頼れる婦警さん 4
そして、小室さんはゾンビの群れに顔を向けると「あー」と少し大きめの声で唸った。
その瞬間、驚いたことに全員のゾンビが振り返った。
俺は電柱の影に隠れてそれを見ている。
「あー……うー……あー」
小室さんがそう唸ると、ゾンビ達はそのまま何を思ったのかぞろぞろと路地から出てきてしまった。
そして、小室さんを残して大多数のゾンビがそのまま去って行ってしまったのである。
「え……終わったの……?」
「あかいくん」
と、小室さんが俺に話しかけてきた。
「え? 終わり?」
「うん。ぶじ、みたい」
小室さんのその言葉を聞いて俺はそのまま近くへ駆け寄って行った。
「あ」
そして、路地の奥を見ると、確かに、先ほど双眼鏡で見た婦警さんが、すっかり小さくなってその場に座り込んでしまっていた。
婦警さんは体を小さくさせて頭を抱えて震えている。
「あ……大丈夫ですか?」
「わ……私なんて食べても美味しくないぞ……毎日不摂生で最近太り気味だし……絶対美味しくない……だから食べないでくれ……」
婦警さんはなんだかそんなことをボソボソと必死でつぶやいていた。
どうやらゾンビが目の前からいなくなったことに気付いていないようである。
「あ……もしもし?」
俺が大きめの声で呼びかけると、ビクッと反応して婦警さんはようやく顔をあげた。
「あ……え……? ぞ、ゾンビは?」
キョトンとした顔で、警棒を握りしめながら婦警さんは俺を見つめている。
「あ……いなくなりました。もう大丈夫です。立てますか?」
「え……あ、ああ。大丈夫だ……」
呆然としつつも婦警さんはようやく立ち上がった。
「良かった。えっと……警察の人、ですよね?」
「え? あ、ああ……一応は、そうだ」
「そうですか。実は僕はこの近くの家に住んでいるんです。良かったら休んでいきませんか?」
「え!? 君、家に住んでいるって……に、人間なのか!?」
婦警さんはそういって俺のことをまじまじと見てきた。
割と美人系な顔の婦警さんだったので、そんな風に見つめられるとすこし恥ずかしくなってしまった。
「え、ええ。まぁ……」
「そ、そうか……よかったぁ……まだ人間が生き残っていて――」
婦警さんが嬉しそうにそう言った。
その時だった。
「あかい、くん」
小室さんの声が聞こえてきた。




