鍵を握る人 1
俺たち三人は勢い良く非常口から飛び出した。
既に学校には煙が回っているのか……どことなく煙臭い。
「ようやく来たか。モルモット君達」
と、声が聞こえてきた。俺たち四人は声のした方向に顔を向ける。
「……平野……さん」
見ると、そこには……先程、校内放送で驚愕の真実を伝えてきた張本人……平野アサミがいた。
そして、その隣には……
「椿……先生」
「あ……君たち……良かった……無事……だったのね」
不安そうな顔で椿先生が俺たち四人のことを見ている。しかし、そのこめかみには、平野さんが持った銃が突きつけられていた。
「おっと。動くなよ? 迂闊に動くと、コイツも死ぬことになるからな?」
平野さんはゲスな笑みを浮かべて俺たちを見ている。
「てめぇ……ヤブ医者。何が目的だ?」
紫藤さんが苛ついた様子でそう言う。しかし、平野さんは不敵な笑みを浮かべたままである。
「目的? フッ……簡単だ。私の目的は……治療だ」
治療……確かに平野さんはそう言った。俺たち四人の脳内には同時にクエスチョンマークが浮かぶ。
「治療って……何の治療ですか?」
古谷さんが不思議そうな顔でそう言う。平野さんは椿先生のこめかみに銃を突きつけたままでつまらなそうな目で俺たちを見る。
「わからないだろうなぁ、君たちには。だが、君たちは必要なモルモットだ。だからこそ、私は早々に学園から退散して、君たちのことを待っていたんだよ」
「待っていた? 必要なモルモット、って……」
未だに俺は理解できなかった。一体平野さんは何が目的でこんなことをしている。そもそもこの人は一体なんなのだ?
「……あかいくん」
と、小室さんが小声で俺に耳打ちしてきた。
「え……どうしたの? 小室さん」
俺も小さな声で小室さんに返事をする。
「……わからないけど……あのひと、なにかしってる」
「なにか、って……なにを?」
俺がそう言うと、小室さんは無表情のままで俺のことを見てきた。
「このせかい……このじょうきょうのこと。たぶん……しってる」
小室さんは冷静にそう言った。俺は最初は理解できなかったが……なんとなく小室さんの言っていることが理解できた。
確かに……どうして黒上さんはあんなにも平野さんのことを恐れていたんだ? 谷内もそうだ……一体平野さんは何を知っている?
もし、仮に平野さんがこの世界がこうなっている状況の鍵を握っていて、それを谷内が勘付いていたならば……
「君たち? 何を話している?」
と、平野さんが話しかけてきて、俺たちは今一度顔を声のする方に向ける。
「というわけで……車に乗ってくれ。運転はこの女がする」
「てめぇ……それじゃあ、その先公は人質ってわけかよ!」
紫藤さんが反論しようとすると、平野さんは椿先生のこめかみに銃口を強く押し付ける。椿先生は小さな悲鳴をあげる。
「モルモットが意見するなよ……この女が死ぬぞ?」
平野さんの表情は……本気だった。おそらく簡単に椿先生のことを殺してしまうだろう。
「くそっ……おい、赤井……」
「赤井さん……」
古谷さんと紫藤さんが不安そう俺に話しかけてくる。無論……こうなってしまっては選択肢はない。
「……あの人の言うとおりにしよう。それに……」
俺は小室さんの方を向く。小室さんは何も言わずに小さく頷く。
「俺も……平野さんが何か知っている……そんな気がするから」
そういって、俺たちは平野さんの言うとおりに車の方に近づいていく。
「よし……ああ、おい。そこの粗暴なモルモット」
と、車に近づいてきた紫藤さんに向かって平野さんがそういう。
「……あ? てめぇ……まさか、俺に言ってんのか?」
紫藤さんは怒りの表情で平野さんを見る。
「そうだ。君はトランクの中に入れ。人数オーバーだからな」
「てめぇ……俺は荷物じゃねぇぞ……!」
今にも紫藤さんは怒り出してしまいそうだ……当たり前だと思うけど。
「あ……それなら、俺が……」
俺がそう言うと、平野さんは首を横に振る。
「ダメだ。赤井くん。君にはモルモット達の飼い主として話したいことがあるからな」
「え……」
俺が呆然としていると、平野さんはニンマリと微笑んだ。
「大丈夫。君は人間だ。私は人間とこの地球を治療する……そのための医者なのだからな」




