嘘つきな旅人 2
それから俺と紫藤さんはほとんど喋らずに歩いた。
先ほどの俺とのやりとりが相当まずかったのか。紫藤さんは俺の方に顔さえ向けず、ひたすら俺の前を歩いている。
俺としても喋りかけづらかったし、喋りかけてはいけないような気がした。
ただ、重い荷物を背負いながらも、なんとか気を保ち、歩き続けた。
そして、それから体感として一時間程経った、その時だった。
「あ」
前を歩いていた紫藤さんが立ち止まった。
「え……どうしたの?」
紫藤さんの顔を覗き込み、俺は思わず驚いた。
紫藤さんは目を丸くして目の前を見ている。
「え……紫藤さん?」
俺がそう入っても紫藤さんは何も言わずにただ前を見ているだけだった。
さすがに気になって紫藤さんが見ている方向に視線を向けてみる。
「あ」
思わず俺も同じように声を漏らしてしまった。
前方の線路の上……ちょうど10メートルほど離れた所だろうか。
そこに人が立っていた。
無論、こんな所に人が居るのはおかしい。ただ、その人影は遠目で見てみても、どうやら駅員の格好をしているようだった。
「……あれは」
「ぞ……ゾンビだ」
「……え?」
俺はその声を聞いて思わず顔を向ける。
見ると、紫藤さんはガチガチと歯を鳴らして後ずさりを始めていたのである。
「え……ど、どうしたの? 紫藤さん」
「ど、どうしたもなにもねぇよ……お、お前……怖くないのかよ?」
むしろ、俺は先ほどまでと態度が豹変してしまった紫藤さんの方が怖い気もする。
「え……あ、いや、怖いっていうか……あれは、たぶんぼぉっとタイプでしょ」
「ぼ、ぼんやりって……?」
「え? ほら。ゾンビってさ、ボォーっと突っ立ているか、ウロウロ動き回っているか……その2タイプでしょ? 一人で旅してきた紫藤さんならわかるでしょ?」
「わ、わかんねぇよ! ゾンビがいたらずっと逃げてきたんだ! わかるわけねぇだろ!」
紫藤さんはそう叫んでから、思わずしまった、という感じで手で口を抑えたのだった。




