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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター7
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闇夜の探索 6

「あー……あー」


 俺の先頭の小室さんは、まぎれもなくゾンビらしいうめき声をあげながら、前へ進んでいく。


「あ……あー……」


 その後を、俺はどことなくぎこちないながらもゾンビを装い、ゆっくりと小室さんの背後をついていく。


 中年ゾンビは相変わらず街灯の下で立ったままだ。動こうとする気配は感じられない。


 俺はなるべくそちらを見ないようにしながら、小室さんの背中だけを見て歩いた。


「あー……あー……」


 小室さんが中年のゾンビの前を通過する。


 ゾンビは……何も反応しなかった。そして、その後を俺が通過。


「あ……うー……」

 俺の適当なうめき声に中年ゾンビはちらりとこちらを見たようだった。


 もしかすると俺の気のせいだったかもしれない。


 しかし、そう思った瞬間、俺の心臓は高く跳ねた。


 だが、ここで止まるわけにはいかない。


 俺はそのまま気にせずにゆっくりと歩いていく。中年ゾンビはこちらを見ているのかいないのか、よくわからなかった。


 そして、それから数メートル、少なくとも中年ゾンビの視界からいなくなる数メートル先の曲がり角まで、俺はゾンビの真似をし続けた。


 だから、なんとか曲がり角を曲がった時には、大きくため息をついてしまったのだった。


「な……なんとか、助かった……」


 結局、中年ゾンビは終止動く素振りさえ見せることなく街灯の下に突っ立ったまままだった。


「おつかれ。おみごと」


 小室さんが抑揚のない声で俺を労ってくれた。


「あ、あはは……」


 ゾンビの真似をお見事といったのだろうが、それを褒められてもあまりうれしくない。


 とにかく、さっさと公園に急いだ方がいい。


「自転車は置いてきちゃったけど……公園まで後数メートルだ。急ごう」


「でも、わたし……」


 小室さんは申し訳なさそうにうつむいてしまった。


 ……そうだ。小室さんは走ることが出来ない。急ごうなんてセリフは何も考えずに行ってしまった結果だ。


 だけど、今は一刻も早く古谷さんを見つけ出さなければいけない。だとすれば、俺ができることとすれば……


「……小室さん、その……少し我慢してね」


「え。なに」


 俺はそう言うが早いか、小室さんの手を握ると、そのまま走り出した。

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