正体に気づきつつあった。

 テントから慌てて飛び出してきたミラが、黒竜を見て少しばかり安堵する。


「ド、ドラゴンが襲ってきたって――」


 テントの中から声が漏れ聞こえてくる。


「離しなさい! ドラゴンが襲ってきているのでしょう!?」


「カルちゃん鎧つけて鎧! はしたないですよ!」


「カルベローナさまぁ! だ、駄目ですぅ!」


 彼女らにかまってやる暇は無い。

 黒竜が頭を下げると、ミラがすぐに飛び乗った。

 まだ暗殺者がどこかに潜むこの状況でミラを、残して行くつもりもない。


 ミラの足がしっかりとあぶみに置かれたのを確認してから、黒竜は今尚夜空を旋回する赤いドラゴンめがけて一気に飛び立った。

 すぐさま赤いドラゴンが黒竜に向け火球を撃ち放つが、黒竜は〝力場・衝撃〟の概念を込めた衝撃波だけでその火球をかき消した。

 そして、黒竜はある種の確信を持ってこう言った。


「そこの赤いドラゴン。私の言葉がわかるのなら、話を聞いて欲しい!」


 赤いドラゴンは、唾液を撒き散らした咆哮をするだけだ。

 首の後ろのミラが言う。


「こ、これって――」


 それが、違和感の正体である。

 あの遺跡で見たドラゴンたちは、皆知性があったように感じたのだ。決して今眼の前にいるような、空飛ぶ獣では無い。

 だが、それでも兵士たちはそれをドラゴンと呼ぶのだ。


「ただの獣と見た!」


「き、来ます!」


 黒竜とミラが同時に言うと、赤いドラゴンが再び咆哮した。赤いドラゴンの口元から先程よりも巨大な火球が撃ち放たれる。

 しかし――


「試してみる――か!」


 黒竜が同時に放った〝生命力・弱体・束縛・拘束〟の[息]が、どす黒い輝きを放ち火球を飲み込み、そのまま赤いドラゴンをも飲み込んだ。


 相手を無力化する、概念。

 既に黒竜は編み出していたのだ。


 やがて赤いドラゴンは苦しみだし、飛ぶ力を失い地面に叩き落とされた。

 だが、叩き落とされた赤いドラゴンはもがき苦しみ始める。

やがて力尽きたのかそのまま動かなくなってしまった。


 ぞわり、と悪寒が走る。

 そんなに強い[息]では無かったはずだ。

 地に落ちたドラゴンはぴくりとも動かない。


「し、死んだ……死んだのか……。やってしまった――」


 自身が引き起こしてしまった死に怯えながらも、黒竜は気づく。

 赤いドラゴンの体を覆うどす黒い輝きは尚も続き、ドラゴンの触れた箇所の草花を枯れさせていくのだ。


 負のイメージが漠然としすぎていたのかもしれない。

 そしてそれは、黒竜の想像を超えてしまうのだ。

 生命力を、弱体化させる概念。

 それは、一体どこまで……? いつまで弱体化させるのか?

 死ぬまで、弱体化していくのか?

 ……死んだ後も――?

 なおも残り続けるその概念を見て、黒竜は恐怖する。


「これは、だ、駄目だ。強力過ぎる――」


 あの黒い輝きに触れないよう注意喚起すべきかと考えたその時だった。


「ま、まだ来ます!」


 ミラが驚愕して言うと、山陰の向こうから八つ巨大な翼の影が姿を表した。

 その中心の赤いドラゴンの首の後ろに、深々と赤いフードを被った仮面の男を、黒竜は見つける。

 報告にあったリジェットという男の特徴と一致している。

 そして、黒竜はその仮面の男の視線が、自身に注がれていることに気づく。


「ドラゴンの姿をした獣を操る、人間――? リジェットという男は……何なのだ」


 黒竜はひとりごち、翼を羽ばたかせる。

 真下に野営地があるこの状況で、あの数を相手に被害を出さない自信は無い。

 なるべく野営地から遠くで戦わなければ――であれば、こちらから近づくしか無い。


「おそらく騎士団の子たちでは頼りにならない! ミラ君はやれるな!?」


「やれます!」


 その声を聞くやいなや、黒竜は一気に羽ばたきを強め敵陣めがけ加速する。

 黒竜とドラゴンの部隊の距離がぐんぐん狭まっていく。


 その時だった。

 ふいに、中心のドラゴンの男が片手を上げた。

 すると周囲のドラゴンたちは一斉に軌道を変え、周囲を旋回し始める。

 ローブの男、リジェットはドラゴンを従えているのか――?

