学園崩壊 4
「黒上さん、こっち!」
俺は黒上さんを半ば無理矢理に川本から引き離す。
血走った川本の視線は、未だに俺と黒上さんを捉えている。
「おいおい……あのヤブ医者が打ったのは、ワクチンじゃなかったのかよ?」
紫藤さんがそう言って、俺は思い出した。
そうだ……間違いなく平野さんは注射をしていた……それは確実に試作品のワクチンだと。
しかし、バスが爆破されている現状、そして、先程の校内放送……
「……あれは、試作品のワクチンなんかじゃなかったんじゃ……」
俺がそう言うと小室さん、古谷さん、紫藤さん……そして、黒上さんも絶望した表情で俺のことを見る。
「カイチョウ……オイシソウデスネェ……タベタイデスヨォ……ヒヒ……」
そうこうしている間にも、川本さんは不気味な言葉を発しながら、俺達の方に近づいてくる。
完全にゾンビ化してしまっているためか、動きが鈍いのが幸いであるが。
「でも……どうするんです? こっちには武器が……」
古谷さんの一言で俺は我に返る。
そうだ……ゾンビになっているとはいえ、相手はリーチの長い刀を振り回してくる……そして、川本さんを排除しなければ、緊急出口にはたどり着けない……
「くそっ……こっちはモップでアイツと戦わなきゃいけねぇのかよ!」
紫藤さんが忌々しそうにそう言う。モップではとても刀には対抗できない。
「あかいくん」
と、そこへ、一番落ち着いた声が聞こえてきた。俺もその声に釣られて瞬間的に落ち着きを取り戻す。
「え……何? 小室さん」
すると、小室さんはゆっくりと、お仕置き部屋の中を指差す。
「あれ、ぶき」
そう言う小室さんの指先を追っていくと……いや、追っている最中に俺は思い出した。
このお仕置き部屋では……チェーンソーを持った椿先生と対峙していたのだ。
そして、運が良いのか悪いのか……そのチェーンソーは未だに教室の中に放置されていたのである。
「紫藤さん! チェーンソーだ!」
俺がそう言うと紫藤さんも思い出したらしい。
「お、おお……だけどよ……こんな教室の中に……大体コイツの相手もしなきゃいけないだろうが……」
確かに……既にチェーンソーが置いてある教室の中は……ゾンビで満員である。そんな中に入っていくのは……自殺行為だ。
かといって、このままでは確実に刀で全員やられてしまう……だとするならば、まだ教室の方が……
「……わかった! 俺が取ってくる!」
「わ……私も行く!」
と、俺がそう言うと予想外の反応が帰ってきた。それは……黒上さんの声だった。
「てめぇ……馬鹿か! あのゾンビはてめぇを狙っているんだろうが! てめぇがいなくなったらアイツは――」
「だまりなさい!」
と、そういって、黒上さんは紫藤さんに銃口を向ける。
「川本……いいえ……あのゾンビはアンタ達がなんとかしなさい! それともここで今脳みそふっ飛ばしてほしいわけ!?」
錯乱状態でそういう黒上さん……俺は何も言えなかった。
紫藤さんだけが、怒りの表情で黒上を睨みつけた後で、そのまま俺の方を見る。
「……赤井。さっさと武器とってきてくれ」
「あ……わ、わかった! すぐ戻るから!」
俺はそういって走り出した。そして、後から黒上さんも何言わずに俺のあとを付いてきたようだった。




