怪しい婦警さん 3
「えっと、確認しますけど、運転できるんですよね?」
「ああ。大丈夫だ」
運転席に座る宮本さんに俺は助手席から訊ねる。すでに鍵を渡してしまったので後はすべて宮本さんにゆだねるほかないのだが。
「……ホントに大丈夫なんですか?」
後部座席からは不安そうな古谷さんの声が聞こえてくる。
「ふっ。なぁに。私は警察官だ。安全運転で。行くさ」
宮本さんがその質問に対しては得意気に答えていた。
「ええ、よろしくお願いします」
そして、ついに車のエンジンがかかる。
「よし。行くぞ」
そして、宮本さんはアクセルを踏み込んだ。まずはゆっくりと家の車庫から車を出す。確かに安全運転のようである。俺はホッと胸をなでおろした。
そして、車道に車が出る。ライトが前方の暗闇を照らしている。
「……ところで、どこへ行くんだ?」
「え? あー、えっと……じゃあ、デパートの方に行ってくれますか?」
「デパートっていうと……ああ。警察署の近くか! それなら私にもわかるぞ!」
嬉しそうにそういう宮本さん。というか、おそらくわかるからと思ってあえて、近くのスーパーよりも警察署に近いデパートを指定したのだが……
「えっと……警察署までの道、分かりますよね?」
「当たり前だ。ここまで来たのだぞ。わかるに決まっている」
俺は心配だったが、本人がそう言うのなら仕方ない。それになにより、運転してもらうだからあまり文句はいえた立場ではないのだ。
「じゃあ、お願いしますね」
「ああ。では……行くぞ!」
その瞬間だった。
ものすごい圧が、俺の体にかかる。
「え、ちょ……」
言葉もしゃべれないので俺はただ、過ぎ去っていく光景を見ることしかできなかった。何キロ出しているのやら、周囲の光景が流れるように過ぎ去っていく。
「は、や、い」
背後から小室さんの声がとぎれとぎれに聞こえてくる。
ちらと横を見ると、嬉しそうな顔でハンドルを握る宮本さん。そして、俺は理解した。なるほど。ハンドルを握らせてはいけないタイプの人種だったらしい。
それから五分ほどだっただろうか。異次元のスピードに圧倒されながらも、なんとか車はどこにもぶつからなかった。
何かにぶつかった感覚さえなかったので、おそらくゾンビさえもひかなかったのだろう。或る意味奇跡だと言える。
そして、しばらくしてから、車はゆっくりとスピードを落としていった。




