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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター29
204/204

鍵を握る人 4

「では、行こうか」


 平野は何事もなかったかのように歩き出した。その後には、動かなくなってしまった椿先生が横たわっている。


「……そんな……こんな……」


 俺はただ、それを見ていることしかできなかった。小室さんも、古谷さんも、紫藤さんも哀しそうな顔で椿先生を見ている。


「……あの野郎。イカれてやがる」


 紫藤さんが忌々しげにそう言った。俺もそう思う。


「君たち、何をしているんだ? ワクチン、いらないのか?」


 平野が呼ぶ。ワクチン……それを聞いて、俺は我に返った。


 そうだ。椿先生はワクチンという言葉のせいで、平野を撃てなかった。


 それならば、仮に嘘だとしても、俺たちがワクチンを手に入れなければならない。


「……行こう。みんな」


「え……でも……」


 古谷さんが驚いた顔で俺を見る。


「……ワクチン、手に入れなきゃ。椿先生が浮かばれない」


 そういって、俺は開いたままになっていた椿先生の目を閉じる。小室さんは未だに哀しそうな顔で椿先生を見ていた。


「早く来い」


 平野がまたしてもそういう。俺たちは渋々椿先生の遺体を置いて、白い建物の中に入るしかなかった。


 白い建物中は……予想通り、研究所のような施設だった。しかし、随分と荒れ果てている。電気がついているので、おそらくまだ使用することは出来るのだろうが。


「おい。粗暴なモルモット」


 そういって、平野が紫藤さんを見る。


「……なんだよ。クソ野郎」


「お前、1番前を歩くんだ。まだ所内にゾンビがいるかもしれないからな」


「はぁ? てめぇ……」


「いいのか? ワクチン、てにはいらないぞ?」


 平野は俺達が拒絶することが出来ない事を理解した上で行動している……俺たちは平野に逆らえない状況にいることを強く理解した。


「……まだゾンビがいるって……ここは研究所では?」


 俺の質問には答えるつもりはあるようで、平野は俺に優しく微笑む。


「ああ。だが、こんな場所で実験していてもしょうがない。するなら大規模にやろうと思ってね……ウィルスに関した人間が更に感染者を増やし……あっという間に広がったんだ。本当に強力なウィルスだよ」


「……ちょっと待ってください。その言い方だと、もしかして、こんな風に世界がなったのは……」


 俺がそう言うと平野は当然だという顔で俺を見る。


「ああ、もちろん、私がそうなるようにしたんだ。まずは第1段階……そして、それが広まることが第二段階。更に君たちの存在のおかげで私の実験は最終段階に突入するんだ」


 そういって、それこそ、実験動物を見るかのような目で平野は俺たちを見る。


「……それじゃあ、全部アナタのせいで……」 


 信じられないという顔で古谷さんが平野を見る。


「ああ。そうだ。全部私のせいだ。君たちが人間とゾンビの間の中途半端な存在になっているのもそのせいだ……しかし――」


 そういってから、ニンマリと嬉しそうな顔で平野は小室さんを見る。


「……人類を次の段階へと導いてくれる存在も出来上がったわけだ」


 平野さんにそう言われ、小室さんは珍しく、険しい表情をゆっくりと作り、平野を睨んでいた。

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