 であれば、と黒竜は攻撃が始まる前に仮面の男に向けて言い放った。


「そこのキミ! 言葉がわかるのなら、

 そして行方不明の冒険者リジェットであるのなら、私の話を聞いて欲しい!」


 それは、黒竜の願いである。

 誰だって戦いなどしたくはない。平和に暮らしているのだ、彼らにも生活があるのだ。堕落してはいても、それは決して悪人というわけではない。

 善かと言われれば疑問はあるかもしれない。だが、それは即ち、普通の人なのではないか。

 黒竜だって、友人と一緒に学校をサボったことはあるのだ。たったの数度ではあるが――。

 だから、対話でどうにかなるのなら、それを願うのが黒竜という一人の人間の思いである。

 首の後ろのミラが大声で彼に呼びかける。


「リジェットさんでしょう!? ミラ・ベルです、一体何があったんですか! 先遣隊の皆はどうしたんですか!」


 しかし――


『ああ、そうか――』


 仮面の男の声が、奇妙なほど均等に一帯に鳴り響く。

 その声を聞いたミラが、「リジェットさん……?」とぽつりとつぶやく。

 リジェットが、黒竜を見、憎悪に満ちた低い声で言った。


『やはり[古き翼の王]は、奴らに負けたのだな――』


「な、なにを――」


「リジェットさん!」


『ドラゴンの流儀を忘れた愚か者には、地に這いつくばって消えてもらう!』


 リジェットが再び片手を上げると、周囲を旋回する七匹のドラゴンが黒竜めがけ一斉に火球を撃ち放った。

 黒竜は咄嗟に下降し、同時に八匹全てのドラゴンを視界に入れてから、〝力場・障壁・無効化〟と[息]を撃ち放つ。


 だがほぼ同時に赤いローブの男の口元から放たれたどす黒い輝きが黒竜の放った力場と激突し、混ざり合い、衝撃波となって一帯の空を黒く染めた。


『[古き翼の王]の[息]を使うか! だが、今ので確信した!

 器に入り込んだ魂は人間のもの! [古き翼の王]は無様にも人に、体を奪われた!』


 リジェットが怨嗟の如く叫び、七匹のドラゴンを操り黒竜に襲いかからせる。

 首の後ろのミラが、回避運動を取る黒竜の角にしがみつきながら叫ぶ。


「リジェットさん、ミラです! あなたに魔法を教わったことがあります! 武器を引いてください!」


 リジェットが、笑った。


『生まれでたことを呪うが良い。聞け、[古き翼の王]の力を!

 ――〝ミラ・ベル・ウィル・ディネイト〟!』


 瞬間、[言葉]が雷鳴のようにほとばしる。

その波動は黒竜が咄嗟に放った〝力場・障壁・無効化〟の[息]を貫通しミラに襲いかかった。

 しかし――。

 ミラが困惑し自分の身に何が起きたのかを確認していると、リジェットが忌々しげに吐き捨てる。


『――違うか……!? ならば小娘には死んでもらう!』


 リジェットが左手に持つ杖の先に巨大な雷の嵐を呼び寄せると、そのままミラと黒竜に向け撃ち放った。

 同時にミラが左手にバチンと雷を走らせると、リジェットは赤いドラゴンから跳躍し、右手から巨大な火球の雨を流星群のように降らせる。


「うっ……!」


 ミラは咄嗟に雷で作った槍をリジェットに向けて高速で撃ち放つ。

 黒竜は降り注ぐ火球と雷の雨に対して叫んだ。


「〝力場・障壁・無効化(フォース・ウォランズ)〟!」


 放たれた[言葉]が力場となり、壁となり、火球の雨を打ち消していくと、ほぼ同時にリジェットが同じように叫んだ。


『〝跳躍・加速・風(リレインド)〟!』


 瞬間、リジェットの体が爆発的な加速力を得、跳躍し、音すらも置き去りにする速度で黒竜の真横を一瞬ですり抜ける。


 ――しまった!


 リジェットは最初から、黒竜らを相手にするつもりはなかったのだ。

 リジェットの影はあっという間に小さくなり、[ハイドラ戦隊]の野営地の中心へ降り立った。


 黒竜は慌てて追いすがろうとするが、上空から七匹のドラゴンの一斉射に晒されてしまい、回避運動を取らざるを得ない。


「下の方、何かいる!」


 ミラが叫ぶと、大地をうごめく無数の岩の巨人、ゴーレムらが一斉に黒竜に向けて岩石を投擲した。

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翻訳の魔導書を完成させた魔導師見習い。役立たずと言われ魔法学校と魔術師ギルドから追放されるもルーン文字を翻訳できることが判明し最強の付呪師となる
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