哀れな剣士
「……ったく、どうすんだよ?」
廊下に出てから、紫藤さんが呆れ顔で俺にそう言う。
「あ、あはは……だよね」
「はぁ……お前のそういう所、俺は嫌いじゃないけどよぉ……今回は別だぜ?」
紫藤さんの言うとおりだ。バスには爆弾が仕掛けられている。
そして、そのスイッチを持っているのは生徒会の谷内なのだ。
「そうだね……どうしよう」
「考えてなかったのかよ……ったく。まぁ、仕方ねぇ。とりあえず、あのヤブ医者の所に戻ろうぜ」
「き、キサマら……な、ナニをシテイル……?」
と、紫藤さんの背中越しに聞こえてきたのは、地獄の底から響くような声が聞こえて来た。
「あ……か、川本……さん?」
思わず俺は「さん」付けしてしまうくらいに驚いて、目を丸くしてしまった。
以前の凛とした様子はすでに面影もなく、青い白い顔に汗を滝のように書いて、剣を杖代わりにしながら、ヨロヨロと歩いてくる。
「ああ……どうやら、限界みたいだな」
紫藤さんが無関心そうにそう言う。
「き、キサマラ……モチバに……モドレ……」
そういって、剣を振り上げようとするが、バランスを失い、川本さんはそのまま廊下に倒れてしまった。
「え……ちょ、ちょっと……」
「放っておけ。コイツがこのままの方がこれから楽だろ」
そういって紫藤さんは歩いて行ってしまう。
確かにそうだが……俺は思わず川本の方を見る。
「か、カイチョウ……わ、ワタシガ……オマモリスル……」
うわ言のようにそうつぶやく川本さん。なんだか、可哀想にさえ思えてくる。
川本さんはこう言っているが……もし、彼女が完全にゾンビになってしまったら、あの生徒会長はどうするのか。
おそらく、簡単に切り捨てるのだろう。黒上は自分にとって役に立たない存在、害をなす存在は簡単に切り捨てる……
そう思うと、俺は思わず川本さんの身体を抱きかかえていた。
「な、ナニヲスル……?」
「黙って。今、保健室に行くから」
「……おいおい。マジかよ」
紫藤さんが大きくため息をつきながら俺にそう言う。
「……大丈夫。俺だって少しは考えているよ」
「本当かよ? ったく……ほら、こっちの肩持ってやるから。さっさとコイツ、ヤブ医者の所に連れてくぞ」
そういって俺と紫藤さんは、川本さんを連れて保健室に戻ったのだった。




