残念な婦警さん 4
俺は、テーブルの上にあったカップ面を宮本さんの前に差し出した。
すると、宮本さんは目を丸くした後で、ゴクリと唾を飲み込んでいた。なんとも、わかりやすい人のようである。
「い、いいのか?」
「ええ。どうぞ」
「あ……じゃあ、お湯……」
「ああ。用意しますよ。椅子に座って待っていてください」
俺はそのままキッチンへ行ってお湯を沸かした。テーブルの方を見ると宮本さんは申し訳なさそうに椅子に座っていた。
「宮本さん。一つ聞いていいですか?」
と、古谷さんが宮本さんに声をかけた。ゾンビである古谷さんに話しかけられた宮本さんは少し顔をこわばらせていたが、先ほどのように気絶はせず、緊張はしながらも、古谷さんの方に顔を向けた。
「あ、ああ。なんだ?」
「どうして、ゾンビに追い詰められていたんですか?」
「え……え、えっとだな……」
なぜか答えを言い淀む宮本さん。それに対し、ニヤリと嬉しそうな笑いを浮かべる古谷さん。
「もしかして、お腹が減っていたからですか?」
「え、な、なんでそれを……あ」
言ってしまってからしまったという風に口をふさぐ宮本さん。どうやら、どこまでもこの人はわかりやすい人のようである。
「ふふっ。やっぱり、そうなんですねぇ」
嬉しそうに少し意地悪そうに、古谷さんはそう言った。俺はやかんに火をつけてお湯を沸かす体制を整えてからテーブルに戻ってきた。
「えっと……お腹が減っていると、どうしてゾンビに追い詰められるんですかね?」
俺はあくまで自然な感じで宮本さんに訊ねてみることにした。しかし、それでも宮本さんはなんだか恥ずかしそうだった。
「……気付かなかったんだ」
宮戸さんは、人間の耳でギリギリ聞き取れるレベルの小さな声でそう言った。




