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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター29
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哀れな剣士

「……ったく、どうすんだよ?」


 廊下に出てから、紫藤さんが呆れ顔で俺にそう言う。


「あ、あはは……だよね」


「はぁ……お前のそういう所、俺は嫌いじゃないけどよぉ……今回は別だぜ?」


 紫藤さんの言うとおりだ。バスには爆弾が仕掛けられている。


 そして、そのスイッチを持っているのは生徒会の谷内なのだ。


「そうだね……どうしよう」


「考えてなかったのかよ……ったく。まぁ、仕方ねぇ。とりあえず、あのヤブ医者の所に戻ろうぜ」


「き、キサマら……な、ナニをシテイル……?」


 と、紫藤さんの背中越しに聞こえてきたのは、地獄の底から響くような声が聞こえて来た。


「あ……か、川本……さん?」


 思わず俺は「さん」付けしてしまうくらいに驚いて、目を丸くしてしまった。


 以前の凛とした様子はすでに面影もなく、青い白い顔に汗を滝のように書いて、剣を杖代わりにしながら、ヨロヨロと歩いてくる。


「ああ……どうやら、限界みたいだな」


 紫藤さんが無関心そうにそう言う。


「き、キサマラ……モチバに……モドレ……」


 そういって、剣を振り上げようとするが、バランスを失い、川本さんはそのまま廊下に倒れてしまった。


「え……ちょ、ちょっと……」


「放っておけ。コイツがこのままの方がこれから楽だろ」


 そういって紫藤さんは歩いて行ってしまう。


 確かにそうだが……俺は思わず川本の方を見る。


「か、カイチョウ……わ、ワタシガ……オマモリスル……」


 うわ言のようにそうつぶやく川本さん。なんだか、可哀想にさえ思えてくる。


 川本さんはこう言っているが……もし、彼女が完全にゾンビになってしまったら、あの生徒会長はどうするのか。


 おそらく、簡単に切り捨てるのだろう。黒上は自分にとって役に立たない存在、害をなす存在は簡単に切り捨てる……


 そう思うと、俺は思わず川本さんの身体を抱きかかえていた。


「な、ナニヲスル……?」


「黙って。今、保健室に行くから」


「……おいおい。マジかよ」


 紫藤さんが大きくため息をつきながら俺にそう言う。


「……大丈夫。俺だって少しは考えているよ」


「本当かよ? ったく……ほら、こっちの肩持ってやるから。さっさとコイツ、ヤブ医者の所に連れてくぞ」


 そういって俺と紫藤さんは、川本さんを連れて保健室に戻ったのだった。

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